
今回は、大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群(Femoroacetabular Impingement Syndrome:FAI症候群/FAIS)について、症状、受診の目安、検査、治療、リハビリ、スポーツ復帰まで解説します。
股関節の前や鼠径部が痛い、深くしゃがむと股関節がつまる、長く座ったあとに股関節が重い……このような症状は、FAI症候群でみられることがあります。
FAI症候群では、大腿骨や寛骨臼の形態が関係し、股関節を深く曲げたりひねったりしたときに痛みや可動域制限が生じます。ただし、画像でCam型やPincer型の形態が見つかっただけではFAI症候群とは診断されません。症状・診察所見・画像所見をあわせて判断することが重要です[1][2]。
- FAI症候群とはどのような状態か
- 股関節の前が痛い・つまるときの症状と受診の目安
- 病院で行う検査と治療の考え方
- リハビリの進め方
- スポーツ復帰で確認したいポイント
股関節の痛み全体について知りたい方は、関連する股関節・鼠径部痛の記事もあわせて確認してみてください。
FAI症候群とは?
FAI症候群は、大腿骨頭頚部や寛骨臼の形態が関係し、股関節を動かしたときに痛みや可動域制限などが生じる状態です。股関節を深く曲げる、内側へひねるなどの動きで、大腿骨と寛骨臼の間に負荷が集中し、関節唇や軟骨にも負担がかかることがあります[1][2]。
2016年のWarwick Agreementでは、FAI症候群は症状・臨床所見・画像所見の3つを組み合わせて診断すると整理されています[1]。そのため、骨の形だけを見て「FAIだから痛い」と判断することはできません。
FAIに関連する骨形態は、主に以下の3つに分けられます。
- Cam型:大腿骨頭から頚部にかけての形態が関係するタイプ
- Pincer型:寛骨臼側の形態が関係するタイプ
- Combined型:Cam型とPincer型の両方の特徴をもつタイプ

Cam形態は、成長期に股関節へ大きな負荷が繰り返しかかるスポーツ選手でみられやすいとされています[2]。一方で、こうした骨形態をもっていても症状がない人はいるため、画像所見だけで治療の必要性が決まるわけではありません。
主な症状と受診の目安
FAI症候群では、股関節の前方から鼠径部にかけての痛みがよくみられます。股関節を深く曲げる動作や、曲げた状態からひねる動作で「つまる」「引っかかる」と感じることもあります。
- 深くしゃがむと股関節の前や鼠径部が痛む
- 長時間座ったあとや車の乗り降りで痛む
- 股関節を深く曲げたり、ひねったりするとつまる
- サッカーのキックや方向転換などで症状が出る
- 股関節の動かしにくさや可動域制限を感じる
スポーツでは、サッカーのキック、ラグビーやホッケーなどの方向転換、ダンスやバレエで股関節を大きく動かす動作、ゴルフなどの回旋動作で症状が出ることがあります。

痛む場所を示すときに、親指と人差し指で股関節の前から横をC字型に包むように示すことがあり、これをCサインと呼びます。股関節内部の問題でみられることがある痛みの示し方ですが、CサインだけでFAI症候群と判断することはできません。

受診を考えるための症状確認
深くしゃがむ、膝を胸に近づける、長時間座るなどの動作で、繰り返し股関節前方や鼠径部に痛み・つまり感が出る場合は、一度股関節の状態を評価してもらうことを検討してください。自分で股関節を強く曲げたりひねったりして、痛みを何度も再現する必要はありません。
- 歩くのがつらいほど痛みが強い
- 転倒や衝突などの外傷後から強い痛みがある
- 股関節が引っかかって動かしにくい、ロッキング感がある
- 夜間や安静時にも強い痛みが続く、発熱を伴う
- 症状が数週間続く、またはスポーツ復帰のたびに繰り返す
股関節前方痛や鼠径部痛はFAI症候群だけで起こるわけではありません。股関節唇損傷、機能的股関節インピンジメント、グロインペイン症候群、腸腰筋肉ばなれ・腱周囲炎、内転筋肉ばなれ、弾発股、疲労骨折、変形性股関節症などでも似た症状がみられます。
症状が続く場合は「つまるからFAI」と自己判断せず、ほかの原因も含めて評価することが大切です。
病院で行う検査
FAI症候群の診断では、症状・臨床所見・画像所見を組み合わせて評価します[1]。画像だけでなく、「いつ、どの動作で、どこが痛むのか」を確認することが重要です。
- 問診・動作確認:痛みの場所、スポーツ歴、しゃがみ込みや座位など症状が出る場面を確認します。
- 可動域・徒手検査:股関節の屈曲や内旋などを確認し、FADIRテストやFABERテストなどで症状が再現されるかを評価します。
- X線検査:Cam・Pincer形態のほか、寛骨臼形成不全や変形性股関節症などがないかを確認します。
- CT・MRI検査:必要に応じて骨の形態を詳しく確認したり、関節唇や軟骨などの状態を評価したりします。
FADIRテストなどで痛みが出ても、それだけでFAI症候群と診断できるわけではありません。診察での症状再現と画像所見が一致しているかを総合的に確認します[1][2]。
FAI症候群の治療
FAI症候群では、症状の程度や競技への影響に応じて、まず活動量や動作の調整とリハビリテーションを含む保存療法を行うことが一般的です[1][2]。
深いしゃがみ込みなど症状が出やすい動作を一時的に調整しながら、股関節・体幹の筋力、動作コントロール、必要な可動域を整えていきます。骨の形態そのものを運動で変えることが目的ではなく、症状を誘発する負荷を調整しながら、日常生活やスポーツで必要な機能を高めていくことが大切です。
保存療法を行っても症状が十分に改善せず、競技や日常生活への支障が大きい場合には、関節鏡手術などが検討されることがあります。手術の適応は、症状、骨形態、関節唇や軟骨の状態、年齢、競技レベルなどを総合して判断します[1][2]。
FAI症候群のリハビリテーション
FAI症候群のリハビリでは、症状を誘発する負荷を調整しながら、股関節・体幹の筋力や動作を段階的に戻すことが重要です[1][2]。
実際のリハビリメニューが知りたい方は、↓の実践編の記事も参考にしてみてください。
保存療法では「何週間たったから次へ進む」というよりも、運動中だけでなく運動後や翌日の症状を確認しながら負荷を上げていきます。深い股関節屈曲や内旋で痛み・つまり感が強い場合は、無理にその方向へ可動域を広げないようにしましょう。
症状が強い時期
日常生活や軽い運動でも症状が出る時期は、痛みを繰り返し誘発する動作を調整しながら、できる範囲のトレーニングを続けます。
- 深いしゃがみ込みなど、症状が強く出る動作を一時的に調整する
- 痛みを強めない範囲で股関節周囲を動かす
- 殿筋や体幹などの筋力トレーニングを行う
- 症状が出ない範囲で上半身や患部外のトレーニングを継続する
日常生活の症状が落ち着いてきた時期
歩行や日常生活での痛みが落ち着いてきたら、股関節・体幹の筋力を高めながら、スクワットや片脚動作などへ段階的に進みます。
- 股関節・体幹周囲の筋力を高める
- スクワットや片脚スクワットなどの荷重動作を練習する
- 股関節に必要な可動域を、症状が出ない範囲で確保する
- 運動後から翌日に痛みやつまり感が増えないことを確認する
ジョギングを始める際は、左右差だけを基準にするのではなく、歩行や片脚動作が安定し、股関節を動かしたときの症状がコントロールできていることを確認します。開始後も、走っている最中だけでなく、その日の夜や翌日に症状が強くならないかを確認してください。
ランニング・競技動作を再開する時期
ジョギングや基本的な筋力トレーニングを行っても症状が安定してきたら、ランニング速度を上げ、ジャンプや方向転換、競技特有の動作へ進めます。
- ランニングからスプリントへ段階的に速度を上げる
- ジャンプやステップ、方向転換を低強度から始める
- キックなど競技特異的な動作を段階的に戻す
- 競技動作後から翌日まで症状が安定しているか確認する
FAI症候群では、股関節を深く曲げる動作や大きな回旋を伴う動作で症状が出やすいため、競技で必要な姿勢や動きをいきなり最大強度で行わず、負荷を少しずつ上げていきます。
なお、手術後のリハビリでは、骨の処置や関節唇修復など手術内容によって荷重や可動域の制限が異なります。術後は執刀医・主治医や施設のリハビリプロトコルを優先してください。
スポーツ復帰
FAI症候群のスポーツ復帰は、「痛みがなくなった」「一定期間が経過した」だけで判断するものではありません。競技で必要な負荷を段階的に経験し、症状と機能が安定していることを確認します。
- 日常生活や競技に必要な股関節可動域で症状が強くない
- 片脚スクワットなどの基本動作を安定して行える
- ランニング、スプリント、ジャンプ、方向転換を段階的に行える
- キックなど競技特異的動作を行っても症状が強くならない
- 練習後から翌日に痛みやつまり感が増えない
これらを確認しながら、部分的な練習参加から全体練習へと負荷を上げていきます。症状が再び強くなる場合は、無理にそのまま進めず、負荷を一段階下げて原因を確認しましょう。
手術を行ったアスリートを対象としたシステマティックレビューでは、受傷前と同じ競技レベルへ復帰した割合は74%、平均復帰期間は7.0±2.6か月と報告されています[3]。ただし、手術内容や競技レベル、関節唇・軟骨の状態などによって復帰時期には大きな差があります。
まとめ
- FAI症候群は、骨の形だけではなく、症状・診察所見・画像所見をあわせて判断します。
- 股関節前方や鼠径部の痛み、深くしゃがんだときのつまり感が続く場合は、ほかの股関節疾患も含めて評価することが大切です。
- 保存療法では、症状を誘発する負荷を調整しながら、筋力や動作、競技に必要な機能を段階的に戻していきます。
- スポーツ復帰は期間だけで決めず、競技動作と運動後・翌日の反応まで確認しながら進めましょう。
参考文献
[1]Griffin DR et al. The Warwick Agreement on femoroacetabular impingement syndrome (FAI syndrome): an international consensus statement. Br J Sports Med. 2016;50(19):1169-1176. PubMed ID: 27629403
[2]Trigg SD et al. Femoroacetabular Impingement Syndrome. Curr Sports Med Rep. 2020;19(9):360-366. PubMed ID: 32925375
[3]Reiman MP et al. Femoroacetabular impingement surgery allows 74% of athletes to return to the same competitive level of sports participation but their level of performance remains unreported: a systematic review with meta-analysis. Br J Sports Med. 2018;52(15):972-981. PubMed ID: 29581142


