
今回は、肘内側側副靱帯(UCL)損傷について、症状・検査・治療・リハビリテーション・スポーツ復帰までの流れをわかりやすく解説します。
肘UCL損傷は、野球などの投球・投擲動作を繰り返す選手に多くみられる肘の内側のケガです。ラグビーや柔道などで肘に強い力が加わった際に、急性外傷として起こることもあります。
損傷の程度や部位、競技特性によって治療方針は異なり、保存療法で復帰を目指す場合もあれば、手術が検討される場合もあります[1]。
この記事でわかること
✅ 肘UCL損傷とはどのようなケガか
✅ 投球時の肘内側痛など主な症状と受診の目安
✅ 病院で行う検査と治療の考え方
✅ 保存療法・手術後のリハビリとスポーツ復帰
肘の痛み全体を整理したい方は、↓の記事もあわせてご覧ください。
肘内側側副靱帯(UCL)損傷とは?
肘内側側副靱帯は、肘の内側にある靱帯です。海外文献ではUCL(ulnar collateral ligament)と呼ばれることが多く、MCL(medial collateral ligament)と表記されることもあります。
UCLは、肘が外側へ開くような外反ストレスに対して肘を支える重要な組織です。特に前方の線維束は、投球などで肘に大きな外反ストレスが加わる場面で重要な役割を担います[1]。

損傷の起こり方は、大きく分けて2つあります。野球の投手や槍投げ選手のように投球・投擲を繰り返し、少しずつ靱帯へ負担が蓄積するケースと、ラグビー・柔道・体操競技などで一度に強い外反ストレスが加わるケースです。
転倒や接触では、UCL損傷だけでなく骨折や肘関節脱臼を伴うこともあります。

主な症状と受診の目安
代表的な症状は、投球・投擲時の肘の内側の痛みです。繰り返し投げるうちに痛みが強くなったり、以前と同じように投げにくくなったりすることがあります。
急性損傷では、転倒や接触の直後から肘の内側に痛みや腫れが出ることがあります。損傷後は肘を伸ばしきれない、曲げにくいなどの可動域制限を伴う場合もあります。
また、肘の内側には尺骨神経が通っています。周囲の腫れや神経への刺激が加わると、小指・薬指側のしびれ、握力低下、指の動かしにくさなどがみられることがあります。
医療機関への相談を考えたい症状
- 投球時や投球後の肘内側痛が繰り返す
- 転倒・接触後に強い痛みや腫れ、変形がある
- 肘が十分に曲がらない、伸びない状態が続く
- 小指・薬指側のしびれや握力低下がある
- 投球やスポーツ動作で肘が抜けるような不安感がある
これらはUCL損傷だけにみられる症状ではありません。肘の内側の痛みには、ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)や尺骨神経障害などが関係することもあります。
特に成長期の投球選手では、成人のUCL損傷と同じような肘内側痛でも、内側上顆の成長軟骨の障害や裂離骨折などが原因となることがあります。痛みが続く場合は自己判断で投球を続けず、スポーツ整形外科などで評価を受けることを検討してください[2]。
病院で行う検査
まず、けがをした状況や投球歴、どの動作で痛むのかを確認します。肘の内側を触って痛みの場所を確認し、可動域や筋力、神経症状なども評価します。
UCLの状態を確認するために、肘へ外反ストレスを加える検査やmoving valgus stress testなどが行われることがあります。ただし、これらの検査だけで自己診断することはできません。
レントゲン検査では、骨折や裂離骨折、成長期の骨の異常などを確認します。MRI検査ではUCLの損傷部位や程度、周囲組織の状態を詳しく評価します。投球競技を続ける選手や、画像所見によって治療方針が変わる可能性がある場合にはMRIなどの画像検査が重要になります[1]。
エコー検査では靱帯や周囲組織を観察できるほか、肘に外反ストレスを加えながら関節の開き方を動的に評価することもあります。実際には症状、診察所見、画像検査を組み合わせて治療方針を判断します。
肘UCL損傷の治療
治療方法は、損傷の程度や部位、肘の不安定性、年齢、競技・ポジション、競技レベルなどを踏まえて決めます。
部分損傷などでは、まず保存療法が検討されることがあります。痛みを誘発する投球や外反負荷を一時的に調整し、肘の可動域や前腕の筋力、肩甲骨・体幹などを段階的に整えて競技復帰を目指します。
保存療法後のスポーツ復帰率は損傷の程度や部位によって異なり、軽度の損傷や近位部の損傷では比較的良好な成績が報告されている一方、重度の損傷や遠位部の損傷では保存療法だけでの復帰が難しい場合があります[3]。
肘の不安定性が強い場合や、保存療法を行っても競技レベルでの投球が難しい場合などには、手術が検討されます。代表的なのが、損傷した靱帯を腱で再建するUCL再建術(トミー・ジョン手術)です。
損傷の部位や靱帯組織の状態によっては、靱帯を修復する手術が選択されることもあります。どの方法が適しているかは、競技特性や損傷形態を含めて専門医と検討します[1]。
肘UCL損傷のリハビリテーション
リハビリでは、単純に「受傷後○週だから次へ進む」のではなく、痛み・可動域・筋力・競技動作への反応を確認しながら段階的に負荷を上げていくことが大切です。
UCL損傷のリハビリ方法や進行時期には研究間でも幅があります。損傷の程度や治療方法によって経過が大きく異なるため、個々の状態に合わせて進めます[4]。
リハビリを進めるチェックポイント
✅ 痛みや腫れが悪化していない
✅ 肘の曲げ伸ばしが回復している
✅ 前腕・肩周囲に負荷をかけても肘内側痛が出ない
✅ 運動後から翌日に症状が増えていない
保存療法のリハビリテーション
① 患部を保護し、症状を落ち着かせる
投球・投擲や強い外反ストレスなど、痛みを誘発する負荷を一時的に減らします。急性期に痛みや腫れが強い場合は、必要に応じて冷却などを症状管理として使用します。
肘を固定する必要があるかどうかは損傷の程度によって異なります。自己判断で長期間動かさずにいるのではなく、医師やリハビリ担当者の指示に合わせて進めましょう。
この段階で、姿勢の改善や肩甲骨のエクササイズなどを進めていきます。
② 肘の可動域と前腕の筋力を回復する
症状をみながら肘の曲げ伸ばしを少しずつ回復させます。同時に、浅指屈筋や尺側手根屈筋などを含む前腕屈筋群を、痛みのない負荷から段階的にトレーニングしていきます。
肘だけではなく、肩・肩甲骨・体幹の筋力や動きも確認します。投球競技では、下半身から体幹、肩、肘へ効率よく力を伝えられることが重要です。
③ 上肢で体重を支える動作へ進める
肘の痛みや可動域が改善し、筋力トレーニングで症状が出なければ、四つ這いや壁を使ったプッシュ動作などから上肢へ体重をかける練習を開始します。その後、必要に応じて腕立て伏せなどへ負荷を上げていきます。
④ 競技動作を段階的に戻す
投球選手ではシャドーピッチングなどでフォームを確認し、その後は短い距離・低い強度から段階的な投球プログラムへ進みます。ラグビーなどのコンタクト競技でも、軽い接触から徐々に実戦に近づけていきます。
投球フォームを詳しく確認したい方は、投球フォームの基本|ケガにつながる不良フォームと改善ポイントも参考にしてください。
手術後のリハビリテーション
UCL再建術や修復術後のリハビリは、術式や執刀医のプロトコルを優先して進めます。術後早期は装具などで患部を保護しながら、許可された範囲で少しずつ肘の可動域を回復させます。

その後は、肘・前腕の筋力に加えて、肩・肩甲骨・体幹のトレーニングを進めます。肘が安定し、必要な筋力が回復してきたら、四つ這いやプッシュアップなどの上肢荷重、ウエイトトレーニング、競技動作へと段階的に移行します。
投球の開始時期にもプロトコルによる違いがあります。近年のシステマティックレビューでは、UCL再建術後の投球プログラム開始時期は平均約4か月でしたが、研究間のばらつきが大きいため、この時期をすべての選手へそのまま当てはめることはできません[4]。
投球距離・球数・強度を少しずつ上げ、各段階で肘の反応を確認します。術後は「何か月経過したか」だけでなく、可動域・筋力・投球動作・症状の反応などを確認しながら復帰を判断することが大切です。
スポーツ復帰の目安
スポーツ復帰の時期は、保存療法か手術療法かだけでなく、損傷の程度、競技、ポジションによって大きく異なります。特に投球競技では、痛みがなくなっただけでは復帰の判断として十分ではありません。
復帰に向けて、主に以下を確認します。
- 日常生活や肘の曲げ伸ばしで痛み・腫れがなく、必要な可動域が回復している
- 前腕・肩周囲の筋力を十分に発揮しても肘内側痛が出ない
- 投球・投擲・上肢荷重・コンタクトなど競技に必要な動作を段階的に行える
- 練習後や翌日に痛み、張り、可動域低下が悪化しない
- 医師やリハビリ担当者と段階的な競技復帰について確認できている
UCL再建術後の野球選手を対象としたシステマティックレビューでは、メジャーリーグ投手の競技復帰はおよそ12か月、同じ競技レベルへの復帰はおよそ15か月と報告されています。ただし、これはプロ野球選手のデータであり、すべての競技・選手に同じ期間が当てはまるわけではありません[5]。
復帰後も投球量や運動強度を急に元へ戻さず、徐々に負荷を増やしていきます。球速だけではなく、肘の症状、フォーム、運動後の反応などを含めて全体的に評価することが重要です[1]。
まとめ
- 肘UCL損傷は、投球・投擲の繰り返しや急性の外反ストレスによって起こります。
- 投球時の肘内側痛が続く場合や、強い腫れ・可動域制限・小指側のしびれがある場合は医療機関での評価を検討しましょう。
- リハビリは期間だけで進めず、可動域・筋力・競技動作と運動後の症状反応を確認しながら段階的に進めます。
- スポーツ復帰では肘だけでなく、肩甲骨・体幹・股関節を含めた全身の動きや競技負荷まで確認することが大切です。
参考文献
[1]Erickson BJ et al. Elbow Ulnar Collateral Ligament Tears: A Modified Consensus Statement. Arthroscopy. 2023;39(5):1161-1171. PubMed ID: 36796550
[2]DeFroda S et al. Shoulder and Elbow Injuries in the Adolescent Throwing Athlete. R I Med J (2013). 2020;103(7):21-29. PubMed ID: 32872686
[3]Gopinatth V et al. Return to Sport After Nonoperative Management of Elbow Ulnar Collateral Ligament Injuries: A Systematic Review and Meta-analysis. Am J Sports Med. 2023;51(14):3858-3869. PubMed ID: 36876746
[4]Buchanan TR et al. Rehabilitation Protocols in Elbow Medial Ulnar Collateral Ligament Injuries: A Systematic Review of Articles Published in the Last 20 Years. Sports Health. 2025;17(3):460-469. PubMed ID: 38702939
[5]Thomas SJ et al. Return-to-Play and Competitive Outcomes After Ulnar Collateral Ligament Reconstruction Among Baseball Players: A Systematic Review. Orthop J Sports Med. 2020;8(12):2325967120966310. PubMed ID: 33748295


