
この記事では、閉鎖筋肉ばなれと診断された、または閉鎖筋肉ばなれが疑われる選手・保護者・指導者の方向けに、具体的なリハビリ方法、ストレッチ、筋トレ、ランニングやスポーツ復帰の目安を解説します。
閉鎖筋は股関節の深い場所にあるため、股関節の奥や鼠径部、お尻の深部に痛みが出ることがあります。キック、ダッシュ、方向転換、片脚で踏ん張る動作などで痛みが出る場合は注意が必要です。
ただし、閉鎖筋肉ばなれは比較的まれで、症状だけで判断することは難しいケガです。この記事では、診断後のリハビリを中心に、何を避け、どのように運動へ戻していくかを分かりやすく説明します。
閉鎖筋肉ばなれの症状、原因、検査、治療方針などを知りたい方は、まず以下の記事をご確認ください。
股関節周辺の痛み全体について知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
- 閉鎖筋肉ばなれのリハビリの進め方
- 痛みがある時に避けたい動作
- ストレッチや筋トレを始める目安
- ジョギングや方向転換を再開する基準
- スポーツ復帰と受診の目安
閉鎖筋肉ばなれリハビリの基本方針
閉鎖筋には内閉鎖筋と外閉鎖筋があり、いずれも股関節の回旋や安定性に関係しています。
閉鎖筋肉ばなれでは、股関節をひねる動きだけでなく、キック、方向転換、片脚での踏ん張り、コンタクトなどでも痛みが出ることがあります。
そのため、リハビリでは患部を単純にストレッチするのではなく、以下の順番で進めることが大切です。
- 痛みを悪化させる動作を減らす
- 痛みのない範囲で股関節を動かす
- 体幹・殿筋・股関節周囲の筋力を戻す
- スクワットや片脚動作へ進む
- ジョギング、加速、減速を再開する
- 方向転換やキックなどの競技動作へ戻す
閉鎖筋損傷を対象とした研究は多くありませんが、プロサッカー選手の症例では、MRIで損傷部位を確認したうえで保存的なリハビリが行われています[1][2]。
受傷初期
歩行や寝返り、股関節をひねる動作で痛みがある時期は、無理に可動域を広げたり、強い筋力トレーニングを行ったりしません。
まずは、痛みを悪化させるキック、方向転換、深いしゃがみ込みなどを減らし、正常に歩ける状態を目指します。
回復期
歩行時の痛みが落ち着いてきたら、痛みのない範囲で股関節を動かし、ヒップリフトやクラムシェルなどの軽い筋トレを始めます。
その後、スクワット、片脚立ち、片脚スクワットなど、体重を支える動作へ進みます。
競技復帰期
日常生活や基本的な筋トレで痛みがなくなったら、ジョギング、加速、減速、方向転換へ段階的に進めます。
サッカーやラグビーでは、キックやコンタクト、片脚で踏ん張る動作まで確認してから、チーム練習へ戻します。
閉鎖筋肉ばなれでは、痛みがなくなった後も、股関節をひねる動きや片脚で踏ん張る動きで症状が戻ることがあります。直線を走れたことだけで復帰を判断しないようにしましょう。
閉鎖筋肉ばなれで避けたい動き
痛みが残っている時期は、閉鎖筋へ急な負荷がかかる動作を避けます。
- 痛みを我慢したダッシュ、急停止、方向転換
- 股関節を強く内側または外側へひねる動き
- 深いスクワットや大きなランジ
- 強いキックや大きな脚振り
- 運動後や翌日に痛みが増える量の練習
内閉鎖筋と外閉鎖筋では、痛みが出やすい動作が同じとは限りません。股関節を内側へひねると痛む場合も、外側へひねると痛む場合もあるため、痛い方向へ無理に動かさないことが大切です。
「硬いから伸ばせば治る」と考えて、股関節を強くひねるストレッチを繰り返すのは注意です。受傷初期の強いストレッチは、患部への負担になる可能性があります。
閉鎖筋肉ばなれの痛みへの対応
練習量を調整する
閉鎖筋肉ばなれでは、完全に動かない状態を長く続けるよりも、痛みを悪化させる動作だけを減らし、行える運動を継続することが大切です。
- キック、ダッシュ、方向転換を一時的に減らす
- 痛みのない範囲で上半身や体幹を鍛える
- ウォーキングや軽い自転車で痛みが出ないか確認する
- 運動中だけでなく当日夜と翌朝も確認する
- 症状が増えた場合は直前に追加した負荷を戻す
アイシング
受傷直後や運動後に強い痛みや熱感がある場合は、アイシングによって一時的に症状が落ち着くことがあります。
タオルなどで皮膚を保護し、10〜15分程度を目安に行います。ただし、アイシングで痛みをごまかして練習を続けることは避けましょう。
日常生活での注意点
- 急に方向を変えず、ゆっくり歩く
- 大股や深いしゃがみ込みを避ける
- 車の乗り降りや寝返りをゆっくり行う
- 痛い側の脚で急に踏ん張らない
閉鎖筋肉ばなれのストレッチ・可動域改善
閉鎖筋は股関節の深部にあるため、患部だけを狙って強く伸ばす必要はありません。
まずは、骨盤を安定させながら、股関節を痛みなく内側・外側へ動かせる範囲を取り戻します。
股関節の回旋運動:骨盤ローリング
目的:股関節を強くひねらずに、痛みのない回旋可動域を確認することです。
- 仰向けになり、両膝を曲げます。
- 膝を小さく内側・外側へ動かします。
- 膝を倒しすぎて骨盤が浮かないように注意します。
- 痛みが出る手前で止めます。
- 左右10回程度を目安に行います。

注意点:可動域を広げることよりも、痛みなく滑らかに動かせることを優先してください。
ベントニー・フォールアウト
目的:骨盤を安定させた状態で、股関節をゆっくり外側へ動かすことです。
- 仰向けで両膝を曲げ、足裏を床につけます。
- 骨盤が傾かないようにお腹へ軽く力を入れます。
- 片側の膝をゆっくり外側へ倒します。
- 痛みが出る手前で止めます。
- ゆっくり中央へ戻し、10回程度行います。

注意点:膝を倒す時だけでなく、中央へ戻す時にも股関節の奥に痛みが出ないか確認しましょう。
臀部周囲の軽いストレッチ
目的:股関節後方の筋肉を無理なく動かし、股関節周囲の緊張を整えることです。
- 仰向けになり、片膝を曲げます。
- 膝を胸の方向へ軽く近づけます。
- 臀部に軽い伸びを感じる位置で止めます。
- 20秒程度保持します。
- 3〜5セットを目安に行います。

注意点:股関節の奥に鋭い痛みが出る場合や、しびれが出る場合は中止してください。
閉鎖筋肉ばなれの筋トレ
閉鎖筋肉ばなれの筋トレでは、閉鎖筋だけを強く鍛えるのではなく、殿筋、体幹、股関節周囲の筋肉を使って股関節を安定させることが大切です。
最初は両脚で行う運動から始め、片脚動作、方向転換へ進めます。
初期:ヒップリフト
目的:殿筋とハムストリングスを鍛え、骨盤と股関節を安定させることです。
- 仰向けで両膝を曲げます。
- 胸を張って、お腹へ軽く力を入れます。
- 足裏で床を押し、お尻を持ち上げます。
- 肩から膝が一直線になる位置で2〜3秒止めます。
- 10回×2〜3セットを目安に行います。

注意点:股関節の奥に痛みが出る場合は、お尻を上げる高さを低くしてください。
初期〜中期:クラムシェル
目的:殿筋や股関節外旋筋群を鍛え、片脚支持時の股関節を安定させることです。
- 横向きになり、両膝を軽く曲げます。
- 骨盤が後ろへ倒れないようにします。
- 両足をつけたまま、上側の膝をゆっくり開きます。
- 2〜3秒止めて、ゆっくり戻します。
- 10回×2〜3セットを目安に行います。

注意点:股関節を開く時に患部痛が出る場合は、動かす範囲を小さくしてください。痛みを我慢して行う運動ではありません。
中期:ファイヤーハイドラント
目的:骨盤を安定させながら殿筋や股関節周囲の筋肉を鍛え、片脚支持や方向転換に必要な股関節の安定性を高めることです。
- 四つんばいになり、肩の真下に手、股関節の真下に膝をつきます。
- お腹へ軽く力を入れ、背骨を真っ直ぐにし安定させます。
- 膝を曲げたまま、片脚をゆっくり外側へ持ち上げます。
- 骨盤が傾かない範囲で止め、ゆっくり元の位置へ戻します。
- 左右10回×2〜3セットを目安に行います。

注意点:脚を高く上げることよりも、骨盤を傾けずに動かすことを優先してください。股関節の奥に痛みが出る場合は、持ち上げる高さを小さくするか中止しましょう。
中期:スクワット
目的:両脚で体重を支えながら、股関節・膝・足関節を連動させることです。
- 両足を肩幅程度に開きます。
- つま先と膝を同じ方向へ向けます。
- お尻を後ろへ引きながら重心を下げます。
- 痛みのない深さで止めます。
- 10回×2〜3セットを目安に行います。

注意点:膝が内側へ入る、骨盤が回る、患側を避けるように体重が偏る場合は、深さを浅くしてください。
中期〜後期:片脚スクワット
目的:走行や方向転換に必要な片脚支持能力を高めることです。
- 片脚立ちになります。
- 骨盤を水平に保ちます。
- 股関節と膝をゆっくり曲げます。
- 浅い範囲から始めます。
- 5〜10回×2〜3セットを目安に行います。

注意点:身体が患側へ大きく傾く、股関節がねじれる、深部痛が出る場合は、両脚スクワットへ戻しましょう。
復帰期:サイドランジ
目的:横方向への荷重と股関節の安定性を高め、方向転換へ備えることです。
- 両足を肩幅程度に開いて立ちます。
- 片脚を横へ小さく踏み出します。
- 踏み出した側の股関節と膝を曲げます。
- 床を押して中央へ戻ります。
- 左右5〜10回×2セットを目安に行います。

注意点:最初は踏み出す幅と深さを小さくします。股関節の奥に鋭い痛みが出る場合は、まだ負荷が高い可能性があります。
閉鎖筋肉ばなれで走ってよい目安
閉鎖筋肉ばなれで走ってよいかは、受傷からの日数だけでは判断できません。
以下の動作を確認し、短時間のジョギングから再開します。
ジョギング開始前のチェック
- 歩行や速歩で股関節の奥に痛みがない
- 股関節を軽く内外へひねっても強い痛みがない
- スクワットと片脚スクワットを安定して行える
- 軽い足踏みやジャンプで痛みが出ない
- 運動後や翌日に痛みが悪化しない
ランニングの進め方
- 痛みのないウォーキング
- 速歩
- 1分ジョギングと1分歩行の繰り返し
- 連続した軽いジョギング
- 60〜70%程度の直線走
- 加速と減速
- 高い速度での直線走
- 横移動と方向転換
各段階を1回できただけで次へ進むのではなく、運動後と翌日の反応を確認してください。
痛みが増える、患側をかばう、歩幅が左右で異なる、翌日に深部痛が戻る場合は、負荷を一段階戻します。
方向転換・キックへの復帰
閉鎖筋は、股関節をひねる動作や、片脚で骨盤を支える動作に関係します。そのため、直線走の次に、方向転換とキックを別の段階として確認します。
方向転換の進め方
- ゆっくりしたサイドステップ
- 決められた方向への小さな切り返し
- 方向転換の角度と速度を上げる
- 合図に反応する方向転換
- ボールや相手を伴う競技動作
速度、角度、回数を同時に増やさず、1つずつ上げていきます。
キック動作の進め方
- ボールを使わない軽い脚振り
- 近距離の弱いパス
- 中距離のパス
- 強いキックやロングキック
- 走りながらのキック
キックする脚だけでなく、反対側の支持脚で股関節の奥に痛みが出ないかも確認しましょう。
サッカー選手の閉鎖筋損傷では、ロングキックやパスをきっかけに受傷した症例が報告されています[2][3]。ただし、症例報告が中心であり、すべての選手が同じ経過をたどるわけではありません。
閉鎖筋肉ばなれのスポーツ復帰基準
閉鎖筋肉ばなれのスポーツ復帰は、期間だけでなく、痛み、可動域、筋力、動作、競技練習後の反応を総合して判断します。
- 日常生活や股関節の回旋動作で痛みがない
- 片脚スクワットやサイドランジを安定して行える
- 高速走、加速、減速で痛みが出ない
- 方向転換やキックなどの競技動作で痛みが出ない
- フル練習後と翌日に痛みが増えない
プロサッカー選手を対象とした症例集積では、比較的短期間で復帰した例が報告されています[1][3]。一方、周囲の深部筋を含む複合損傷では、復帰まで長い期間を要した症例もあります[5]。
そのため、「閉鎖筋肉ばなれは短期間で治る」と決めつけず、損傷範囲、合併損傷、再発歴、競技特性に合わせて判断する必要があります。
現場では、個別トレーニング、非接触練習、部分的なチーム練習、フル練習の順に戻します。フル練習を問題なく終え、翌日も症状が戻らないことは重要な確認ポイントです。
閉鎖筋肉ばなれの再発予防
- ダッシュ、方向転換、キックの量を段階的に増やす
- 殿筋、体幹、股関節周囲の筋トレを継続する
- 片脚支持時の骨盤と股関節の安定性を高める
- 股関節をひねる可動域の左右差を確認する
- 練習後と翌日の股関節深部痛を記録する
筋力トレーニングだけでなく、練習量やキック数、高速走行、コンタクトの量を急に増やさないことが重要です。
医療機関に相談した方がよい症状
股関節や鼠径部の痛みが、すべて閉鎖筋肉ばなれによるものとは限りません。以下の場合は、自己判断で運動を続けず、医療機関へ相談してください。
- 外傷後から歩くことが難しいほど痛い
- 股関節や臀部に強い腫れ・内出血がある
- 股関節が引っかかる、動かせない、力が入らない
- しびれ、感覚低下、夜間痛、安静時痛がある
- 数週間たっても改善しない、または復帰のたびに再発する
成長期の選手では、股関節周辺の強い痛みに骨盤の裂離骨折などが隠れている可能性もあります。歩けないほどの痛みや強い腫れがある場合は、早めに受診しましょう。
閉鎖筋損傷は股関節唇損傷、FAI、内転筋損傷、腸腰筋損傷、深臀部の障害などと症状が似ることがあります。閉鎖筋損傷の報告でも、MRIが損傷部位の確認に重要とされています[1][2][4]。
よくある質問
閉鎖筋肉ばなれで走ってもいいですか?
歩行や速歩で痛みがなく、スクワット、片脚立ち、軽いジャンプを問題なく行える場合は、短時間のジョギングから再開を検討できます。
走るほど痛みが増える場合や、翌日に股関節の奥が痛む場合は、まだ負荷が高い可能性があります。
閉鎖筋肉ばなれのストレッチはいつから始めますか?
受傷直後や歩行で強く痛む時期は、股関節を大きくひねるストレッチを避けましょう。
日常生活の痛みが落ち着いたら、小さい可動域で股関節をゆっくり動かす運動から始めます。
閉鎖筋肉ばなれの筋トレはいつから始めますか?
歩行時の痛みが落ち着き、ヒップリフトや軽い体幹トレーニングで症状が悪化しない段階から検討できます。
両脚運動から始め、スクワット、片脚スクワット、サイドランジへ段階的に進めましょう。
閉鎖筋肉ばなれはどれくらいで復帰できますか?
軽症例では比較的短期間で復帰した報告がありますが、閉鎖筋損傷は症例数が少なく、一定の復帰期間は決められていません。
痛み、股関節の動き、片脚動作、高速走、方向転換、競技練習後の反応を確認して判断します。
テーピングやサポーターは必要ですか?
閉鎖筋は股関節の深い場所にあるため、テーピングで患部を直接保護することは困難です。
コンプレッションウェアなどで安心感が得られる場合はありますが、痛みをごまかして競技を続ける目的では使用しないでください。
まとめ
今回は、閉鎖筋肉ばなれの具体的なリハビリ方法、ストレッチ、筋トレ、ランニング、スポーツ復帰の目安について解説しました。
閉鎖筋肉ばなれでは、受傷直後から股関節を強くひねるのではなく、まず痛みを悪化させる動作を減らすことが大切です。
その後、股関節を痛みなく動かし、体幹、殿筋、スクワット、片脚動作へ段階的に進めます。
スポーツ復帰では、直線を走れるかだけでなく、加速、減速、方向転換、キック、フル練習後と翌日の反応まで確認しましょう。
歩行困難、強い腫れ、しびれ、脱力、ロッキング、夜間痛、長引く症状がある場合は、自己判断でリハビリを続けず医療機関へ相談してください。
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閉鎖筋肉ばなれの疾患解説
股関節の痛みについて
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参考文献
[1]Wong-On M et al. Injuries of the obturator muscles in professional soccer players. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2018;26(7):1936-1942. PubMed ID: 28188336
[2]Byrne C et al. Obturator internus muscle strains. Radiol Case Rep. 2017;12(1):130-132. PubMed ID: 28228895
[3]Rhim HC et al. Acute Obturator Externus Injury in Professional Soccer Players: A Case Series. Medicina (Kaunas). 2022;58(9):1145. PubMed ID: 36143822
[4]Toliopoulos A. Isolated Obturator Internus Muscle Strain Injury in a Professional Football Player: A Case Report. Cureus. 2022;14(4):e23949. PubMed ID: 35535286
[5]Girdwood M et al. Contact-Related Strain of Quadratus Femoris, Obturator Internus and Gemelli in a Professional Rugby Player. J Sports Med Phys Fitness. 2019;59(3):522-526. PubMed ID: 30747560

