
長母趾屈筋腱炎は、足首の後ろ側、内くるぶしの後ろ、足の裏、母趾の動きに関係して痛みが出ることがあります。足底腱膜炎や足根管症候群などと症状が重なることもあり、見逃されやすい疾患の一つとされています[1]。
この記事では、長母趾屈筋腱炎が疑われる、または診断された方に向けて、痛みを悪化させずに進めるリハビリ方法、避けたい動き、スポーツ復帰の目安を中心に解説します。
長母趾屈筋腱炎の症状・原因・検査・治療方針など、疾患の概要を知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
足首・足部全体の痛みや、似た症状を起こす疾患を知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
長母趾屈筋腱炎のリハビリでは、「痛みを我慢してほぐす・鍛える」よりも、痛みの状態を確認しながら段階的に負荷を上げることが大切です。
目次
長母趾屈筋腱炎のリハビリで大切なポイント
長母趾屈筋は、ふくらはぎの奥から足首の後ろを通り、足の裏を通って母趾へつながる筋肉です。足首を伸ばす動き、母趾を曲げる動き、つま先立ち、ジャンプ、ダッシュ、蹴り出し動作などで負担がかかります。
リハビリでは、以下の3つを中心に進めます。
- 痛み・腫れ・炎症を落ち着かせる
- 長母趾屈筋腱の滑走性と、母趾・足首の柔軟性を改善する
- 足部アーチ・踵・体幹を安定させ、再発しにくい動作へ戻す
ただし、しびれ、強い腫れ、変形、歩けないほどの痛み、母趾が引っかかる感じ、長期間続く痛みがある場合は、自己判断で進めず医療機関で相談しましょう。
痛みがある時に避けたい動き
長母趾屈筋腱炎では、痛みがある時期に無理に母趾や足首を使い続けると、腱や腱鞘への刺激が続き、症状が長引くことがあります。
特に以下の動きで痛みが出る場合は、いったん量を減らすことを検討しましょう。
- つま先立ち
- ジャンプ、連続ジャンプ
- ダッシュ、坂道ダッシュ
- 強い蹴り出し動作
- バレエのポアント動作、足首を強く伸ばす動作
- 母趾を強く曲げる・反らす動き
- 痛みを感じながらのランニングや方向転換
完全に休む必要があるかどうかは症状によって異なりますが、痛みが増える動きは一時的に減らし、痛みが出ない範囲の運動は継続することが基本です。
第1段階:痛み・腫れ・炎症への対応
最初の段階では、長母趾屈筋腱への刺激を減らし、痛みや腫れを落ち着かせることを優先します。
アイシング
目的
- 運動後や歩行後に出る痛み・熱感を落ち着かせる
- 炎症症状が強い時期の不快感を軽減する
具体的な方法
- 氷のう、または氷パックを作ります
- 痛みのある足首後方、内くるぶし後方、足裏の痛む部位に当てます
- 10〜20分を目安に冷やします
- 皮膚の感覚が戻り、常温に戻ってから必要に応じて再度行います

※写真はイメージです。実際には痛みのある足首後方・内くるぶし後方・足裏周囲を中心に行いましょう。
・30分以上続けて冷やすと、凍傷のリスクがあります。
・寒冷アレルギーがある方、冷やすとかゆみや膨疹が出る方は中止しましょう。
・アイシングだけで治すというより、運動量や負荷の調整と組み合わせることが大切です。
運動量の調整
痛みが強い時期は、リハビリメニューを増やす前に、まず長母趾屈筋腱にかかる負荷を減らします。
- 歩く量を一時的に減らす
- ランニングを一時的に中止する
- ジャンプ・ダッシュ・坂道練習を控える
- 痛みが出るスパイクやシューズを避ける
- 痛みが出ない範囲で体幹・股関節・上半身のトレーニングは継続する
競技を完全に休むかどうかは、痛みの強さ、腫れ、競技レベル、試合時期によって変わります。復帰時期は、医師や理学療法士、トレーナーと相談して決めることをおすすめします。
第2段階:長母趾屈筋腱の柔軟性・滑走性を改善する
痛みが落ち着いてきたら、長母趾屈筋腱の周囲を少しずつ動かし、足首・母趾の動きを改善していきます。
長母趾屈筋腱は、足首後方の外側から内側へ回り込み、足の裏を通って母趾へ向かいます。そのため、足首の後ろ側だけでなく、内くるぶし後方、外くるぶし後方、足裏も含めて確認することが大切です。
内くるぶし後方のほぐし
目的
- 内くるぶし後方を通る腱周囲の動きを改善する
- 母趾を動かした時の引っかかり感やつっぱり感を減らす
具体的な方法
- 内くるぶしの後方を指で軽く圧迫します
- 圧迫したまま、足首をゆっくり上下に10回ほど動かします
- 痛みが強くない範囲で、場所を少しずつ変えながら行います
- 5〜10分を目安に行います

注意点
- 強く押しすぎないようにしましょう
- しびれが出る場合は中止しましょう
- 翌日に痛みが増える場合は、時間や圧を減らしましょう
外くるぶし後方のほぐし
目的
- 足首後方での長母趾屈筋腱の動きを改善する
- 足首を伸ばした時の後方のつまり感を減らす
具体的な方法
- 外くるぶしの後方、アキレス腱との間を軽く圧迫します
- 圧迫したまま、足首を10回ほどゆっくり動かします
- 外くるぶしに沿って少し上の範囲も確認します
- 5〜10分を目安に行います

注意点
- 鋭い痛みが出る場合は中止しましょう
- 足首後方の痛みが強い場合は、三角骨障害など他の疾患が関係している可能性もあります
長母趾屈筋腱は、足首後方から足の裏を通って母趾へ向かいます。痛みの場所だけでなく、腱の通り道全体をやさしく整える意識が大切です。

足の裏のほぐし
目的
- 足裏を通る腱・筋膜の動きを改善する
- 蹴り出し時の母趾への負担を減らす
具体的な方法
- 足の裏外側をボールなどで軽く圧迫します
- 足の指をグーパーと10回ほど動かします
- 痛みが出ない範囲で場所を変えながら行います
- 5〜10分を目安に行います

注意点
- 痛みの強い場所を直接強く押さないようにしましょう
- 母趾にしびれが出る場合は中止しましょう
第3段階:足首・足部の安定性を改善する
長母趾屈筋腱炎では、足首や足部が不安定なまま競技へ戻ると、つま先立ち、蹴り出し、ジャンプ着地のたびに腱へ負担がかかりやすくなります。
痛みが落ち着いてきたら、足部アーチと踵の安定性を高めるエクササイズへ進みます。
アーチの安定:ショートフットエクササイズ
目的
- 足部アーチを安定させる
- 母趾や足首後方だけに負担が集中しにくい足を作る
具体的な方法
- イスに座って、足裏全体を床につけます
- 足の指はリラックスします
- 踵と母趾球を近づけるように軽く力を入れます
- 足の指を丸めず、足の甲が少し持ち上がる感覚を確認します
- 5秒キープ × 10回 × 2〜3セット行います

注意点
- 足の指を強く曲げすぎないようにしましょう
- 母趾や足裏に痛みが出る場合は力を弱めましょう
足首の安定性:座位カーフレイズ
目的
- 少ない荷重でふくらはぎと足部の連動を練習する
- 立位カーフレイズへ進む準備をする
具体的な方法
- 太もも、すね、第2趾のラインをまっすぐにして座ります
- 足の指はリラックスし、母趾球に軽く体重をかけます
- 踵をゆっくり上げます
- 3秒キープ × 10回 × 3セット行います

注意点
- つま先が外を向かないようにしましょう
- 母趾で床を強く握らないようにしましょう
- 痛みが出る場合は回数を減らすか、いったん中止しましょう
立位カーフレイズで痛みが出ない場合は、座位だけでなく立位の練習へ進めていきましょう。ただし、痛みが出る場合は座位に戻して調整します。
足首の安定性:立位カーフレイズ
目的
- つま先立ち動作で足首・足部を安定させる
- ランニングやジャンプ動作へ進む準備をする
具体的な方法
- 肩幅で立ち、つま先をまっすぐ前に向けます
- 膝を伸ばし、姿勢をまっすぐ保ちます
- お腹を軽く引き締めます
- 足の指はリラックスし、母趾球に体重を乗せます
- 踵をゆっくり上げます
- 3秒キープ × 10回 × 3セット行います

注意点
- 母趾や足首後方に痛みが出る場合は中止しましょう
- 踵が内側・外側にブレないようにしましょう
- 翌日に痛みが増える場合は、座位カーフレイズへ戻しましょう
第4段階:体幹・股関節の安定性を改善する
足首や足部だけを整えても、走る・跳ぶ・切り返す時に体幹や股関節が不安定だと、足部に過剰な負担がかかります。
長母趾屈筋腱炎の再発予防では、足だけでなく、体幹・股関節を含めて安定させることが大切です。
ドローイン
目的
- 体幹を安定させ、足部への負担を減らす
- ランニングやジャンプ時の姿勢を安定させる
具体的な方法
- 仰向けで寝て、膝を90°曲げます
- ゆっくり息を吐きます
- 息を吐きながらお腹を軽くへこませます
- お尻の穴を軽くしめます
- 息を吐ききったらリラックスして息を吸います
- 20回を目安に行います

注意点
- 腹筋を強く固めすぎないようにしましょう
- 呼吸を止めずに行いましょう
バードドッグ
目的
- 体幹を安定させながら股関節を使う
- 片脚支持やランニング時のブレを減らす
具体的な方法
- 四つばいの姿勢から始めます
- 肩の真下に手、股関節の真下に膝を置きます
- お腹を軽く引き締めます
- 手と膝で床を押し続けます
- 対角線上の手と足をゆっくり上げます
- 手足が前後に引っ張られるイメージで伸ばします
- 3秒キープ × 10回 × 2〜3セット行います

注意点
- 腰が反らないようにしましょう
- 骨盤が左右に傾かないようにしましょう
プランク(膝つき)
目的
- 体幹を安定させる基礎筋力をつける
- スポーツ動作中の姿勢の崩れを減らす
具体的な方法
- 肘、膝、つま先で体を支えます
- 背骨をまっすぐに保ちます
- お腹を軽く引き締めます
- 10秒キープ × 10回 × 1〜3セット行います
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注意点
- 腰が反らないようにしましょう
- 肩や首に力が入りすぎないようにしましょう
第5段階:ランニング・ジャンプ・競技動作へ戻す
痛みが落ち着き、カーフレイズや体幹トレーニングが問題なくできるようになったら、少しずつ競技動作へ戻していきます。
FHL腱障害では、バレエ選手やランナーなど、母趾・足首後方に繰り返し負荷がかかる競技で問題になりやすいとされています[2]。急に負荷を戻すのではなく、段階的に確認することが大切です。
復帰前に確認したい基準
- 歩行で痛みがない
- 階段昇降で痛みがない
- 母趾の曲げ伸ばしで痛みや引っかかりがない
- 座位カーフレイズで痛みがない
- 立位カーフレイズで痛みがない
- 片脚立位で足部・踵が大きくブレない
- 翌日に痛みや腫れが増えない
ランニング再開の目安
以下の流れで、痛みや翌日の反応を確認しながら進めます。
- ウォーキング
- 早歩き
- 短時間のジョギング
- ジョグ時間の延長
- 流し・軽いダッシュ
- 方向転換・ジャンプ
- 競技練習へ部分合流
- 通常練習へ復帰
目安として、運動中の痛みが軽くても、翌日に痛みが増える場合は負荷が強すぎるサインです。距離、スピード、ジャンプ回数、練習時間のどれかを減らして調整しましょう。
スポーツ復帰の目安
スポーツ復帰では、以下を確認できると安心です。
- ダッシュで痛みが出ない
- ジャンプ・着地で痛みが出ない
- 切り返しで足首後方や母趾に痛みが出ない
- 競技特有の蹴り出し動作で痛みが出ない
- 練習後から翌日にかけて痛み・腫れが増えない
保存療法で改善しない長母趾屈筋腱障害では、腱鞘炎や腱損傷が関係する場合もあり、手術例も報告されています[2][4]。長引く場合は、無理に競技を続けず、専門家に相談しましょう。
再発予防のポイント
長母趾屈筋腱炎は、一度痛みが落ち着いても、急に練習量を増やすと再発することがあります。
- ランニング量・ジャンプ量を急に増やさない
- 坂道、スパイク、硬い路面での練習量に注意する
- カーフレイズ、ショートフット、体幹トレーニングを継続する
- 母趾や足首後方の違和感が出たら早めに負荷を調整する
- シューズのサイズ、硬さ、足部のフィット感を確認する
- 痛みが出る動作を動画で確認し、フォームを見直す
FAQ
Q. 長母趾屈筋腱炎はストレッチしてもよいですか?
痛みが強い時期に、母趾や足首を強く伸ばすストレッチは避けた方が安全です。まずは痛みのない範囲で、足首や母趾をゆっくり動かすことから始めましょう。
Q. ランニングはいつから再開できますか?
歩行、階段、立位カーフレイズで痛みがなく、翌日に痛みが増えない状態が一つの目安です。最初は短時間のジョグから始め、距離やスピードは少しずつ増やしましょう。
Q. 三角骨障害と長母趾屈筋腱炎は関係しますか?
足首後方の痛みとして似た症状が出ることがあります。後方インピンジメントに長母趾屈筋腱鞘炎が関係していた症例報告もあります[3]。足首を伸ばすと強く痛む、引っかかる、長引く場合は医療機関で確認しましょう。
Q. 痛みがある場所を強くほぐしてもよいですか?
強い痛みを我慢してほぐすことはおすすめしません。軽い圧で行い、しびれや鋭い痛みが出る場合は中止しましょう。翌日に痛みが増える場合も負荷が強すぎる可能性があります。
Q. テーピングやインソールは必要ですか?
足部アーチの崩れや踵の不安定性がある場合、テーピングやインソールが補助になることがあります。ただし、根本的には足部・足首・体幹の機能改善も必要です。
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まとめ
今回は、長母趾屈筋腱炎のリハビリについて解説しました。
長母趾屈筋腱炎では、足首後方や内くるぶし後方、足裏、母趾の動きに痛みが出ることがあります。リハビリでは、まず痛み・炎症を落ち着かせ、次に腱の滑走性、足部アーチ、踵の安定性、体幹・股関節の安定性を段階的に改善していくことが大切です。
痛みを我慢して進めるのではなく、運動中と翌日の反応を確認しながら少しずつ負荷を上げていきましょう。
長引く痛み、しびれ、母趾の引っかかり、足首後方の強い痛みがある場合は、三角骨障害や足根管症候群など他の疾患が関係している可能性もあるため、医療機関で相談することをおすすめします。
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参考文献
[1]Schulhofer SD et al. Flexor hallucis longus dysfunction: an overview. Clin Podiatr Med Surg. 2002;19(3):411-8, vi. PubMed ID: 12379974
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12379974/
[2]Sammarco GJ et al. Flexor hallucis longus tendon injury in dancers and nondancers. Foot Ankle Int. 1998;19(6):356-62. PubMed ID: 9677077
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9677077/
[3]Senécal I et al. Conservative management of posterior ankle impingement: a case report. J Can Chiropr Assoc. 2016;60(2):164-74. PubMed ID: 27385836 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27385836/ ※症例報告です。
[4]Kolettis GJ et al. Release of the flexor hallucis longus tendon in ballet dancers. J Bone Joint Surg Am. 1996;78(9):1386-90. PubMed ID: 8816655 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8816655/






