
転倒して手をついたあとに「肘が強く痛む」「肘が腫れて動かせない」「肘の形がおかしい」といった症状がある場合は、肘関節脱臼(elbow dislocation)の可能性があります。
肘関節脱臼では、靱帯損傷だけでなく骨折や神経・血管の損傷を伴うことがあります。肘が明らかに変形している場合は、自分で戻そうとせず、早めに医療機関で評価を受けることが大切です。
この記事では、肘関節脱臼の症状と受診の目安、検査・治療、リハビリテーション、スポーツ復帰までをわかりやすく解説します。
- 肘関節脱臼でみられる症状と受診の目安
- 病院で行う検査と治療の考え方
- 保存療法でのリハビリの進め方
- スポーツ復帰を判断するときのポイント
肘の痛み全体を整理したい方は、↓の記事もあわせてご覧ください。
肘関節脱臼とは?
肘関節脱臼とは、上腕骨と尺骨・橈骨で構成される肘関節の位置関係が外れてしまった状態です(図1)。スポーツでは、転倒して手をついたときに肘が伸ばされ、ねじれるような力が加わることで起こることがあります。
肘関節脱臼は、骨折を伴わない単純肘関節脱臼(simple elbow dislocation)と、治療が必要な骨折を伴う脱臼に大きく分けて考えることができます。骨折の有無や整復後の安定性によって治療やリハビリの進め方が異なるため、最初の評価が重要です[1]。
また、脱臼すると関節を支えている内側・外側の靱帯や関節包なども損傷することがあります。肘の内側の靱帯について詳しく知りたい方は、肘関節内側側副靱帯(MCL)損傷の記事も参考にしてください。

主な症状とすぐ受診したいサイン
肘関節脱臼では、受傷直後から強い痛み・腫れ・変形がみられ、肘を曲げ伸ばしできなくなることがあります。
- 肘が強く痛み、腫れている
- 肘の形が明らかに変わっている
- 肘を曲げ伸ばしできない
- 手や指にしびれがある、指を動かしにくい
- 手が冷たい、手の色が悪い
特に、しびれや指の動かしにくさ、手の冷たさ・色の変化がある場合は、神経や血管が影響を受けている可能性があります。また、皮膚に深い傷がある場合にも早急な評価が必要です。
肘が変形していても、自分や周囲の人が無理に戻そうとするのは避けてください。骨折や神経・血管損傷を伴っている可能性があるため、そのまま医療機関を受診しましょう。

病院で行う検査
医療機関では、けがをした状況や肘の変形・腫れを確認するとともに、手指の感覚や動き、血流などをチェックします。神経・血管の状態は、脱臼を整復する前後で確認することが重要です。
レントゲン検査では、脱臼の方向や骨折の有無を確認します。整復後にも撮影し、関節の位置が戻っているか、見逃されている骨折がないかを確認します[1]。
骨折の形や骨片を詳しく確認する必要がある場合にはCT検査、靱帯などの軟部組織を詳しく評価する必要がある場合にはMRI検査が追加されることがあります。超音波(エコー)検査も、必要に応じて靱帯などを評価する補助的な検査として用いられます。
肘関節脱臼の治療
肘関節脱臼では、まず医療機関で整復を行い、外れた関節を元の位置へ戻します。その後、レントゲンや診察によって骨折の有無、関節の安定性、神経・血管の状態などを再確認し、治療方針を決めます。
大きな骨折がなく、整復後の関節が安定している単純肘関節脱臼では、保存療法で治療することが一般的です。近年は、長期間固定するよりも、関節の状態を確認しながら早期に機能的なリハビリを開始する考え方が支持されています[2][3]。
一方で、治療が必要な骨折を伴う場合や、整復が難しい場合、整復後も関節の不安定性が強い場合などには手術が検討されることがあります。単純脱臼であっても固定期間や手術の必要性については一律に決められるものではなく、損傷の状態に応じた判断が必要です[1]。
「早期に動かす=すぐに自由に使ってよい」という意味ではありません。動かしてよい範囲や負荷は、整復後の安定性や合併損傷によって異なります。医師やリハビリ担当者の指示に沿って進めましょう。
肘関節脱臼のリハビリテーション
ここでは、主に整復後に安定性が確認された単純肘関節脱臼を保存療法で治療する場合の流れを説明します。骨折を伴う場合や手術を行った場合は進め方が大きく異なるため、主治医・執刀医のプロトコルを優先してください。
リハビリでは「受傷から何週たったか」だけでなく、痛みや腫れ、可動域、筋力、肘の安定性を確認しながら段階的に負荷を上げていくことが大切です。
- 痛みや腫れが強くなっていない
- 肘の曲げ伸ばしが少しずつ回復している
- 肘周囲・前腕の筋力が回復している
- 負荷を上げても運動後や翌日に症状が悪化しない
保護から可動域・筋力回復まで
受傷直後は、整復された肘を保護しながら痛みや腫れを管理します。必要な固定方法や期間は、関節の安定性や合併損傷によって異なります。
単純肘関節脱臼では、状態が許せば早期から肘の運動を開始することが、可動域の回復に有利とされています[2]。ただし、肘を無理に伸ばすのではなく、許可された範囲から少しずつ曲げ伸ばしを行います。
可動域の回復に合わせて、痛みのない範囲から前腕・上腕の筋力トレーニングを開始します。肩甲骨周囲や体幹もあわせてトレーニングし、上肢全体で力を受け止められる状態をつくっていきます。
上肢への荷重から競技動作へ
肘の曲げ伸ばしが改善し、筋力トレーニングで大きな痛みや不安定感が出なくなってきたら、上肢へかかる負荷を段階的に増やします。
四つ這いなどの軽い荷重から始め、状態に応じて腕立て伏せなどへ進みます。その後、投球・投擲、コンタクトなど、それぞれの競技に必要な動作を段階的に取り入れます。
ラグビー、体操、スケート、チアリーディングなど、転倒や上肢で身体を支える可能性がある競技では、受け身や転倒動作も重要です。恐怖感や不安定感を確認しながら、難易度を少しずつ上げていきます。
負荷を上げたあとは、運動中だけでなく、運動後や翌日の痛み・腫れ・可動域も確認します。翌日に肘が腫れる、曲げ伸ばしが悪くなるといった反応がある場合は、負荷の上げ方を見直します。
スポーツ復帰の目安
肘関節脱臼からのスポーツ復帰は、「受傷から○週間たったから」という期間だけでは判断できません。競技や損傷の程度、保存療法か手術療法かによって復帰までの経過は異なります[4]。
復帰に向けては、主に次のような点を確認します。
- 競技に必要な肘の可動域と筋力が回復している
- 手をつく・押すなどの上肢荷重で痛みや不安定感がない
- 投球やコンタクトなど、競技に必要な動作を段階的に行える
- 転倒リスクのある競技では、受け身や転倒動作を不安なく行える
- 練習後から翌日に痛み・腫れ・可動域の悪化がない
2026年のシステマティックレビューでは、肘関節脱臼後のアスリートは高い割合でスポーツへ復帰していましたが、対象となった損傷や治療方法にはばらつきがあります[4]。そのため、平均的な復帰時期だけで判断せず、実際の肘の機能と競技動作を確認することが大切です。
まとめ
- 転倒後に肘の強い痛み・腫れ・変形がある場合は、肘関節脱臼の可能性があります。
- 変形していても自分で戻そうとせず、神経・血管や骨折を含めて医療機関で評価を受けることが大切です。
- 単純肘関節脱臼では早期の機能的リハビリが重要ですが、動かす範囲や負荷は関節の安定性や合併損傷によって異なります。
- スポーツ復帰は期間だけでなく、可動域・筋力・上肢荷重・競技動作・翌日の反応を確認しながら判断します。
参考文献
[1]SMDA-SEC: Shanghai Medical Doctor Association-Shoulder and Elbow Committee, Lu S, Shen Y, et al. Conservative and surgical management of simple elbow dislocations: SMDA-SEC consensus and guidelines. Orthop Rev (Pavia). 2025;17:133988. PubMed ID: 40314037
[2]Iordens GIT et al. Early mobilisation versus plaster immobilisation of simple elbow dislocations: results of the FuncSiE multicentre randomised clinical trial. Br J Sports Med. 2017;51(6):531-538. PubMed ID: 26175020
[3]Pott CMJM et al. Treatment Outcomes of Simple Elbow Dislocations: A Systematic Review of 1,081 Cases. JBJS Rev. 2024;12(1). PubMed ID: 38181107
[4]Albright AS et al. Return to Sport Following Elbow Dislocation: A Systematic Review. Orthop J Sports Med. 2026;14(3):23259671261419505. PubMed ID: 41929994


