
スポーツ中に脇腹や背中を強くぶつけた後、腰の横が痛い、血尿が出た、気分が悪いといった症状がある場合、腎臓損傷が隠れている可能性があります。
腎臓損傷は頻度の高いケガではありませんが、重症化すると出血や尿の漏れなどを伴うことがあり、自己判断でプレーを続けるのは危険です。
特にラグビー、サッカー、柔道、アメリカンフットボール、自転車競技、スキー・スノーボードなどでは、脇腹や背中への強い衝撃で腎臓にダメージが加わることがあります。
この記事では、スポーツ関連の腎臓損傷について、症状、受診の目安、病院で行う検査、治療方針、スポーツ復帰の考え方をわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- スポーツ中に起こる腎臓損傷の原因
- 脇腹の痛みや血尿が出たときの注意点
- 病院で行う検査と治療方針
- リハビリとスポーツ復帰の考え方
- すぐに受診すべき赤旗サイン
スポーツ中の腰部の痛みについて知りたい方は、関連するの腰部の痛みの記事もあわせて確認してみてください。
目次
腎臓損傷(スポーツ関連)とは?
腎臓損傷とは、脇腹や背中への強い衝撃などによって、腎臓の組織や血管、尿の通り道が損傷する外傷です。
腎臓は左右の背中側、肋骨の下あたりに位置しており、血液をろ過して尿を作る重要な臓器です(図1)。スポーツ中にこの部位へ強い外力が加わると、腎臓が圧迫されたり、裂けたり、血管が損傷したりすることがあります。

腎損傷は、軽い打撲や腎挫傷のような軽症例から、腎臓が深く裂ける腎裂傷、血管損傷、尿漏れを伴う重症例まで幅があります。
腎外傷の重症度はAAST分類などで評価され、Grade 1〜5に分けられます。一般的にGrade 4〜5は高グレード腎損傷とされ、慎重な管理が必要になります[1]。
スポーツ中の腎臓損傷は多くの場合、脇腹や背中への強い打撲がきっかけになります。血尿がある場合はもちろん、血尿がなくても強い痛みが続く場合は注意が必要です。
腎臓損傷はなぜ起こる?原因と受傷メカニズム
スポーツ関連の腎臓損傷は、主に鈍的外傷によって起こります。鈍的外傷とは、刃物などで刺さるケガではなく、ぶつかる・転倒する・圧迫されるなどの外力で内臓が損傷するケガです。
腎臓は背中側にありますが、完全に骨で守られているわけではありません。そのため、脇腹や背中に強い衝撃が加わると、肋骨や背骨との間で腎臓が圧迫され、損傷が起こることがあります。
EAUガイドラインでは、腎外傷は全外傷の最大5%程度にみられ、交通事故、転倒、スポーツ外傷、暴力などによる鈍的外傷で起こるとされています[2]。
スポーツで起こりやすい受傷機転
- ラグビーやアメリカンフットボールで脇腹にタックルを受ける(図2)
- サッカーやバスケットボールで転倒し、背中や脇腹を強打する
- 柔道や格闘技で投げられて背中から落ちる
- 自転車で転倒し、ハンドルや地面に腹部・脇腹をぶつける
- スキー・スノーボードで転倒し、腰背部を強く打つ

腎臓損傷が起こりやすいスポーツ・シーン
腎臓損傷は、接触や転倒を伴うスポーツで生じやすいとされています。
スポーツ関連の腎外傷についてまとめた報告では、接触・衝突スポーツだけでなく、自転車、スキー、スノーボードなどの転倒を伴うスポーツでも高グレードの腎損傷が生じることがあるとされています[3]。
コンタクトスポーツ
- ラグビー
- アメリカンフットボール
- サッカー
- 柔道
- 格闘技
転倒・衝突が起こりやすいスポーツ
- 自転車競技
- スキー
- スノーボード
- スケートボード
- 体操競技
「コンタクトスポーツだから危ない」というだけではなく、転倒して脇腹や背中を強く打つスポーツでも腎臓損傷は起こり得ます。
腎臓損傷のよくある症状
- 脇腹の痛み
- 背中・腰の横の痛み
- 血尿
- 腹部痛
- 吐き気・気分不良
- 冷や汗、めまい
- 強い痛みによる動きづらさ
腎臓損傷で特に注意したい症状は、血尿と脇腹・背中の強い痛みです(図3)。
ただし、血尿があるから必ず重症、血尿がないから安全、という単純な判断はできません。EAUガイドラインでは血尿は腎外傷の重要な所見ですが、腎盂尿管移行部損傷や腎血管損傷などでは血尿が目立たないこともあるとされています[2]。

症状が似ているケガ
脇腹や背中の痛みは、腎臓損傷以外のケガでも生じます。
- 肋骨骨折
- 腹部打撲
- 腰椎横突起骨折
- 腹斜筋損傷
- 腰部筋筋膜性疼痛
腎臓損傷のセルフチェック
腎臓損傷は、セルフチェックだけで診断することはできません。最終的な判断には、病院での診察、尿検査、血液検査、CT検査などが必要です。
ただし、受診が必要かどうかを判断するために、以下の項目は確認しておきましょう。
セルフチェックのポイント
- 脇腹や背中を強くぶつけた
- 尿が赤い、茶色い、ピンク色に見える
- 脇腹や腰の横の痛みが強い
- 痛みが時間とともに強くなっている
- 吐き気、冷や汗、めまいがある
- 立っているのがつらい
- 受傷後に元気がなく、顔色が悪い
上記に当てはまる場合は、自己判断で様子を見ずに医療機関を受診しましょう。
すぐに受診すべき赤旗サイン
- 肉眼的血尿がある
- 強い脇腹痛・背部痛がある
- 冷や汗、めまい、ふらつきがある
- 顔色が悪い
- 腹部の痛みが強い
- 意識がぼんやりしている
- 呼吸が苦しい
- 痛みが強く歩けない
- 発熱がある
特に血尿、強い脇腹痛、めまい・冷や汗がある場合は要注意です。試合や練習を続けず、すぐに医療機関で確認してもらいましょう。
病院で行う腎臓損傷の検査
腎臓損傷が疑われる場合、病院では全身状態と腎臓の状態を確認します。特に、血圧や脈拍などのバイタルサインは重要です。
診察・問診
どのように受傷したのか、どこをぶつけたのか、血尿の有無、痛みの強さ、吐き気やめまいの有無などを確認します。
尿検査
血尿の有無を確認します。尿が赤く見える肉眼的血尿だけでなく、見た目ではわからない顕微鏡的血尿が確認されることもあります。
血液検査
出血の程度、腎機能、炎症反応などを確認します。ヘモグロビンやヘマトクリット、クレアチニンなどが評価されることがあります。
CT検査
腎臓損傷の評価で重要となる画像検査はCT検査です。EAUガイドラインでは、腎外傷が疑われる安定した外傷患者において、CTは損傷の重症度や合併損傷の確認に有用とされています[2]。
特に、肉眼的血尿、血圧低下を伴う顕微鏡的血尿、急激な減速外傷、腎外傷を疑う臨床所見がある場合には、CT検査が推奨されています[2]。
超音波検査
超音波検査は出血や腹腔内液体貯留の確認に用いられることがありますが、腎臓損傷の詳細な評価ではCT検査より情報が限られる場合があります[2]。
腎臓損傷の治療方針
腎臓損傷の治療方針は、損傷の重症度、出血の状態、血圧などの全身状態、合併損傷の有無によって決まります。
WSES-AASTガイドラインでは、腎・尿路外傷の治療では解剖学的な損傷の程度だけでなく、血行動態の安定性や合併損傷を考慮することが重要とされています[1]。
保存療法
血圧が安定しており、重篤な出血がない場合、多くは保存療法で管理されます。保存療法では、安静、経過観察、血液検査、尿検査、必要に応じた再画像検査などを行います。
EAUガイドラインでは、安定した鈍的腎外傷では多くが非手術的に管理され、Grade 1〜3は原則として非手術的管理、Grade 4でも多くは保存的に管理されるとされています[2]。
選択的血管塞栓術(IVR)
CTで活動性出血が疑われる場合などでは、血管内治療として選択的血管塞栓術が行われることがあります。これは、出血している血管をカテーテルで止血する治療です。
手術療法
血圧が不安定で出血がコントロールできない場合、腎臓の血管損傷が重度な場合、他の臓器損傷を伴う場合などでは手術療法が必要になることがあります。
ただし近年は、可能な範囲で腎臓を温存する方針が重視されており、状態によって保存療法や血管塞栓術が選択されることがあります[1]。
腎臓損傷の治療は、痛みの強さだけで決めるものではありません。CT所見、血尿、血圧、血液検査、全身状態を合わせて判断します。
腎臓損傷のリハビリテーション
腎臓損傷後のリハビリは、一般的な筋肉や靭帯のケガとは異なります。まずは腎臓の状態が安定していることが最優先です。
自己判断で運動を再開することは避け、必ず医師の許可を得てから段階的に進めましょう。
リハビリを進めるためのチェックポイント
- 血尿が悪化していない
- 脇腹・背中の痛みが悪化していない
- 発熱がない
- めまいや冷や汗がない
- 血液検査・画像検査で医師から許可が出ている
- 運動後・翌日に症状がぶり返さない
リハビリ前期:安静・日常生活管理の時期
目的は、出血や痛みを悪化させず、全身状態を安定させることです。
- 医師の指示に従った安静
- 痛み、血尿、発熱の確認
- 日常生活動作の範囲を確認
- 無理な体幹運動や腹圧がかかる動作を避ける
この時期は「鍛える」よりも、悪化させないことが最優先です。
リハビリ中期:軽い活動を再開する時期
痛みや血尿が落ち着き、医師から許可が出た場合に、軽い活動から再開します。
- 短時間の歩行
- 軽いストレッチ
- 呼吸エクササイズ
- 痛みのない範囲での日常生活動作
腹圧が強くかかる筋トレや、ジャンプ、ダッシュ、コンタクト動作はまだ避ける必要があります。
リハビリ後期:トレーニング再開の時期
症状が安定し、検査でも問題がない場合に、徐々に運動強度を上げていきます。
- ウォーキングから軽いジョギング
- 自重での下肢トレーニング
- 軽い体幹トレーニング
- 競技に近い低強度の動作練習
この段階でも、脇腹痛や血尿が再出現した場合はすぐに中止し、医師に相談しましょう。
復帰期:競技復帰を目指す時期
コンタクトスポーツや転倒リスクのある競技では、復帰判断を特に慎重に行います。
- ランニング強度の段階的な増加
- 方向転換・ジャンプ動作の確認
- 競技動作で痛みがないことの確認
- 練習後・翌日の症状確認
- コンタクト練習は医師の許可後に段階的に再開
腎臓損傷では「痛くないから復帰」では不十分です。血尿の消失、画像所見、全身状態、主治医の許可を合わせて判断しましょう。
腎臓損傷後のスポーツ復帰目安
スポーツ復帰の時期は、腎損傷の重症度によって大きく異なります。
スポーツ関連の腎外傷を扱ったレビューでは、軽症〜中等症の腎損傷では数週間単位で運動復帰が検討されることがありますが、重症例では数か月単位の制限が必要になることがあるとされています[4]。
ただし、復帰時期はあくまで目安であり、実際には主治医の判断が必要です。
復帰判断で重要な基準
- 脇腹痛・背部痛がない
- 血尿がない
- 発熱がない
- 血液検査で大きな問題がない
- 画像検査で医師が復帰可能と判断している
- 軽い運動後・翌日に症状がぶり返さない
- コンタクト動作でリスク管理ができる
軽症例の復帰目安
軽症例では、症状や検査所見が落ち着いた後、ウォーキング、ジョギング、非接触練習、コンタクト練習の順に段階的に進めます。
中等症〜重症例の復帰目安
中等症以上の腎損傷では、復帰まで長期間を要することがあります。特に高グレード腎損傷では、画像検査での経過確認や腎機能の確認が重要になります。
腎臓損傷に関するFAQ
血尿が出たら必ず腎臓損傷ですか?
必ず腎臓損傷とは限りません。運動後の一時的な血尿や膀胱・尿道由来の出血などもあります。ただし、脇腹や背中をぶつけた後の血尿は腎損傷の可能性があるため、医療機関で確認することが大切です。
血尿がなければ腎臓損傷ではありませんか?
血尿がなくても腎臓損傷が完全に否定できるわけではありません。腎血管損傷や尿管周囲の損傷では血尿が目立たない場合があるとされています[2]。強い脇腹痛や背部痛がある場合は受診しましょう。
血尿が消えたらスポーツを再開してもよいですか?
血尿が消えたことは大切な回復サインですが、それだけで復帰を判断するのは危険です。痛み、画像所見、血液検査、医師の判断を含めて復帰を決める必要があります。
腎臓損傷は後遺症が残りますか?
軽症例では後遺症なく回復することが多いとされています。一方で、重症例では腎機能低下、高血圧、尿漏れ、感染などの合併症に注意が必要です。定期的なフォローが重要です。
腎臓が1つしかない選手はコンタクトスポーツをしてもよいですか?
単腎の選手のスポーツ参加は、リスク、競技特性、本人・保護者の理解、医師の判断を踏まえて個別に検討する必要があります。スポーツ参加の可否については一律に決めず、専門医とよく相談しましょう[5]。
まとめ
腎臓損傷は、スポーツ中に脇腹や背中を強くぶつけた際に起こる可能性がある内臓損傷です。
特に、血尿、強い脇腹痛、背中の痛み、めまい、冷や汗、腹痛などがある場合は、自己判断でプレーを続けず、早めに医療機関を受診することが大切です。
多くの腎損傷は保存療法で管理されることがありますが、重症度によっては血管塞栓術や手術が必要になることもあります。
スポーツ復帰は、痛みだけで判断せず、血尿の消失、画像検査、全身状態、医師の許可を確認しながら段階的に進めましょう。
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参考文献
[2]Morey AF et al. Urotrauma: AUA guideline. J Urol. 2014;192(2):327-335. PubMed ID: 24857651
[5]Holmes FC et al. Renal injury in sport. Curr Sports Med Rep. 2003;2(2):103-109. PubMed ID: 12831667
