
今回は、腸腰筋肉ばなれのMRI所見・画像診断について、PubMed文献をもとに現在どのように考えられているのかを整理します。
腸腰筋肉ばなれは、股関節の前が痛い、もも上げで痛い、ダッシュやキックで股関節前面が痛い、という形で気づかれることがあります。ただし、股関節前面や鼠径部の痛みは、腸腰筋だけでなく、内転筋損傷、股関節唇損傷、疲労骨折、グロインペインなどでも起こります。
そのため、症状が長引く場合やスポーツ復帰に迷う場合には、MRIなどの画像検査が役立つことがあります。
※この記事は診断や治療方針を決める記事ではありません。MRI所見の考え方を、文献レビューとして一般の方にもわかりやすく整理するための記事です。
- 腸腰筋肉ばなれでMRIが行われる理由
- MRIで確認される筋損傷・腱周囲炎・血腫などの所見
- 腸腰筋関連の痛みと他の鼠径部痛との違い
- MRI所見とスポーツ復帰期間に関する文献
- MRIだけで復帰判断をしてよいのか
腸腰筋肉ばなれ・腱周囲炎の症状、原因、基本的な治療方針について知りたい方は、まず以下の記事をご確認ください。
具体的なリハビリ方法やスポーツ復帰基準を知りたい方は、実践編の記事も参考にしてください。
股関節・鼠径部の痛み全体について知りたい方は、以下の記事も参考になります。
MRIはとても有用ですが、MRIだけで診断や復帰判断が決まるわけではありません。症状、診察所見、画像所見、競技動作での反応を合わせて考えることが大切です。
目次
腸腰筋肉ばなれでMRIはどのような時に行われる?
腸腰筋肉ばなれでは、すべてのケースでMRIが必要になるわけではありません。軽症で症状がはっきりしており、経過が順調であれば、問診や診察を中心に治療方針が決まることもあります。
一方で、以下のような場面ではMRIが検討されることがあります。
- 痛みが強く、歩行やもも上げが難しい
- 受傷直後から強い股関節前面痛がある
- 筋損傷の部位や重症度を確認したい
- 腱周囲炎、筋損傷、血腫などを分けて考えたい
- 股関節唇損傷、大腿骨疲労骨折、骨盤周囲の損傷などを鑑別したい
- スポーツ復帰までの見通しを立てたい
- 症状が長引いている
スポーツ医学における筋損傷の画像検査では、MRIと超音波検査がよく用いられるとされ、MRIは損傷部位や浮腫、血腫などの評価に有用とされています[1]。
腸腰筋肉ばなれのMRIでは何が分かる?
腸腰筋は、股関節を曲げる代表的な筋肉です。大腰筋、腸骨筋などを含み、深い位置を走行しているため、触診だけでは損傷部位を正確に把握しにくいことがあります。
MRIでは、主に以下のような所見を確認します。
- 筋肉の中の高信号変化
- 筋腱移行部の損傷
- 腱周囲の炎症
- 血腫
- 骨髄浮腫
- 他の股関節・鼠径部疾患の有無
筋腹損傷
筋腹損傷は、筋肉そのものに損傷が起こっている状態です。MRIでは、T2強調画像やSTIR画像などで、損傷部位に高信号変化がみられることがあります。
一般的な筋損傷では、浮腫や出血、筋線維の損傷範囲などが評価されます[1]。
筋腱移行部損傷
筋腱移行部は、筋肉から腱に移行する部分です。スポーツの肉ばなれでは、この部分に負荷が集中しやすいことがあります。
腸腰筋でも、筋肉だけでなく腱周囲や筋腱移行部の所見を確認することが重要と考えられます。
腱周囲炎
腸腰筋では、純粋な肉ばなれだけでなく、腱の周囲に炎症のようなMRI信号変化がみられることがあります。
Tsukadaらの研究では、腸腰筋のMRI信号変化をmuscle-strain typeとperitendinitis typeに分けて評価しており、この分類がスポーツ復帰期間の理解に役立つ可能性が示されています[2]。

血腫
強い損傷では、筋肉内や周囲に血腫がみられることがあります。血腫の大きさや位置は、痛みや可動域制限に関係することがあります。
ただし、血腫があるから必ず重症、血腫がないから軽症と単純に判断できるわけではありません。
骨や関節の異常
股関節前面や鼠径部の痛みでは、大腿骨疲労骨折、骨盤周囲の骨損傷、股関節唇損傷なども鑑別に入ります。
MRIは筋肉だけでなく、骨髄浮腫や関節内の異常を確認できるため、痛みの原因を整理するうえで役立つことがあります。
- 腸腰筋のどの部位に信号変化があるか
- 筋肉の損傷か、腱周囲の変化か
- 血腫や浮腫の範囲
- 骨や股関節内の病変がないか
- 症状と画像所見が一致しているか
キーペーパー:Tsukadaらの研究
腸腰筋肉ばなれ・腸腰筋関連鼠径部痛のMRIを考えるうえで、特に重要な文献の一つがTsukadaらの研究です[2]。
- 研究デザイン:case series
- 対象:鼠径部痛を有するアスリート638例
- 評価:MRIで腸腰筋の信号変化を確認
- 主な結果:638例中、腸腰筋のMRI信号変化は21.0%に認められたと報告されています
- 分類:muscle-strain typeとperitendinitis typeに分類
- 解釈:筋損傷型と腱周囲炎型を分けて考えることで、復帰時期の理解に役立つ可能性があります
この研究では、腸腰筋にMRI信号変化があるアスリートを対象に、筋損傷型と腱周囲炎型に分けて臨床経過を評価しています[2]。
重要なのは、腸腰筋の痛みをすべて「肉ばなれ」と一括りにせず、筋肉の損傷なのか、腱周囲の問題なのかを分けて考える視点です。
現場では「腸腰筋が痛い」とまとめて表現されることが多いですが、MRIでは筋肉の損傷、腱周囲の炎症、他の股関節周囲の問題を分けて考えられることがあります。
キーペーパー:BuiらのMRI研究
Buiらは、腸腰筋損傷のMRIパターンと臨床所見を検討した研究を報告しています[3]。
- 研究デザイン:retrospective study
- 対象:股関節・骨盤MRI検査で腸腰筋腱または筋腱部の損傷を認めた症例
- 主な結果:腸腰筋損傷の有病率は0.66%と報告されています
- 年齢差:65歳未満ではスポーツ損傷が多く、65歳以上では非スポーツ性の損傷が多い傾向が示されています
- 解釈:腸腰筋損傷はアスリートだけでなく、年齢や背景によって原因が異なる可能性があります
この研究はアスリートだけを対象にしたものではありませんが、腸腰筋損傷のMRIパターンを理解するうえで参考になります。
スポーツ選手では肉ばなれや筋腱移行部損傷が中心になりやすい一方で、高齢者や一般の方では、転倒、骨折疑い、その他の疾患との鑑別も重要になることがあります。
キーペーパー:Sernerらの急性股関節屈筋損傷研究
Sernerらは、急性鼠径部痛を有する男性アスリートを対象に、股関節屈筋群の急性損傷をMRIで詳細に評価しています[4]。
- 研究デザイン:prospective cohort
- 対象:急性鼠径部痛を有する男性アスリート
- 評価:MRIで股関節屈筋群の損傷部位を詳細に評価
- 主な結果:急性股関節屈筋損傷では、腸腰筋だけでなく、複数の股関節屈筋が関与する可能性が示されています
- 解釈:「股関節前面の痛み=腸腰筋」と単純に考えず、股関節屈筋群全体として評価することが重要です
この研究からも、急性の股関節前面痛では、腸腰筋だけでなく、大腿直筋、縫工筋、恥骨筋などを含めて評価する必要があると考えられます。
MRI以外の画像検査の役割
腸腰筋肉ばなれの画像診断では、MRIが中心になることが多いですが、状況によってはX線、CT、超音波検査も用いられます。
X線
X線では、筋肉そのものの損傷は分かりにくいです。
ただし、骨盤や股関節周囲の剥離骨折、骨性病変、関節症変化などを確認する目的で行われることがあります。特に成長期では、筋肉の付着部に剥離骨折が起こることがあるため注意が必要です。
CT
CTは、骨の形や骨折を詳しく見る検査です。腸腰筋肉ばなれそのものを評価する検査としてはMRIほど適していませんが、骨盤周囲の骨折や骨性病変を詳しく確認したい場合に使われることがあります。
超音波検査
超音波検査は、筋肉や腱の状態をその場で確認できることがあり、動かしながら評価できる点が利点です。
一方で、腸腰筋は深い位置にあるため、体格や損傷部位によっては見えにくいことがあります。深部の損傷や骨・関節内の病変まで含めて評価したい場合には、MRIの方が情報量が多いことがあります。
MRI
MRIは、筋肉、腱、骨髄、関節内の状態を広く確認できます。スポーツ関連の筋損傷では、MRIと超音波がよく用いられますが、MRIは損傷の範囲や深部構造を評価しやすい検査とされています[1]。
- X線:骨折や骨性病変の確認
- CT:骨の詳しい評価
- 超音波:筋・腱を動かしながら確認できる
- MRI:筋肉、腱、血腫、骨髄浮腫、関節内病変を広く評価できる
腸腰筋関連の痛みはどのように分類されている?
鼠径部痛は、原因が複数重なることも多く、診断名が混乱しやすい領域です。
Doha agreementでは、アスリートの鼠径部痛を整理するために、内転筋関連、腸腰筋関連、鼠径部関連、恥骨関連、股関節関連などに分類されています[5]。
腸腰筋関連鼠径部痛では、股関節屈曲時の痛みや腸腰筋の伸張で痛みが出ることが多いとされています[5]。
ただし、臨床的な分類とMRI所見が常に完全に一致するわけではありません。
鼠径部痛では、腸腰筋だけでなく、内転筋、恥骨、股関節内の問題が重なることがあります。MRIで腸腰筋に所見があっても、他の原因がないか確認することが大切です。
MRI所見とスポーツ復帰は関係する?
腸腰筋肉ばなれで気になるのは、「MRIでどれくらい悪いと復帰が遅れるのか」という点だと思います。
Tsukadaらの研究では、腸腰筋のMRI信号変化を筋損傷型と腱周囲炎型に分けることで、スポーツ復帰期間を考える参考になる可能性が示されています[2]。
ただし、MRI所見だけで復帰日を決めることはできません。
実際の復帰では、以下のような要素を合わせて判断する必要があります。
- 歩行で痛みがないか
- もも上げで痛みがないか
- 股関節伸展ストレッチで痛みがないか
- ダッシュやキックで痛みが出ないか
- 練習後や翌日に痛みが増えないか
- 競技特異的動作に不安がないか
MRIが正常なら腸腰筋肉ばなれではない?
MRIで明らかな信号変化がない場合でも、痛みが残ることがあります。
特に、軽度の損傷、撮影時期、画像の撮り方、痛みの原因が腸腰筋以外にある場合などでは、MRI所見と症状が一致しないことがあります。
反対に、MRIで所見があっても、それが現在の痛みの主原因とは限らない場合もあります。
そのため、MRIは非常に重要な情報ですが、症状と診察所見を合わせて解釈する検査と考えるのが現実的です。
現在のエビデンスの限界
腸腰筋肉ばなれのMRI所見については、重要な研究がある一方で、まだ分かっていないことも多い領域です。
- 腸腰筋肉ばなれに特化した大規模研究は多くない
- MRI分類が完全に標準化されているわけではない
- MRI所見と復帰期間の関係は、競技や症例によって異なる可能性がある
- フォローアップMRIをいつ撮るべきかは明確ではない
- MRIで治癒を確認してから復帰すべきかについても統一された基準は少ない
そのため、MRI所見は参考になりますが、復帰判断は画像だけでなく、痛み、可動域、筋力、競技動作、翌日の反応を含めて総合的に考える必要があります。
受診を検討した方がよい症状
以下のような症状がある場合は、自己判断で運動を続けず、整形外科やスポーツ整形外科で相談しましょう。
- 歩くのがつらいほど股関節前面が痛い
- もも上げができない
- 受傷直後から強い痛みがある
- 夜間痛や安静時痛がある
- 発熱を伴う
- しびれや脱力がある
- 股関節が引っかかる、ロッキング感がある
- 数週間たっても症状が改善しない
- 復帰のたびに股関節前面の痛みを繰り返す
股関節前面の痛みは、筋肉だけでなく骨や関節の問題でも起こります。歩けない、夜も痛い、しびれがある、痛みが長引く場合は早めに相談しましょう。
FAQ
腸腰筋肉ばなれでMRIは必ず必要ですか?
必ず必要というわけではありません。軽症で経過がよい場合は、問診や診察を中心に判断されることもあります。一方で、痛みが強い場合、復帰判断に迷う場合、他の疾患との鑑別が必要な場合にはMRIが検討されることがあります。
MRIで腸腰筋肉ばなれは分かりますか?
MRIでは、筋肉の浮腫、筋損傷、血腫、腱周囲の変化などを確認できることがあります。ただし、MRI所見だけで診断が決まるわけではなく、症状や診察所見と合わせて判断されます。
MRIで治っていたらすぐ復帰できますか?
MRI所見が改善していても、すぐに完全復帰できるとは限りません。もも上げ、ダッシュ、キック、方向転換などの競技動作で痛みが出ないこと、翌日に症状が悪化しないことを確認しながら進める必要があります。
MRIが正常でも痛みが続くことはありますか?
あります。軽度の損傷、撮影時期、腸腰筋以外の原因、股関節内の問題などにより、MRI所見と症状が一致しないことがあります。痛みが続く場合は、画像だけでなく診察や動作評価も含めて確認することが大切です。
CTやX線では腸腰筋肉ばなれは分かりますか?
X線やCTは、主に骨の評価に使われます。腸腰筋そのものの損傷評価ではMRIの方が適していることが多いですが、剥離骨折や骨病変の確認にはX線やCTが役立つことがあります。
まとめ
腸腰筋肉ばなれのMRIでは、筋肉の損傷、筋腱移行部の変化、腱周囲炎、血腫、骨や関節の異常などを確認できます。
特にTsukadaらの研究では、鼠径部痛を有するアスリート638例のうち、21.0%に腸腰筋のMRI信号変化が認められ、筋損傷型と腱周囲炎型に分けて考える重要性が示されています[2]。
ただし、MRIはあくまで判断材料の一つです。画像だけで診断や復帰時期を決めるのではなく、症状、診察所見、筋力、可動域、競技動作、翌日の反応を合わせて考える必要があります。
股関節前面の痛みが強い場合、長引く場合、復帰のたびに再発する場合は、自己判断で進めず、スポーツ整形外科やリハビリ専門家に相談しましょう。
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参考文献
[1]Guermazi A et al. Imaging of Muscle Injuries in Sports Medicine: Sports Imaging Series. Radiology. 2017;282(3):646-663. PubMed ID: 28218878
[2]Tsukada S et al. Iliopsoas Disorder in Athletes with Groin Pain: Prevalence in 638 Consecutive Patients Assessed with MRI and Clinical Results in 134 Patients with Signal Intensity Changes in the Iliopsoas. Orthop J Sports Med. 2018;6(9):2325967118797881. PubMed ID: 30229237
[3]Bui KL et al. Iliopsoas injury: an MRI study of patterns and prevalence correlated with clinical findings. Skeletal Radiol. 2008;37(3):245-249. PubMed ID: 18026948
[4]Serner A et al. Characteristics of acute groin injuries in the hip flexor muscles: a detailed MRI study in athletes. Am J Sports Med. 2018;46(3):677-684. PubMed ID: 28649793
[5]Weir A et al. Doha agreement meeting on terminology and definitions in groin pain in athletes. Br J Sports Med. 2015;49(12):768-774. PubMed ID: 26031643



