
今回は、後十字靭帯損傷(PCL損傷)について、起こりやすい場面、症状、検査、治療方針、リハビリテーション、スポーツ復帰の考え方を解説します。
PCL損傷は、軽度であれば保存療法で経過をみることも多い一方で、靭帯の緩みが強い場合や他の靭帯損傷を合併している場合には、スポーツ動作で不安定感や痛みが残りやすいケガです。
この記事では、一般の方にもわかりやすいように説明しますが、実際の治療方針や復帰時期は、損傷の程度、合併損傷の有無、競技レベル、症状の経過によって変わります。自己判断で無理に運動を再開せず、整形外科医や理学療法士、アスレティックトレーナーなどの専門家に相談しながら進めてください。
- 後十字靭帯損傷(PCL損傷)とは何か
- PCL損傷が起こりやすい場面
- PCL損傷後によくみられる症状
- 病院で行う検査
- 保存療法と手術療法の考え方
- リハビリテーションとスポーツ復帰の目安
膝の痛み全体について知りたい方は、関連する膝関節の記事もあわせて確認してみてください。
目次
後十字靭帯損傷(PCL損傷)とは?
後十字靭帯損傷(PCL損傷)とは、膝の中にある後十字靭帯が部分的、または完全に損傷している状態をさします(図1)。

後十字靭帯は、大腿骨と脛骨をつなぎ、主に脛骨が後方へずれすぎることを防ぐ役割を持っています[1]。
そのため、PCLが損傷すると、膝を曲げたときや体重をかけたときに「膝がズレる感じ」「膝の奥が不安定な感じ」が出ることがあります。脛骨が後方に落ち込むように見える所見は、sagging徴候と呼ばれます(図2)。

PCL損傷は、一般的に損傷の程度によってⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度などに分類されます。ただし、復帰までの期間や治療方針は、損傷の程度だけでなく、症状、膝の不安定性、合併損傷、競技特性によって大きく変わります。
孤立性のPCL損傷では、保存療法で良好な経過をたどることもありますが、活動レベルが高い選手や不安定性が強い場合、保存療法で改善しない場合には手術療法が検討されることがあります[2]。
PCL損傷を起こしやすい場面
PCL損傷は、膝を曲げた状態でスネの前側に強い力が加わることで起こりやすいケガです[2]。
- 地面に膝を強くぶつける
- 相手選手と膝が衝突する
- 膝を曲げた状態で転倒する
- 交通事故などでスネに強い衝撃が加わる
- コンタクトスポーツで膝に直接外力が加わる
スポーツでは、ラグビー、サッカー、アメリカンフットボール、格闘技、スキーなど、接触や転倒が多い競技でみられることがあります。

PCL損傷後によくある症状
PCL損傷では、受傷直後から強い痛みが出る場合もありますが、前十字靭帯損傷と比べると「ポキッと音がした」「一瞬で大きく腫れた」といった印象がはっきりしないこともあります。
- 膝の裏側や膝の奥が痛い
- 膝を曲げると痛い
- 膝が腫れる
- 膝がズレる感じがする
- 階段や坂道で不安定感がある
- 靴を脱ぐとき、踵をひっかけると痛い
- 走る、止まる、方向転換で違和感がある
早めに受診した方がよい症状
以下のような症状がある場合は、PCL損傷だけでなく、半月板損傷、前十字靭帯損傷、内側側副靭帯損傷、膝蓋骨脱臼、骨折などを合併している可能性もあります。早めに整形外科を受診してください。
- 痛みが強く、歩くのが難しい
- 膝が大きく腫れている
- 膝が抜ける、ズレる感じが強い
- 膝が引っかかって伸びない、曲がらない
- しびれや感覚の異常がある
- 膝の形に明らかな変形がある
- 数日たっても痛みや腫れが改善しない
似た症状が出る膝のケガとして、膝前十字靭帯損傷、膝半月板損傷、膝内側側副靭帯損傷、膝蓋骨脱臼などがあります。症状が似ていても治療方針が異なるため、自己判断で決めつけないことが大切です。
病院で行う検査
病院では、受傷した状況、痛みの場所、腫れの程度、膝の不安定性、合併損傷の有無などを確認します。
- 問診:どのようにケガをしたか、どの動作で痛いかを確認
- 視診・触診:腫れ、圧痛、可動域、歩き方を確認
- 徒手検査:後方引き出しテスト、sagging徴候などを確認
- 画像検査:レントゲン、MRIなど
PCL損傷を確認するうえでは、MRI検査が重要です。MRIでは、PCLそのものの損傷だけでなく、半月板、軟骨、他の靭帯、骨挫傷などの合併損傷も確認できます。

PCL損傷と診断されたら
PCL損傷の治療は、大きく分けて保存療法と手術療法があります。
孤立性のⅠ度・Ⅱ度損傷では、保存療法が選択されることが多いとされています。また、Ⅲ度損傷であっても、症状が軽い場合や活動要求が高くない場合には保存療法が選択されることもあります[2]。
一方で、スポーツレベルが高い選手、膝の不安定性が強い場合、複合靭帯損傷を伴う場合、保存療法で症状が改善しない場合などでは、手術療法が検討されることがあります。
重要なのは、PCL損傷の治療方針を「損傷の程度だけ」で決めないことです。膝の安定性、痛み、腫れ、競技特性、生活上の困りごとを含めて、総合的に判断する必要があります。
PCL損傷のリハビリテーション
PCL損傷のリハビリテーションでは、痛みや腫れを落ち着かせ、膝の可動域、筋力、バランス能力、競技動作を段階的に回復していきます。
特に、PCL損傷後は大腿四頭筋の機能回復が重要です。近年のレビューでも、PCL損傷後のスポーツ復帰では大腿四頭筋の強化、プライオメトリクス、競技特異的トレーニングを段階的に含めることが重要とされています[3]。
保存療法のリハビリテーション
ここでは、中等度のPCL損傷をイメージして、保存療法の大まかな流れを紹介します。ただし、実際の進行は時期だけでなく、痛み、腫れ、可動域、筋力、不安定感を確認しながら調整する必要があります。
炎症期:受傷直後〜数日
- 痛みと腫れを落ち着かせる
- 無理な膝の後方ストレスを避ける
- 必要に応じて装具や松葉杖を使用する
- 医師の指示に従って荷重量を調整する
リハビリ前期:数日〜4週前後
- 痛みのない範囲で膝の曲げ伸ばしを改善する
- 大腿四頭筋の収縮を取り戻す
- 殿筋や体幹の筋力を整える
- ふくらはぎの筋力を段階的に回復する
- 腫れが増えない範囲で歩行を安定させる
リハビリ中期:4〜6週前後
- 体重をかけた筋力トレーニングを段階的に行う
- カーフレイズ、スクワット、ランジなどを状態に応じて行う
- バランストレーニングを開始する
- 痛みや腫れが増えない範囲で軽いステップ動作を確認する
- 条件が整えばジョギング開始を検討する
リハビリ後期:6〜8週前後
- ステップワークやジャンプ動作を段階的に行う
- アジリティトレーニングを少しずつ取り入れる
- リアクション動作を確認する
- 競技特性に近い動きを低強度から確認する
- 直線スプリントは痛みや違和感に注意しながら進める
- 痛みや腫れが落ち着いている
- 膝の可動域が十分に回復している
- 大腿四頭筋をしっかり使える
- 片脚スクワットやジャンプ着地で膝が不安定にならない
- ダッシュ、減速、方向転換で違和感が強くならない
- 競技練習の翌日に腫れや痛みが増えない
復帰期:8〜12週前後以降
- 部分参加から全体練習へ段階的に移行する
- 2〜4週間程度かけて練習量を増やす
- 対人動作、スプリント、方向転換を段階的に確認する
- 競技復帰後も筋力、柔軟性、疲労状態を継続して管理する

手術療法後のリハビリテーション
PCL損傷で手術療法が選択される場合、術後のリハビリテーションは非常に重要です。
PCL再建術後のリハビリは、前十字靭帯再建術と似ている部分もありますが、PCLでは脛骨が後方へ落ち込まないように配慮しながら進める必要があります。また、術後の荷重、装具、可動域、筋力トレーニング、ランニング開始、スポーツ復帰時期については、報告されているプロトコルにも幅があります[4]。
そのため、以下の流れはあくまで一般的な目安です。実際には、執刀医の方針、手術方法、合併損傷、術後経過に合わせて進めてください。
- 痛みと腫れを落ち着かせる
- 膝を伸ばす可動域を確保する
- 膝の曲げる角度は医師の指示範囲内で行う
- 大腿四頭筋の収縮を取り戻す
- 装具や荷重制限は医師の指示に従う
- 可動域を段階的に改善する
- カーフレイズなどを状態に応じて開始する
- 浅めのスクワットなど、負荷の低い運動から確認する
- 腫れや痛みが増えない範囲で歩行を安定させる
- 自重スクワットなどを段階的に進める
- バイクなどの有酸素運動を検討する
- 医師や理学療法士の指示に従い、ハムストリングスの運動を段階的に開始する
- 片脚での安定性を確認する
- 条件が整えばジョギング開始を検討する
- 軽いラダーやステップ動作を段階的に確認する
- スピードアップは低強度から始める
- 痛み、腫れ、不安定感が出ないか確認する
その後は、筋力、可動域、バランス、ジャンプ、減速、方向転換、競技特異的動作を確認しながら、8〜12ヶ月前後を目安にスポーツ復帰を検討することがあります。ただし、復帰時期は個人差が大きく、時間だけで判断しないことが重要です[3][4]。
PCL損傷からスポーツ復帰するときの考え方
PCL損傷からのスポーツ復帰では、「何週間たったか」だけでなく、膝が競技動作に耐えられる状態かを確認することが大切です。
- 痛みや腫れがコントロールできているか
- 膝の可動域が十分に戻っているか
- 大腿四頭筋を中心とした筋力が回復しているか
- 片脚動作で膝が不安定にならないか
- ジャンプ、着地、減速、方向転換が安全にできるか
- 競技練習後に症状が悪化しないか
レビューでは、PCL損傷後のスポーツ復帰は、損傷の状態やリハビリの進み具合に応じて個別に判断すべきとされています[3]。競技復帰を急ぎすぎると、痛みや不安定感が残ったままプレーすることになり、他の部位への負担が増える可能性もあります。
よくある質問
PCL損傷は自然に治りますか?
軽度〜中等度の孤立性PCL損傷では、保存療法で症状が改善することがあります。ただし、靭帯の緩みが残る場合もあるため、筋力や動作を整えるリハビリテーションが重要です。
PCL損傷は必ず手術が必要ですか?
必ず手術が必要というわけではありません。孤立性のⅠ度・Ⅱ度損傷では保存療法が選択されることが多く、Ⅲ度損傷でも症状や活動レベルによっては保存療法が選択されることがあります。一方で、不安定性が強い場合、複合靭帯損傷がある場合、高い競技レベルでの復帰を目指す場合などでは手術が検討されることがあります[2]。
スポーツ復帰までどのくらいかかりますか?
保存療法の場合は数週間〜数ヶ月、手術療法の場合は8〜12ヶ月前後が目安になることがあります。ただし、復帰時期は損傷の程度、合併損傷、競技種目、症状の経過によって変わります。時間だけでなく、筋力や競技動作の回復を確認して判断することが大切です。
PCL損傷で避けた方がよい運動はありますか?
受傷直後や術後早期は、脛骨が後方へずれるストレスが強い運動や、強いハムストリングス収縮を伴う運動は慎重に行う必要があります。ただし、避けるべき運動や開始時期は状態によって異なるため、医師や理学療法士の指示に従ってください。
膝の裏が痛いだけでも受診した方がよいですか?
膝の裏の痛みだけでPCL損傷とは限りませんが、転倒や接触後に痛み、腫れ、不安定感、歩きにくさがある場合は受診を検討してください。半月板損傷や他の靭帯損傷が隠れていることもあります。
まとめ
PCL損傷は、膝を曲げた状態でスネの前側に強い力が加わることで起こりやすいケガです。
軽度〜中等度の孤立性損傷では保存療法で改善することもありますが、膝の緩みや合併損傷がある場合には、治療方針や復帰時期を慎重に判断する必要があります。
リハビリテーションでは、痛みや腫れを落ち着かせること、大腿四頭筋を中心とした筋力を回復すること、ジャンプ・減速・方向転換などの競技動作を段階的に確認することが重要です。
「何週間たったから復帰」ではなく、膝の状態、動作の質、競技後の反応を見ながら、安全に復帰を目指していきましょう。

