
今回は、股関節の前側のつまり感・引っかかり感について、考えられる原因、受診の目安、検査、治療、リハビリテーション、スポーツ復帰までを解説します。
「深くしゃがむと股関節の前がつまる」「車の乗り降りで鼠径部が痛い」「股関節をひねると引っかかる」といった症状は、FAI症候群や股関節唇などの関節内の問題だけでなく、股関節周囲の筋・腱や動作の特徴が関係していることもあります。
画像で大きな異常が指摘されない場合でも症状が続くことはあります。一方で、股関節唇損傷、FAI症候群、股関節形成不全、大腿骨頚部疲労骨折、鼠径部痛症候群など、別の原因が隠れていることもあるため、症状が続く場合は原因を整理していくことが大切です。
- 股関節の前側がつまる・引っかかるときに考えられること
- 自分で確認したい症状と受診の目安
- 病院で行う主な検査と治療の考え方
- リハビリとスポーツ復帰の進め方
股関節や鼠径部の痛み全体について知りたい方は、関連する股関節・骨盤周囲の痛みの記事もあわせて確認してみてください。
股関節の前側がつまる・引っかかるとは?
股関節を深く曲げたり、内側へひねったりしたときに、股関節前面や鼠径部に「つまる」「引っかかる」「圧迫される」といった感覚や痛みが出ることがあります。
代表的な病態の一つがFAI症候群(Femoroacetabular Impingement Syndrome)です。FAI症候群は骨の形だけで決まるものではなく、特徴的な症状、診察所見、画像所見を組み合わせて判断するとされています[1]。
一方、FAI症候群に当てはまらない場合にも、股関節唇などの関節内組織、腸腰筋などの関節外組織、股関節の可動域や筋力、骨盤・下肢の動かし方など、さまざまな要素が症状に関係する可能性があります。腸腰筋や骨盤前方などで組織が干渉する関節外インピンジメントも報告されています[2]。
そのため、「股関節の前がつまる=骨がぶつかっている」「筋肉が硬いだけ」と一つの原因に決めつけず、症状が出る動作や股関節周囲の機能を含めて評価することが重要です。
主な症状と受診の目安
股関節前面のつまり感は、股関節を深く曲げる、回旋する、片脚で力を出すといった場面で出やすくなります。
- 股関節前面や鼠径部が痛い、つまる
- 深くしゃがむ、車の乗り降り、靴下を履く動作で痛む
- 股関節をひねったときに引っかかり感がある
- 長時間座ったあとに股関節前面が痛む
- キック、ダッシュ、方向転換などで症状が出る
自分で確認するときは、特定の病気を診断しようとするのではなく、どの動作で、どの程度の症状が出るかを確認しましょう。ゆっくりしたしゃがみ込み、仰向けで膝を抱える動作、無理のない範囲でのあぐらなどで、左右差や症状の変化を確認する程度で十分です。
強い痛みを我慢して深く動かしたり、何度も症状を再現したりする必要はありません。これらの動作で症状が出ても、それだけでFAI症候群や股関節唇損傷などを診断することはできません。
股関節前面・鼠径部の痛みで考えたい主な疾患
- FAI症候群、股関節唇損傷
- グロインペイン症候群、腸腰筋障害
- 大腿骨頚部疲労骨折、股関節形成不全
- 成長期では下前腸骨棘裂離骨折(AIIS裂離骨折)など
特にランニングやジャンプの繰り返しで鼠径部痛が徐々に強くなり、歩行でも痛む、足を引きずるようになる場合は、疲労骨折などを除外する必要があります。成長期にキックやダッシュをした瞬間から急に強い痛みが出た場合も、早めに医療機関で確認しましょう。
- 痛みが強く、歩く・体重をかけることが難しい
- 安静時や夜間にも強い痛みがある、または徐々に悪化している
- 外傷後から股関節を十分に動かせない
- 強い引っかかりやロッキングが繰り返される
- 発熱、鼠径部のふくらみ、精巣痛や強い下腹部痛などを伴う
- 運動量を調整しても症状が続く、または運動再開ですぐに悪化する
病院で行う検査
股関節前方のつまり感や鼠径部痛が続く場合は、問診、身体評価、必要に応じた画像検査を組み合わせて原因を整理します。非関節炎性の股関節痛では、一つの検査だけでなく、症状と機能を総合的に評価することが重要です[3]。
- 問診:痛みが出る動作、競技、発症時期、運動量、座位での症状などを確認します。
- 可動域・筋力・動作評価:股関節の曲げ伸ばしや回旋、股関節・体幹周囲の筋力、スクワットや片脚動作などを確認します。
- 徒手検査:FADIR、FABERなどを症状の誘発や股関節機能を確認する検査の一部として行います。
- X線:FAIに関連する骨形態や股関節形成不全などを確認します。
- MRIなど:必要に応じて股関節唇、軟骨、骨、筋腱などを詳しく確認します。
FADIRやFABERで痛みが出たからといって、それだけで特定の病気と診断できるわけではありません。画像所見も同様に、実際の症状や診察所見と合わせて判断します[1]。
治療の考え方
股関節前面のつまり感や非関節炎性の股関節痛では、症状や原因に応じて、まず活動量の調整やリハビリテーションなどの保存療法が選択肢になることが多いです。FAI症候群に対しても、保存療法・リハビリテーションは治療選択肢の一つとされています[1]。
保存療法では、症状を悪化させる負荷を一時的に調整しながら、必要な可動域、股関節・体幹の筋力、基本動作や競技動作を整えていきます。非手術療法で改善する方は一定数いますが、どのストレッチや運動方法がすべての人に最も有効かは明確ではないため、症状や機能に合わせた個別の調整が重要です[4]。
症状が改善しない場合や、股関節唇損傷、FAI症候群、股関節形成不全などの構造的な問題が症状に大きく関係している場合には、整形外科で治療方針を相談します。必要に応じて手術療法が検討されることもありますが、画像所見だけで一律に判断するものではありません。
リハビリテーション
リハビリでは、「つまる部分を無理に伸ばす」ことよりも、症状を悪化させる負荷を調整しながら、必要な股関節機能と競技動作を段階的に戻すことが基本になります[3]。
症状を悪化させる負荷を調整する
まず、どの動作や練習で症状が強くなるかを確認します。完全に運動をやめる必要がない場合でも、股関節前面を強く圧迫する動作を繰り返していると症状が落ち着きにくいことがあります。
- 深いスクワットや股関節を深く曲げた姿勢の量・深さを調整する
- 長時間座ると痛む場合は、姿勢や連続する座位時間を調整する
- キック、ダッシュ、方向転換など症状が出る練習量を一時的に減らす
- 強いつまり感や痛みを押し込むようなストレッチは避ける
運動中の痛みだけでなく、運動後やその日の夜、翌朝に症状が強くなっていないかも確認します。負荷を上げたあとに症状が明らかに悪化する場合は、一度負荷を調整しましょう。
可動域・筋力・動作を段階的に戻す
必要な可動域が不足している場合は、痛みのない範囲で股関節の動きを整えます。ただし、股関節を深く曲げたときにつまり感が強い場合に、その方向へ繰り返し押し込む必要はありません。
筋力トレーニングでは、特定の一つの筋肉だけを鍛えるのではなく、股関節伸展・外転などの筋力、体幹の安定性、片脚で身体を支える能力など、その人の不足している機能に合わせて進めます。
- 痛みのない範囲での股関節モビリティ
- ブリッジ、スクワットなどの基本的な股関節・下肢筋力トレーニング
- 片脚立位、片脚スクワットなどの片脚コントロール
- ヒップヒンジやスクワットなど基本動作の練習
- ジョギングからスプリント、方向転換、キックへの段階的な移行
「股関節が内側に入らないようにする」など、一つのフォームだけを正解とする必要はありません。症状が出る動作を確認しながら、その選手が競技で必要とする動きを無理なく行えることを目指します。
スポーツ復帰の目安
スポーツ復帰は「何週間たったか」だけではなく、股関節が実際の競技負荷に耐えられる状態かを確認して判断します。股関節前方のつまり感に対する一律の復帰基準はないため、競技で必要となる動作まで段階的に確認することが大切です。
- 日常生活や基本的な股関節動作で症状が大きく悪化しない
- スクワットや片脚動作を安定して行える
- ジョギングからスプリントへ段階的に強度を上げられる
- 方向転換、キック、ジャンプなど競技に必要な動作を行える
- 練習後や翌日に症状が明らかに悪化しない
サッカーであればキックや切り返し、バスケットボールであればジャンプやストップ動作など、確認すべき内容は競技によって異なります。低強度の動きから始め、速度、反復回数、対人動作などを段階的に戻していきましょう。
強い痛みや引っかかりが残っている場合、負荷を上げるたびに症状が悪化する場合は、自己判断で完全復帰を急がず、医師や理学療法士、アスレティックトレーナーなどに相談することを検討してください。
まとめ
- 股関節前面のつまり感・引っかかり感は、FAI症候群だけでなく複数の要因で起こる可能性があります。
- 強い荷重時痛、跛行、夜間痛、ロッキングなどがある場合や症状が続く場合は、医療機関で原因を確認することが大切です。
- リハビリでは特定の筋肉だけに原因を求めず、負荷調整、可動域、筋力、基本動作、競技動作を段階的に整えます。
- スポーツ復帰は期間だけでなく、競技動作と運動後・翌日の症状反応まで確認して判断しましょう。
参考文献
[1]Griffin DR et al. The Warwick Agreement on femoroacetabular impingement syndrome (FAI syndrome): an international consensus statement. Br J Sports Med. 2016;50(19):1169-1176. PubMed ID: 27629403
[2]Itthipanichpong T et al. Extra-articular hip impingement: subspine, iliopsoas, and ischiofemoral impingement. EFORT Open Rev. 2025;10(10):733-744. PubMed ID: 41031635
[3]Enseki KR et al. Hip Pain and Movement Dysfunction Associated With Nonarthritic Hip Joint Pain: A Revision. J Orthop Sports Phys Ther. 2023;53(7):CPG1-CPG70. PubMed ID: 37383013
[4]Probst DT et al. What is the Rate of Response to Nonoperative Treatment for Hip-Related Pain? A Systematic Review With Meta-analysis. J Orthop Sports Phys Ther. 2023;53(5):1-21. PubMed ID: 36892224

