
転倒して手をついたあと、「手首の親指側が痛い」「手を床につくと痛い」という症状が続く場合は、手舟状骨骨折が隠れていることがあります。腫れや変形が目立たず、初期のレントゲンでは分かりにくいこともあるため注意が必要です。この記事では、症状と受診の目安、検査、治療、リハビリ、スポーツ復帰までを分かりやすく整理します。
- 手舟状骨骨折で痛みが出やすい場所と受傷シーン
- 転倒後の手首の痛みで受診を考えたいサイン
- レントゲン・MRI・CT検査の違い
- 保存療法と手術療法の考え方
- リハビリとスポーツ復帰の進め方
手首や手の痛みには、骨折以外にも腱や靱帯、神経などさまざまな原因があります。
症状から考えられる疾患を確認したい方は、↓の記事も参考にしてください。
手舟状骨骨折とは?
舟状骨は、手首にある8個の手根骨のひとつで、親指側に位置しています(図1)。手首の動きや、手から前腕へ力を伝えるために重要な骨です。
手舟状骨骨折は、スポーツ中の転倒などで手のひらを地面について身体を支えたときに起こることが多い骨折です。手首が反った状態で強い力が加わることで、舟状骨に大きな負荷がかかります。

骨折する場所は、大きく遠位部、腰部、近位部に分けられます(図2)。
一般に遠位部ほど治りやすく、近位部ほど血流の影響などから骨癒合に時間がかかる傾向があります。ただし、実際の治りやすさは骨折部位だけでなく、骨折のずれ(転位)や安定性、治療方法などによっても変わり、それらを踏まえて治療方針が決められます[1]。

手首の親指側が痛い|主な症状と受診の目安
手舟状骨骨折では、手首の親指側に痛みが出やすいことが特徴です。特に、親指の付け根から手首にかけてのくぼみである「解剖学的嗅ぎタバコ窩」周辺に圧痛がみられることがあります(図3)。
- 転倒して手をついてから、手首の親指側が痛い
- 床や机に手をつくと痛い
- 手首を反らしたり、物を強く握ったりすると痛い
- 親指側の手首を押すと痛い
- 数日たっても手首の痛みが残っている
ただし、これらの症状があるからといって、必ず舟状骨骨折というわけではありません。解剖学的嗅ぎタバコ窩の圧痛などは骨折を疑う手がかりになりますが、診断には画像検査を含めた評価が必要です[2]。

特に、転倒後の痛みが数日たっても改善しない場合や、一度レントゲンで「異常なし」と言われても手をつくと痛い場合は、再度医療機関へ相談することを検討してください。
また、次のような状態では舟状骨骨折に限らず、手関節外傷として早めの評価が必要です。
- 手首に明らかな変形や強い腫れがある
- 傷が開いている、出血を伴っている
- 指のしびれや感覚の低下がある
- 指が冷たい、色が悪いなど血流の異常が疑われる
手舟状骨骨折で病院が行う検査
病院では、転倒したときの状況や痛みの場所を確認し、舟状骨周囲の圧痛、手首の動き、腫れなどを評価します。そのうえで、必要に応じてレントゲン、MRI、CTなどの画像検査を行います。
レントゲン検査は最初に行われることが多い検査ですが、初期の舟状骨骨折は写りにくいことがあります。システマティックレビューでも、通常のレントゲンでは確認されず、その後の高度画像検査で骨折が診断される症例が報告されています[2]。
そのため、症状から舟状骨骨折が疑われるにもかかわらず初回のレントゲンで骨折が確認できない場合には、MRIまたはCTが検討されます[1]。
| 検査 | 主な役割 |
| レントゲン | 骨折の有無を最初に確認する。初期骨折では分かりにくいことがある |
| MRI | レントゲンで確認できない早期の骨折や骨内の変化を確認する |
| CT | 骨折線、転位、骨折部位、骨癒合の状態を詳しく確認する |
特にCTは、骨折のずれや骨癒合を確認するために有用とされています[1]。

手舟状骨骨折の治療
治療方法は、骨折している場所、骨折線のずれ、安定性、骨癒合の状態、年齢やスポーツレベルなどを踏まえて決めます。大きく分けると、保存療法と手術療法があります。
保存療法
転位が少ない安定した骨折では、ギプスや装具などで手首を固定し、骨癒合を待つ保存療法が選択されることがあります。非転位またはごく軽度の転位を伴う舟状骨腰部骨折では、適切な固定によって良好な骨癒合が期待できます[1]。
一方、必要な固定期間は骨折部位や骨癒合の進み方によって異なります。「痛くなくなったから固定を外す」のではなく、医師の診察や画像評価を確認しながら進めます。
成長期の舟状骨骨折では、成人とは治療方針が異なる場合があります。小児の急性舟状骨骨折をまとめた研究では、多くが固定による保存療法で治療され、高い骨癒合率が報告されています[3]。
手術療法
骨折が大きくずれている場合、不安定性がある場合、近位部の骨折、骨癒合が進まない場合などでは手術が検討されます。一般的にはスクリューなどを用いて骨折部を固定します[1]。
ただし、「スポーツ選手だから手術の方がよい」と一律に決まるわけではありません。成人の転位が比較的小さい舟状骨腰部骨折を対象としたSWIFFT試験では、早期手術がギプス固定より52週時点の手関節機能で明らかに優れる結果とはなりませんでした[4]。
また、2026年のシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、非転位骨折でも近位部は他の部位より偽関節の割合が高い傾向が示されていますが、保存療法と手術療法の優劣は骨折部位ごとに単純には決められないことも示されています[5]。
手舟状骨骨折のリハビリテーション
手舟状骨骨折のリハビリでは、まず骨折をしっかり治すことを優先します。その後、手首の動きと筋力を取り戻し、最終的に手をつく、押す、握る、転倒するなどの競技動作へ段階的に戻します。
一律に「○週で次へ進む」と考えるのではなく、骨癒合の状態や痛み、医師から許可されている負荷を確認しながら進めることが大切です。手術後は執刀医・主治医のプロトコルを優先してください。
固定中・骨癒合を待つ時期
固定中は舟状骨を守りながら、固定されていない部分の機能をできるだけ維持します。
- 医師から指示された固定を守る
- 動かしてよい範囲で指・肘・肩を動かす
- 手を使わずにできる下肢・体幹トレーニングを行う
- 患部に強い痛みや腫れが出る運動は避ける
この時期に腕立て伏せや高重量のウエイトトレーニングなど、舟状骨へ強い圧迫が加わる運動を自己判断で始めないようにしましょう。
手首の動きと筋力を戻す時期
骨癒合が進み、医師から手首を動かす許可が出たら、無理のない範囲から可動域と筋力を戻していきます。
- 手首の掌屈・背屈、橈屈・尺屈
- 前腕の回内・回外
- 握る力の回復
- 手首・前腕周囲筋の筋力トレーニング
- 日常生活で手を使う量を段階的に増やす
動かした直後だけではなく、運動後や当日夜、翌日に痛みや腫れが戻っていないかも確認します。負荷を上げたあとに症状が再び強くなる場合は、一段階戻して調整することがあります。
手をつく・競技動作へ戻す時期
日常生活で痛みがなく、骨癒合や筋力の回復が確認できたら、スポーツで必要になる負荷を少しずつ加えます。
たとえば壁に手をついて身体を支えるような軽い負荷から始め、台への支持、床への支持へと段階的に進めます。競技に応じて、ボールをキャッチする、ラケットやバットを握る、相手と接触する、ウエイトを持つといった動作も戻していきます。
さらに、転倒する可能性のある競技では、転倒時に手のひらだけで身体を支えないための「受け身」の練習を取り入れることがあります。
たとえば、安全なマット上で低い姿勢から始め、身体を丸める、前腕や体幹などへ衝撃を分散する、転倒時に手首を強く反らした状態で地面へ突かない、といった動きを段階的に練習していきます。
- 骨癒合が十分で、転倒練習の許可が出てから行う
- 最初はマット上・低い姿勢・ゆっくりした動きから始める
- 手首だけで衝撃を受けず、身体全体へ負荷を分散する
- 競技特性に詳しい指導者や専門家のもとで練習する
ただし、受け身の練習によって舟状骨骨折を確実に予防できるという十分な研究があるわけではありません。あくまで、転倒時の手関節への大きな衝撃を減らすための競技動作トレーニングのひとつとして考えます。
手舟状骨骨折からスポーツ復帰するには?
スポーツ復帰は、単純に受傷からの期間だけでは判断できません。舟状骨骨折では、痛みがないことと骨が十分に治っていることは同じではないため、骨癒合の確認を優先します。
- 画像などで骨癒合が確認され、医師から競技負荷の許可が出ている
- 日常生活や舟状骨周囲の圧痛がない
- 競技に必要な手首の可動域と握力・筋力が回復している
- 手をつく、握る、押すなど必要な競技動作を段階的に行える
- 練習後や翌日に痛み・腫れが戻らない
体操や格闘技では、手を床につく負荷への回復が特に重要です。ラグビーやサッカーなどのコンタクトスポーツでは、プレーそのものだけでなく、接触や転倒したときの手首への負荷も確認します。
野球、テニス、ゴルフなどでは、握力が戻っただけでは十分ではありません。実際のスイングやインパクトを低い強度から段階的に行い、症状の反応を確認します。
ウエイトトレーニングも同様で、ダンベルを握る運動から始め、手首へ体重が加わる腕立て伏せ、ベンチプレス、クリーンなどは骨癒合と機能を確認したうえで徐々に戻します。
スポーツ復帰についてのシステマティックレビューでは、手術療法・保存療法のどちらからも高い競技復帰率が報告されていますが、研究数や対象者は限られており、すべての選手に共通する明確な復帰基準が確立されているわけではありません。また、骨癒合が不十分な状態で固定したまま早期に競技へ復帰することは、偽関節のリスクから推奨されていません[6]。
まとめ
手舟状骨骨折は、転倒して手をついたあとに起こりやすく、手首の親指側の痛みが代表的な症状です。腫れや変形が少なく、初期のレントゲンでは確認しにくいことがあるため、痛みが続く場合は再評価が重要です。
治療は骨折部位や転位、安定性によって異なり、保存療法と手術療法のどちらも選択肢になります。リハビリでは骨癒合を優先し、可動域・筋力・支持動作へ段階的に進め、転倒リスクのある競技では受け身の練習も競技復帰準備のひとつとして検討します。
痛みがなくなっただけで自己判断して競技へ戻らず、画像所見、手首の機能、競技動作への反応を確認しながら復帰を進めましょう。
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参考文献
[1]Clementson M, Björkman A, Thomsen NOB. Acute scaphoid fractures: guidelines for diagnosis and treatment. EFORT Open Rev. 2020;5(2):96-103. PubMed ID: 32175096
[2]Bäcker HC, Wu CH, Strauch RJ. Systematic Review of Diagnosis of Clinically Suspected Scaphoid Fractures. J Wrist Surg. 2020;9(1):81-89. PubMed ID: 32025360
[3]Shaterian A, Santos PJF, Lee CJ, et al. Management Modalities and Outcomes Following Acute Scaphoid Fractures in Children: A Quantitative Review and Meta-Analysis. Hand (N Y). 2019;14(3):305-310. PubMed ID: 29078712
[4]Dias JJ, Brealey SD, Fairhurst C, et al. Surgery versus cast immobilisation for adults with a bicortical fracture of the scaphoid waist (SWIFFT): a pragmatic, multicentre, open-label, randomised superiority trial. Lancet. 2020;396(10248):390-401. PubMed ID: 32771106
[5]Hawkins SD, Al-Kharabsheh Y, Li J, et al. Comparing Conservative and Surgical Treatment of Acute Nondisplaced Fractures of the Scaphoid Based on Fracture Location: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Am Acad Orthop Surg. 2026;34(15):e2140-e2147. PubMed ID: 41983461
[6]Goffin JS, Liao Q, Robertson GAJ. Return to sport following scaphoid fractures: A systematic review and meta-analysis. World J Orthop. 2019;10(2):101-114. PubMed ID: 30788227
