
「足の付け根が痛い」「歩くと股関節が痛い」「最近、股関節が動かしにくい」といった症状の原因のひとつに、変形性股関節症があります。
変形性股関節症では、痛みだけでなく、歩行や階段、スポーツなどの動作に影響することがあります。一方で、変形があるからといって、すべての運動をやめる必要があるわけではありません。
この記事では、変形性股関節症の症状、受診の目安、検査、治療、リハビリテーション、スポーツや運動を続ける際の考え方について解説します。
- 変形性股関節症とはどのような状態か
- 股関節症でよくみられる痛みや動かしにくさ
- 整形外科を受診した方がよい症状
- 治療・リハビリテーションの考え方
- スポーツや運動を続ける際のポイント
股関節や鼠径部の痛みは、変形性股関節症以外のケガや疾患でも起こります。股関節痛の原因をまとめて確認したい方は、以下の記事も参考にしてください。
変形性股関節症とは?
変形性股関節症は、股関節の関節軟骨や骨などに変化が起こり、痛みや動かしにくさが生じる疾患です。
進行すると、レントゲンでは関節のすき間が狭くなる「関節裂隙狭小化」や、骨の縁に骨棘が形成されるなどの変化がみられることがあります(図1)。

「年齢とともに軟骨がすり減る病気」と説明されることもありますが、変形性股関節症は加齢だけで起こるわけではありません。
股関節の形態も関連しており、特に寛骨臼形成不全やcam morphologyなどは、将来の股関節症との関連が報告されています[1]。
ただし、このような股関節の形がある人が必ず変形性股関節症になるわけではありません。年齢、関節の形態、過去の外傷や疾患、身体への負荷など、複数の要因が関係すると考えることが大切です。
画像だけではなく、症状や股関節の動き、日常生活への影響をあわせて考えることが重要です。
変形性股関節症の症状と受診の目安
変形性股関節症では、鼠径部(足の付け根)の痛みがみられることが多く、歩行や階段、立ち上がりなどで症状を感じることがあります。
痛みは股関節だけではなく、太ももの前側や外側、場合によっては膝周囲まで感じることがあります[2]。
- 鼠径部・足の付け根が痛い
- 歩行や階段、立ち上がりで股関節が痛い
- 股関節が硬く、動かしにくい
- 靴下を履く、靴を履く動作がしにくい
- 運動後に痛みやこわばりが強くなる
股関節症が進行すると、股関節の可動域が低下し、歩幅が小さくなったり、歩き方が変わったりすることがあります。
ただし、これらの症状だけで変形性股関節症と判断することはできません。股関節唇損傷や大腿骨頚部の疲労骨折など、別の疾患でも鼠径部痛が起こることがあります。

- 股関節の痛みが続き、歩行や階段など日常生活に支障がある
- 股関節の動きが徐々に悪くなっている
- スポーツや運動のたびに痛みを繰り返す
- 急に強い痛みが出て、体重をかけにくい
- 発熱を伴う強い股関節痛や、転倒後の強い痛みがある
特に、急に体重をかけられなくなった場合や、発熱を伴って強く痛む場合は、骨折や感染症など変形性股関節症以外の問題も考える必要があります。
痛みが急に強くなった場合や、歩けないほど痛む場合は早めに状態を確認してもらいましょう。
病院で行う検査
病院では、痛みが始まった時期や痛む場所、歩行・階段・スポーツなど、どのような動作で症状が出るかを確認します。
身体の検査では、股関節の可動域や筋力、歩き方などを確認します。股関節症では股関節の動き、特に内旋などが制限されることがありますが、ひとつの動作やテストだけで診断することはできません[2]。
画像検査では、まずレントゲン検査で股関節の形や関節裂隙、骨の変化などを確認することが一般的です(図3)。
症状とレントゲン所見が一致しない場合や、他の疾患を確認する必要がある場合には、MRIなどの追加検査が行われることもあります。

大切なのは、画像の変形の程度だけで症状や治療方針を決めないことです。痛み、可動域、筋力、日常生活やスポーツへの影響を含めて総合的に評価します。
変形性股関節症の治療
変形性股関節症の治療は、症状の程度や生活への影響、年齢、活動レベルなどに合わせて選択します。
すぐに手術になるわけではなく、多くの場合はまず保存療法を行いながら症状や機能の変化を確認します。
保存療法
変形性股関節症の保存療法では、疾患について理解することと、適切な運動を行うことが基本となります。国際的なガイドラインでも、患者教育と陸上での運動療法が基本的な治療として位置づけられています[3]。
- 痛みを悪化させる活動量・スポーツ負荷の調整
- 股関節周囲の筋力や可動性を改善する運動療法
- 必要に応じた体重管理
- 医師の判断による薬物療法
- 症状に応じた理学療法
2025年に改訂された股関節OAの理学療法ガイドラインでも、運動療法や患者教育などを組み合わせ、患者ごとの状態に合わせて介入することが推奨されています[4]。
薬や注射については、持病や症状によって適応が異なるため、自己判断で使用を増減せず医師と相談してください。
手術療法
保存療法を行っても痛みが強く、歩行や仕事、日常生活への影響が大きい場合には、手術療法が検討されることがあります。
進行した変形性股関節症では人工股関節全置換術(THA)が選択されることがありますが、手術の必要性はレントゲンだけで決まるものではありません。
年齢、股関節の形態、症状、生活への影響、活動目標などを踏まえて、整形外科医と治療方針を相談することが大切です。
変形性股関節症のリハビリテーション
変形性股関節症のリハビリでは、「何週間たったら次へ進む」と一律に決めるよりも、症状と身体機能の反応を確認しながら負荷を調整することが重要です。
運動療法は股関節症の痛みや身体機能を改善する可能性がありますが、2026年のCochrane Reviewでは、その平均的な改善効果は小さいことも示されています[5]。
そのため、「この運動をすれば変形が治る」と考えるのではなく、動きやすさや筋力、日常生活でできることを少しずつ増やしていくことを目標にしましょう。
① 痛みを悪化させる負荷を調整する
完全に動かなくするのではなく、歩行量、立っている時間、ランニングやスポーツの量などを調整します。
運動中だけでなく、運動後や当日夜、翌日に痛みやこわばりが明らかに増えていないか確認することも、負荷量を考える参考になります。
② 股関節の動きを維持する
股関節症では徐々に可動域が低下することがあります。痛みを無理に我慢して動かすのではなく、症状が悪化しない範囲で股関節を動かします。
必要に応じて、股関節周囲の柔軟性や動作の改善にも取り組みます。
③ 股関節・下肢の筋力を高める
股関節周囲だけではなく、下肢全体の筋力を維持することが重要です。
- 股関節外転筋など殿部の筋力トレーニング
- 股関節伸展筋のトレーニング
- スクワットや立ち上がりなどの荷重運動
- 片脚立位などのバランストレーニング
実際の種目や負荷は、痛みや可動域、筋力によって調整します[4]。
④ 全身の体力を落とさない
股関節が痛いと活動量そのものが減りやすいため、症状に合わせてウォーキング、自転車、水中運動などを利用する方法もあります。
「股関節を守るために何もしない」よりも、できる運動を選びながら身体活動を維持することが大切です。
運動した日は大丈夫でも翌日に歩行痛が強くなる場合は、運動量や強度を見直してみましょう。
人工股関節置換術などの手術後は、術式や手術時の状態によって注意点が異なります。術後のリハビリは執刀医・主治医のプロトコルを優先してください。
変形性股関節症でもスポーツ・運動は続けてよい?
変形性股関節症と診断されたからといって、すべてのスポーツや運動を一律に禁止する必要はありません。
一方で、痛みを我慢して同じ運動量を続けることもおすすめできません。現在の症状、股関節の機能、競技の負荷を確認しながら調整することが基本になります。
保存療法中のスポーツ・運動
保存療法中のスポーツについて、すべての競技に共通する明確な「復帰基準」が確立されているわけではありません。
運動を続ける、または競技練習へ戻る際には、次のような点を確認します。
- 日常生活や歩行で症状が強くなっていない
- 股関節の可動域や筋力が競技動作を行える状態にある
- 走る・跳ぶ・切り返すなど必要な動作を段階的に行える
- 運動後から翌日に痛みが大きく悪化しない
- 練習量を増やしても症状が継続的に悪化しない
例えば、ランニング競技であれば走行距離や速度、球技であればダッシュ・切り返し・ジャンプなど、競技ごとに股関節へかかる負荷が異なります。
最初から元の練習量へ戻すのではなく、運動時間・強度・頻度を段階的に調整することが大切です。
競技復帰では、走る・跳ぶ・切り返すなど、そのスポーツで必要な負荷まで段階的に確認していきましょう。
人工股関節置換術後のスポーツ復帰
人工股関節置換術後もスポーツへ復帰する人はいますが、どの競技まで行えるかは個人差があります。
THA後のスポーツ復帰をまとめたUmbrella Reviewでは、低〜中程度の衝撃のスポーツへ復帰する人が多い一方、高衝撃スポーツについては外傷やインプラントへの影響を考慮した慎重な判断が必要とされています[6]。
そのため、復帰までの期間だけで判断せず、
- 術後の経過と主治医の許可
- 股関節の可動域・筋力
- 歩行や片脚動作などの機能
- 希望する競技の衝撃・接触・方向転換の程度
- 競技経験や本人の不安感
などを考慮します。
特にランニング、ジャンプ、対人接触を伴う競技への復帰を希望する場合は、主治医や理学療法士などと相談しながら判断してください。
まとめ
変形性股関節症では、鼠径部や足の付け根の痛み、歩行時痛、股関節の動かしにくさなどがみられます。ただし、症状の強さとレントゲン上の変形は必ずしも同じではありません。
歩行や日常生活に支障がある場合や、スポーツのたびに痛みを繰り返す場合は、整形外科で原因を確認することを検討しましょう。
治療では患者教育や運動療法を中心に、症状や生活に合わせて負荷を調整します。変形性股関節症だからといって一律に運動を中止するのではなく、運動後や翌日の反応を確認しながら活動を続けることが大切です。
スポーツ復帰は期間や痛みの有無だけで決めず、股関節の機能と競技で必要な負荷まで確認しながら段階的に進めていきましょう。
関連記事
股関節の痛みには、変形性股関節症以外にもさまざまな原因があります。
参考文献
[1]Casartelli NC et al. Is hip morphology a risk factor for developing hip osteoarthritis? A systematic review with meta-analysis. Osteoarthritis Cartilage. 2021;29(9):1252-1264. PubMed ID: 34171473
[2]Metcalfe D et al. Does This Patient Have Hip Osteoarthritis?: The Rational Clinical Examination Systematic Review. JAMA. 2019;322(23):2323-2333. PubMed ID: 31846019
[3]Bannuru RR et al. OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2019;27(11):1578-1589. PubMed ID: 31278997
[4]Koc TA Jr et al. Hip Pain and Mobility Deficits-Hip Osteoarthritis: Revision 2025. J Orthop Sports Phys Ther. 2025;55(11):CPG1-CPG31. PubMed ID: 41165671
[5]Hall M et al. Exercise for osteoarthritis of the hip. Cochrane Database Syst Rev. 2026;7(7):CD007912. PubMed ID: 42486497
[6]Sowers CB et al. Return to Sports After Total Hip Arthroplasty: An Umbrella Review for Consensus Guidelines. Am J Sports Med. 2023;51(1):271-278. PubMed ID: 34668788




