
「バットを握ると手のひらの小指側が痛い」「ゴルフやテニスのスイングで手首の小指側が痛む」といった症状の原因の一つに、有鉤骨鉤骨折(ゆうこうこつこうこっせつ)があります。
有鉤骨鉤骨折は、スポーツ選手では繰り返すグリップやスイングで起こることがあり、通常のレントゲンでは分かりにくい場合もあります。この記事では、症状、検査、治療、リハビリ、スポーツ復帰までをわかりやすく整理します。
- 有鉤骨鉤骨折で痛みが出やすい場所・動作
- 野球・ゴルフ・ラケット競技との関係
- 早めに整形外科へ相談した方がよい症状
- レントゲン・CTなど病院で行う検査
- 治療・リハビリとスポーツ復帰の考え方
手のひら・手首の小指側の痛みには、TFCC損傷や腱・神経の障害など、ほかにもさまざまな原因があります。手・手首の痛み全体から原因を整理したい方は、以下の記事も参考にしてください。
有鉤骨鉤骨折とは?
有鉤骨は、手首にある8つの手根骨の一つです。その手のひら側には、フックのように突出した「有鉤骨鉤」という部分があります(図1)。
有鉤骨鉤の周囲には尺骨神経や指を曲げる腱などが走っているため、骨折すると手のひら小指側の痛みだけでなく、握力低下や、まれに小指・薬指のしびれなどが起こることがあります[1]。

スポーツでは、野球のバット、ゴルフクラブ、テニスなどのラケットを強く握ることで、グリップから手のひら小指側へ繰り返し力が加わります(図2)。このような繰り返す負荷によって骨折することがある一方、転倒して手をつくなど、一度の外傷によって起こる場合もあります[1][4]。

野球やゴルフなどでは、スイングを繰り返すうちに徐々に痛くなるケースもあります。
手のひら・手首の小指側が痛い|有鉤骨鉤骨折の症状と受診の目安
有鉤骨鉤骨折では、手のひらから手首にかけての小指側に痛みが出ることが多く、強く握る動作で症状が強くなることがあります[1]。
- 手のひら・手首の小指側が痛い
- バット、ラケット、ゴルフクラブを握ると痛い
- スイングや打球のインパクトで痛む
- 強く握りにくい、握力が落ちた感じがする
- 小指・薬指にしびれや違和感が出ることがある
痛みが軽い場合には、日常生活ではそれほど困らず、「スポーツをするときだけ痛い」ということもあります。そのため、単なる打撲や手首の使いすぎとして競技を続け、診断が遅れることがあります。
- 外傷後から手のひら小指側の強い痛みが続いている
- 数日〜数週間休んでも、握る・スイングすると同じ場所が痛む
- 握力が明らかに低下している
- 小指・薬指のしびれや手に力が入りにくい症状がある
- 指が曲げにくいなど、手指の動きにも変化が出ている
同じ場所の痛みを繰り返す場合は、一度原因を確認してもらいましょう。
小指・薬指のしびれが主症状の場合には、ギヨン管症候群などの神経障害でも似た症状が起こります。
有鉤骨鉤骨折で病院が行う検査|レントゲンで分からないこともある
病院では、受傷した場面や痛みが出るスポーツ動作を確認し、手のひら小指側の圧痛、手首や指の動き、握力、しびれなどを診察します。
画像検査では、まずレントゲン検査が行われることがあります。ただし、有鉤骨鉤はほかの手根骨と重なって見えるため、通常のレントゲンだけでは骨折が分かりにくい場合があります[2]。
診察から有鉤骨鉤骨折が疑われる場合には、撮影方向を変えたレントゲンや、CT・MRIなどの追加検査が検討されます。特にCTは、有鉤骨鉤の骨折線や骨片の状態を詳しく確認するために用いられます[2]。

「レントゲンが正常だったから絶対に骨折ではない」と自己判断しないことが大切です。
有鉤骨鉤骨折と診断されたら|治療方法
有鉤骨鉤骨折の治療には、固定などを行う保存療法と、骨片切除や骨接合を行う手術療法があります。
どの治療を選択するかは、骨折してからの期間、骨片の状態、骨癒合の可能性、神経・腱症状、年齢、競技レベル、復帰目標などによって異なります[1][4]。
保存療法
受傷から早い段階で診断され、骨折の状態などから保存的に治療できると判断された場合には、ギプスや装具で手首を固定し、骨癒合を待つ方法が選択されることがあります。
2025年に報告された16例のケースシリーズでは、ギプスと装具による保存療法で全例に骨癒合が確認されました[5]。ただし、平均年齢は約50歳で、競技選手の早期復帰を検討した研究ではありません。
そのため、「有鉤骨鉤骨折はすべて手術が必要」「固定だけでは治らない」と一律に考えるのではなく、骨折の状態や復帰目標を踏まえて治療方法を決めることが大切です。
手術療法
スポーツ選手では、痛みが続いている場合や偽関節となっている場合、早期の競技復帰を目指す場合などに手術が検討されることがあります。
代表的な方法には、折れた有鉤骨鉤を取り除く骨片切除術と、スクリューなどで骨折部を固定して骨癒合を目指す骨接合術があります。
2024年のSystematic Reviewでは、骨片切除術の方がスポーツ復帰までの期間が短い傾向が報告されましたが、骨接合術との直接比較データは限られており、どちらが一貫して優れているかは結論づけられていません[4]。
競技選手では骨片切除術の報告が多いものの、「スポーツ選手=必ず骨片切除」ではありません。主治医と競技レベルや復帰時期も含めて治療方針を相談しましょう。
有鉤骨鉤骨折のリハビリテーション
有鉤骨鉤骨折のリハビリでは、治療方法に合わせて「患部を守る → 手首・指の動きを戻す → 握る力を戻す → 競技動作へ進む」という流れで負荷を上げていきます。
有鉤骨鉤骨折だけを対象として、運動内容や進行基準を比較した質の高いリハビリ研究は十分ではありません。そのため、「受傷後○週になったら必ず次の運動」という進め方ではなく、骨癒合や術後の状態、症状、手の機能を確認しながら進めることが重要です。
- 患部を保護する:固定や手術後の指示を守り、痛みを繰り返す強い握り動作を避ける
- 動きを戻す:許可された範囲から手指・手首・前腕の可動域を回復する
- 筋力を戻す:軽いグリップから始め、手首・前腕・握力への負荷を段階的に増やす
- 競技負荷を戻す:素振りなど低負荷の動作から、インパクトを伴う競技動作へ進める
固定中でも、主治医から許可されている範囲では、指・肘・肩など患部以外の機能を維持しておくことが大切です。固定が外れた後や手術後は、手首・指の動きを確認しながら、軽い握りから徐々に負荷を戻します。
握力が戻ってきたら、競技用具を使った練習へ進みます。野球であれば軽い素振り、ティーバッティングなどから始め、スイング強度や打球数を一度に増やさず、段階的に通常練習へ近づけていきます。
ゴルフやラケット競技でも同様に、軽いグリップと低強度のスイングから始め、インパクトの強さと反復回数を分けて増やしていくと症状を確認しやすくなります。
負荷を上げた日の夜や翌日に、手のひらの痛みやしびれが戻っていないかも確認していきましょう。
手術後は、骨片切除術と骨接合術でも運動開始時期が異なる可能性があります。執刀医・主治医の術後プロトコルを優先し、自己判断で強い握り動作やスイングを再開しないようにしてください。
有鉤骨鉤骨折からスポーツ復帰する目安
競技選手を対象としたSystematic Review・Meta-analysisでは、823例中94.5%がスポーツへ復帰し、平均復帰期間は45日と報告されています[6]。ただし、対象者の95%以上が骨片切除術を受けており、この期間を保存療法やすべての有鉤骨鉤骨折にそのまま当てはめることはできません。
また、2026年の野球選手を対象としたSystematic Reviewでは、骨片切除後の復帰率は加重平均90.7%、復帰までの中央値は5.7週でした[7]。一方で、復帰時期には競技レベルや症例による差があります。
そのため、スポーツ復帰は「手術から○週間」という期間だけではなく、以下のような状態を確認して判断します。
- 日常生活や患部を押したときの痛みが問題にならない
- 手首・指の動きと握力が競技に必要なレベルまで回復している
- バットやラケットなどを強く握っても症状が出ない
- スイングやインパクトを段階的に行っても痛み・しびれが出ない
- 練習後や翌日に症状が再び強くならない
有鉤骨鉤骨折に対して「握力が反対側の○%なら復帰可能」といった、広く確立された疾患特異的な基準は十分にありません。握力だけではなく、実際の競技で必要なグリップ、スイング、打球などまで確認することが大切です。
スイングの強さだけでなく、打球時の衝撃や練習量まで少しずつ戻してから、競技復帰を判断しましょう。
特に競技復帰を急ぐ選手では、痛みがなくなった時期と骨・手の機能が十分に回復した時期が必ずしも一致するとは限りません。主治医や理学療法士、アスレティックトレーナーなどと相談しながら進めましょう。
まとめ
有鉤骨鉤骨折は、手のひら・手首の小指側に痛みが出やすく、野球のバット、ゴルフクラブ、ラケットなどを握ったときやスイング時に症状が強くなることがあります。
通常のレントゲンでは骨折が分かりにくい場合があるため、痛みが繰り返す場合や握力低下、しびれなどがある場合は、自己判断で競技を続けず整形外科で相談しましょう。
治療は保存療法と手術療法のどちらも選択肢となり、競技レベルや骨折の状態によって方針が異なります。リハビリとスポーツ復帰では、期間だけでなく、握力やスイング、インパクトを伴う競技動作まで段階的に確認することが大切です。
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参考文献
[1]Tian A, Goldfarb CA. Hook of Hamate Fractures. Hand Clin. 2021;37(4):545-552. PubMed ID: 34602134
[2]Spencer J, Hunt SL, Zhang C, et al. Radiographic signs of hook of hamate fracture: evaluation of diagnostic utility. Skeletal Radiol. 2019;48(12):1891-1898. PubMed ID: 31134315
[3]Derik L Davis. Hook of the Hamate: The Spectrum of Often Missed Pathologic Findings. AJR Am J Roentgenol. 2017 Nov;209(5):1110-1118. PMID: 28834449
[4]Donohue JK, Calcaterra MJ, Fowler JR. Surgical Management of Hook of Hamate Fractures: A Systematic Review of Outcomes. J Hand Surg Glob Online. 2024;6(2):183-187. PubMed ID: 38903831
[5]Tanaka T, Yoshii Y. Sixteen patients regarding the conservative treatment for hook of hamate fracture. World J Orthop. 2025;16(4):103795. PubMed ID: 40290603
[6]Luxenburg D, Patel N, Narasimman M, et al. Return to Play After Hook of Hamate Fracture: A Systematic Review and Meta-Analysis. Hand (N Y). 2025;20(6):849-860. PubMed ID: 38419427
[7]Adio AA, Morato Surio J, Halgas B, et al. Return to Play After Hook of Hamate Excision in Baseball Players: A Systematic Review. Am J Sports Med. 2026; Online ahead of print. PubMed ID: 42257401



