
今回は頚椎症性神経根症・頚椎症性脊髄症(cervical spondylotic radiculopathy / myelopathy)について解説します。
頚椎症性神経根症では、首から肩、腕、手にかけての痛みやしびれ、力の入りにくさがみられます。一方、頚椎症性脊髄症では、腕や手の症状に加えて、手先の使いにくさや歩きにくさなどが現れることがあります。
どちらも頚椎の変性に関連する疾患ですが、神経根症と脊髄症では注意すべき症状や治療方針、スポーツ復帰の考え方が異なります。
この記事では、主な症状と受診の目安、検査、治療、リハビリ、スポーツ復帰までを整理します。
・頚椎症性神経根症と頚椎症性脊髄症の違い
・腕や手のしびれ、歩きにくさなどの主な症状
・医療機関を受診した方がよいサイン
・治療とリハビリの考え方
・スポーツ復帰で注意するポイント
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頚椎症性神経根症・脊髄症とは?
頚椎症とは、加齢や繰り返しの負荷などによって、頚椎の椎間板や椎間関節などに変性がみられる状態です。骨棘が形成されたり椎間板の高さが低下したりすると、神経の通り道が狭くなることがあります。
こうした変化は年齢とともにみられやすくなります。また、ラグビーなどのコンタクトスポーツでは頚部への衝撃が繰り返されるため、比較的若い年代から頚椎の変性所見がみられることも報告されています[1]。

頚椎症性神経根症は、頚椎から腕へ向かう神経根が圧迫・刺激され、首から肩、腕、手にかけて痛みやしびれ、筋力低下などが生じる状態です[2]。
頚椎症性脊髄症は、頚椎の中を通る脊髄が圧迫され、手の使いにくさや歩行障害、四肢のしびれ・筋力低下などが生じる状態です[3]。

なお、X線やMRIで頚椎の変性がみつかっても、それだけで症状の原因と判断できるわけではありません。症状の出方や神経学的所見、画像所見を組み合わせて診断します。
神経根症は「首から腕・手へ向かう神経」の問題、脊髄症は「脊髄そのもの」の問題です。特に手先の使いにくさや歩行の変化がある場合は、脊髄症を含めて確認することが大切です。
主な症状と受診の目安
・首や肩甲骨まわりの痛み
・肩から腕、手に広がる痛みやしびれ
・腕や手に力が入りにくい
・首の動きによって腕の症状が強くなる
・箸やボタンなど細かい手作業がしにくい
・歩きにくい、つまずきやすい
・腕や脚のしびれ、脱力感
・症状が徐々に広がる、強くなる
頚椎症性神経根症では、首から肩、腕、手にかけての症状が中心になります。症状が出る範囲は、障害される神経根によって異なります[2]。
一方、頚椎症性脊髄症では、手の細かい動作や歩行など、腕だけでは説明しにくい機能低下が現れることがあります[3]。
・手足のしびれや筋力低下が強くなっている
・箸、ボタン、文字を書くなどの細かい動作がしにくい
・歩きにくい、つまずく、転びやすくなった
・排尿や排便に明らかな変化がある
・スポーツで首を痛めた後にしびれや脱力が出た
特に進行する筋力低下、手指の巧緻運動障害、歩行障害などがある場合は、自己判断で運動を続けず医療機関で評価を受けることが大切です。
腕や手のしびれは、肩こり・首こり、胸郭出口症候群、末梢神経の障害などでもみられます。スポーツ中の強い衝撃後に症状が出た場合は、頚椎損傷・頚髄損傷なども含めて慎重な評価が必要です。
病院で行う検査
病院では、症状の出方を確認したうえで、筋力・感覚・腱反射などの神経学的検査と画像検査を組み合わせて評価します。
- X線検査:頚椎の配列、骨棘、椎間板の高さなどを確認します。
- MRI検査:椎間板や神経根、脊髄の圧迫、脊髄内部の変化などを確認します。
- CT検査:必要に応じて骨棘や骨性の狭窄などを詳しく確認します。
- 神経学的・徒手検査:筋力、感覚、反射のほか、神経根症ではSpurlingテストなども組み合わせて確認します。
徒手検査だけで診断するのではなく、症状、診察所見、画像所見が一致しているかを確認することが重要です。脊髄症が疑われる場合には、MRIによる脊髄の評価が重要になります[3]。
頚椎症性神経根症・脊髄症の治療
頚椎症性神経根症では、まず保存療法で経過をみることが多く、症状に応じて薬物療法、日常生活や運動負荷の調整、理学療法などを組み合わせます。多くのケースでは保存療法で症状の改善が期待できますが、筋力低下が進行する場合や症状が強く残る場合には、専門医による追加評価や手術療法が検討されることがあります[2]。
頚椎症性脊髄症では、神経症状の程度や進行性によって治療方針が異なります。軽症では専門医の管理下で経過観察や構造化された保存療法を選択する場合がありますが、神経症状が悪化する場合や、中等度から重度の脊髄症では手術療法が重要な選択肢となります[4][5]。
同じ「首の神経症状」でも、神経根症と脊髄症では治療の考え方が異なります。特に脊髄症では、リハビリだけで様子を見るのではなく、神経症状の程度や変化を専門医と確認しながら方針を決めることが大切です。
リハビリテーション
リハビリは、診断と治療方針が確認されたうえで進めます。神経根症と脊髄症ではリスクや目的が異なるため、同じプログラムを一律に行うものではありません。
・痛みやしびれの範囲が広がっていないか
・筋力低下や手足の使いにくさが増えていないか
・運動中だけでなく、運動後や翌日に症状が増えていないか
・負荷を上げた後も日常生活の状態が安定しているか
頚椎症性神経根症のリハビリ
神経根症では、症状を誘発する姿勢や負荷を調整しながら、徐々に日常生活や運動への耐性を戻していきます。首だけに注目するのではなく、必要に応じて胸椎・肩甲帯・体幹の動きや筋力も確認します。
症状を強くする姿勢や運動負荷を調整し、日常生活で神経症状が増えにくい状態を作ります。無理に頚部の可動域を広げる必要はありません。
症状が落ち着いてきた時期
症状を確認しながら頚部・胸郭の動き、肩甲帯や体幹の筋力、基本的なトレーニングを段階的に戻します。
スポーツ動作を再開する時期
競技に必要な動きや筋力トレーニングを徐々に再開します。神経症状を誘発する頚部の終末域や高負荷動作を繰り返すのではなく、運動中・運動後・翌日の反応を確認しながら負荷を上げます。
頚椎症性脊髄症でリハビリを行う場合
脊髄症では、まず専門医による重症度や治療方針の評価が優先されます。保存療法を選択する軽症例では、症状の変化を確認しながら安全な範囲で活動や運動を行います[5]。
歩行の悪化、手の使いにくさの進行、新たな筋力低下などがみられた場合は、運動負荷を上げずに治療方針を再評価する必要があります。
手術後のリハビリでは、術式や脊髄の状態によって運動開始時期や制限が異なるため、執刀医・主治医のプロトコルを優先して進めます。
スポーツ復帰で注意すること
頚椎症性神経根症・脊髄症からのスポーツ復帰は、「何週間たったか」だけでは判断できません。症状、神経学的所見、頚椎の状態、競技特性などを総合して判断します。
・日常生活やトレーニングで神経症状が出ていないこと
・筋力や頚部の機能が競技に必要なレベルまで戻っていること
・非接触の競技動作を行っても症状が再燃しないこと
・運動後や翌日まで状態が安定していること
・コンタクトスポーツでは専門医の評価を受けていること
特にラグビー、アメリカンフットボール、格闘技など首に大きな衝撃が加わる競技では、より慎重な判断が必要です。脊髄圧迫、脊柱管狭窄、脊髄の信号変化、手術後の状態などによっては、競技復帰が制限される場合があります。
頚椎疾患からコンタクト・コリジョンスポーツへ復帰するための基準は、すべての病態で一律に決まっているわけではありません[6]。そのため、特に脊髄症や脊髄圧迫がある場合は自己判断せず、脊椎を専門とする医師と競技特性を含めて相談することが大切です。
まとめ
- 頚椎症性神経根症では、首から腕・手にかけての痛みやしびれ、筋力低下などがみられます。
- 手先が使いにくい、歩きにくい、筋力低下が進行するといった症状は、脊髄症を含めて早めの評価が必要です。
- 神経根症では保存療法が中心となることが多い一方、脊髄症では重症度や進行性によって手術療法が重要になります。
- スポーツ復帰は期間だけで決めず、神経症状や機能、競技特性を確認しながら段階的に判断します。
参考文献
[1]Berge J et al. Age-related changes in the cervical spines of front-line rugby players. Am J Sports Med. 1999;27(4):422-429. PubMed ID: 10424210
[2]Iyer S et al. Cervical radiculopathy. Curr Rev Musculoskelet Med. 2016;9(3):272-280. PubMed ID: 27250042
[3]Milligan J et al. Degenerative cervical myelopathy: Diagnosis and management in primary care. Can Fam Physician. 2019;65(9):619-624. PubMed ID: 31515310
[4]Wilson JRF et al. Degenerative Cervical Myelopathy: A Review of the Latest Advances and Future Directions in Management. Neurospine. 2019;16(3):494-505. PubMed ID: 31476852
[5]Fehlings MG et al. A Clinical Practice Guideline for the Management of Patients With Degenerative Cervical Myelopathy: Recommendations for Patients With Mild, Moderate, and Severe Disease and Nonmyelopathic Patients With Evidence of Cord Compression. Global Spine J. 2017;7(3 Suppl):70S-83S. PubMed ID: 29164035
[6]Schroeder GD et al. Updated Return-to-Play Recommendations for Collision Athletes After Cervical Spine Injury: A Modified Delphi Consensus Study With the Cervical Spine Research Society. Neurosurgery. 2020. PubMed ID: 32720683



