
今回は肩QLS症候群(Quadrilateral Space Syndrome:QSS)について、症状・検査・原因・リハビリの流れをわかりやすく解説していきます。
QLS症候群は、投球やサーブなど肩を大きく使うスポーツで、肩の後ろが痛い、肩の外側がしびれる、肩に力が入りにくいといった症状に関係することがあります[1]。
比較的まれな病態ですが、首の神経症状や腱板損傷、インターナルインピンジメントなどと症状が似ることもあるため、自己判断しすぎないことが大切です。
- 肩QLS症候群とは何か
- 起こりやすいシーンとよくある症状
- セルフチェックと受診の目安
- 病院で行う検査
- リハビリとスポーツ復帰の目安
肩の痛み全体について知りたい方は、関連する肩関節の記事もあわせて確認してみてください。
目次
肩QLS症候群とは?
肩QLS症候群は、海外ではQSS(Quadrilateral Space Syndrome)と呼ばれることが多い病態です[1]。
QLS(四辺形間隙)は、肩の後ろ側で上腕三頭筋長頭、大円筋、小円筋、上腕骨近位部に囲まれたスペースを指します。この部位には腋窩神経と後上腕回旋動脈が通っています。
この周囲で反復ストレスや組織の緊張、狭窄が起こると、腋窩神経や血管が圧迫され、肩後方〜外側の痛み、しびれ、脱力感などが出ることがあります[1]。

肩QLS症候群が起こる原因
QLS症候群は、QLS周囲を通る腋窩神経や後上腕回旋動脈が、周囲組織の緊張や繰り返しのストレスによって圧迫・刺激されることで症状が出ると考えられています[1]。
特に、投球、サーブ、スパイクなどのように、肩を大きく外転・外旋する動作を繰り返すスポーツでは、肩後方の筋肉に負担がかかりやすくなります。
また、肩甲骨や体幹の安定性が低い場合、腕だけで投げるようなフォームになり、肩後方の筋肉が過剰に働きやすくなることがあります。
- 肩後方の筋肉の硬さ
- 肩甲骨の動きの悪さ
- 体幹や股関節の不安定性
- 投球・サーブ・スパイクなどの反復動作
- 腕に頼ったフォーム
肩QLS症候群が起こりやすいシーン
QLS症候群は比較的まれですが、20〜40代の男性に多いと報告されており、野球などのオーバーヘッドスポーツ選手でみられることがあります[2]。
特に、投球、テニスのサーブ、バレーボールのスパイク、ハンドボールのシュートなど、肩を大きく開いて強く振る動作で症状が誘発されることがあります。
投球フォームとの関係を詳しく知りたい方は、投球フォームとケガの記事も参考になります。

肩QLS症候群のよくある症状
QLS症候群では、肩後方〜外側にかけての痛みや、同部位のしびれ、肩の脱力などの症状を呈することがあります[1]。
- 投球後半で肩の後ろが痛い
- 肩の外側がジンジンする、しびれる感じがある
- 肩後方を押すと症状が出る
- 肩に力が入りにくい感じがある
- 投球後に重だるさや違和感が残る
- 肩の外側の筋肉がやせてきたように感じる
一方で、肩後方の痛みやしびれは、QLS症候群だけで起こるわけではありません。首由来の神経症状、腱板損傷、インターナルインピンジメント、肩関節唇損傷などでも似た症状が出ることがあります。
肩QLS症候群のセルフチェック
次の項目に当てはまる場合、QLS症候群が関係している可能性があります。ただし、これは自己診断ではありません。症状が続く場合や、しびれ・脱力がある場合は、整形外科で相談してください。
- 投球やサーブの後半で肩の後ろが痛くなる
- 肩の外側にしびれやジンジンする感じがある
- 肩後方を押すと、痛みやしびれが再現される
- 肩に力が入りにくい感じがある
- 休むと軽くなるが、再開すると症状が戻る
- 首を動かしても症状が変わる
セルフチェックで当てはまっても、QLS症候群と決めつけないようにしましょう。しびれや脱力がある場合は、早めに医療機関で確認することが大切です。
早めに受診したいサイン
次のような症状がある場合は、自己判断で運動やマッサージを続けず、早めに整形外科で相談してください。
- しびれが続く、広がってくる
- 肩に力が入りにくい、脱力感が強い
- 肩の外側がやせてきた感じがある
- 安静時も痛い、夜間痛が強い
- 外傷後から強い痛みがある
- 発熱や強い腫れを伴う
- 首から腕、手にかけて症状が広がる
このような場合は、QLS症候群だけでなく、頚椎由来の神経症状、腱板損傷、肩関節唇損傷、血管・神経の問題などとの区別も必要になります。
神経症状は長引くと回復に時間がかかることがあります。「少ししびれるだけ」と思って放置せず、早めに確認しましょう。
病院で行う検査
QLS症候群は診断が簡単ではなく、問診や診察を中心に、必要に応じて画像検査を組み合わせて評価します[1]。
問診・診察
問診では、痛みが出る場面、投球数、ポジション、症状が出るタイミング、しびれや脱力の有無などを確認します。
診察では、肩後方の圧痛、肩の可動域、筋力、肩甲骨の動き、神経症状の有無などを確認します。Tinel兆候など、神経が刺激されているかを確認する検査を行うこともあります。
画像検査
症状が強い場合や他の疾患との区別が必要な場合は、MRI検査で肩や首の状態を確認することがあります。MRIでは、小円筋や三角筋の萎縮などが手がかりになることもあります[3]。
また、症状や施設によっては、エコー検査、レントゲン検査、神経伝導検査などが検討されることもあります。
肩QLS症候群と診断されたら
QLS症候群では、まず保存療法で復帰を目指すことが多いです[1]。
痛みやしびれが強い時期には、肩後方への刺激を減らし、症状を悪化させる動作を避けることが大切です。神経症状が強い場合は、投薬や注射などが検討されることもあります。詳しくは専門の医師に相談してください。
保存療法で改善が乏しい場合や、症状が長引く場合には、追加検査や手術療法が検討されることもあります。ただし、QLS症候群は比較的まれな病態であり、治療方針は症状や競技特性によって異なります。
- 痛み・しびれを悪化させる刺激を避ける
- 肩後方の過剰な緊張を減らす
- 肩甲骨・体幹の安定性を高める
- 投球フォームや練習量を見直す
- 症状が強い場合は医師の判断を優先する
肩QLS症候群のリハビリテーション
QLS症候群のリハビリでは、痛みやしびれの反応を見ながら、段階的に進めることが大切です。期間はあくまで目安であり、症状の変化を優先します。
- 炎症期:患部の刺激を減らし、症状を落ち着かせる
- 前期:肩甲骨・胸郭・姿勢を整える
- 中期:腱板・肩甲骨周囲筋・体幹を鍛える
- 後期:競技動作や投球フォームを確認する
- 復帰期:症状の再発がない範囲で段階的に練習へ戻る
炎症期:痛みやしびれが出やすい時期
目的:肩後方の刺激を減らし、痛みやしびれを落ち着かせます。
- 投球、サーブ、スパイクなど症状が出る動作を一時的に減らす
- 必要に応じてアイシングを行う
- 強いマッサージや圧迫は避ける
- 胸郭や肩甲骨まわりを痛みのない範囲で軽く動かす
- 日常姿勢を見直す
注意点:肩後方を押してしびれが出る場合は、無理にほぐさないようにしましょう。神経症状が強い場合は、まず医師の評価を優先してください。
リハビリ前期:痛みが落ち着いてきた時期
目的:肩甲骨や胸郭の動きを整え、肩後方に負担が集中しにくい状態を作ります。
- 胸郭・背中の柔軟性を改善する
- 肩甲骨を寄せる、下げるなどのコントロール練習を行う
- 痛みのない範囲で肩の可動域を整える
- 軽い腱板トレーニングを開始する
- フォームや姿勢で肩後方に負担がかかっていないか確認する
注意点:リハビリ中や翌日にしびれ・痛みが増える場合は、負荷が強すぎる可能性があります。回数や強度を下げましょう。
リハビリ中期:症状がかなり落ち着いた時期
目的:肩甲骨・腱板・体幹の筋力を高め、スポーツ動作へ戻る準備をします。
- チューブなどを使った腱板トレーニングを継続する
- 肩甲骨周囲筋のトレーニングを行う
- 四つ這いやプランクなど、肩に軽く荷重するトレーニングを開始する
- 体幹・股関節の安定性を高める
- シャドーピッチングなど、軽い競技動作を確認する
注意点:肩に体重をかけるトレーニングは、痛みやしびれが出ない範囲で行いましょう。症状が戻る場合は、前の段階に戻して調整します。
リハビリ後期:競技動作を再開する時期
目的:実際の競技動作に近い負荷をかけながら、症状が再発しないか確認します。
- 軽いキャッチボールや競技動作を段階的に再開する
- 投球・サーブ・スパイク後の痛みやしびれを確認する
- フォームチェックを行う
- 肩甲骨・体幹・股関節のトレーニングを継続する
- 練習量を少しずつ増やす
注意点:練習中だけでなく、練習後や翌日の症状も確認しましょう。翌日に痛みやしびれが増える場合は、負荷が強すぎるサインです。
スポーツ復帰の目安
スポーツ復帰は、症状がなくなっただけでなく、次のような点を確認しながら判断します。期間だけで決めず、状態を見ながら段階的に進めることが大切です。
- 安静時痛がない
- しびれがない
- 押した痛みが大きくない
- 肩後方の硬さが改善している
- 肩の可動域が左右で大きく違わない
- 腱板・肩甲骨周囲筋にしっかり力が入る
- 投球動作や競技動作で症状が再現しない
- 練習後や翌日に痛み・しびれが増えない
- フォームや練習量を調整できている
特に投球競技では、短い距離・弱い強度から始め、問題がなければ距離、強度、球数を少しずつ増やしていきます。
再発予防のポイント
QLS症候群では、症状が落ち着いたあとも、肩後方に負担が集中しないようにすることが大切です。
- 肩後方の強い張りを放置しない
- 肩甲骨の動きを整える
- 腱板・肩甲骨周囲筋を継続して鍛える
- 体幹・股関節の安定性を高める
- 腕だけで投げるフォームを避ける
- 投球数や練習量を記録する
- 痛みやしびれが出たら早めに練習量を調整する
投球フォームや動作分析について詳しく知りたい方は、投球フォームとケガの記事も参考にしてください。
FAQ(よくある質問)
Q1. QLS症候群と首の神経症状は違いますか?
症状だけで完全に区別するのは難しいことがあります。首由来のしびれや脱力でも肩〜腕に症状が出るため、必要に応じて診察や画像検査を組み合わせて評価します。
Q2. 肩QLS症候群はマッサージしてもよいですか?
軽くケアして楽になる場合もありますが、しびれや痛みが悪化するなら無理に続けない方が安全です。肩後方を強く押し込むマッサージは避け、症状がある場合は医療機関で相談してください。
Q3. QLS症候群はどれくらいでスポーツ復帰できますか?
軽い例では数週間で改善することもありますが、神経症状がある場合は長引くことがあります。復帰は期間だけでなく、痛み、しびれ、筋力、可動域、フォーム、翌日の反応を確認しながら判断します。
Q4. 痛みがなければ投げてもよいですか?
痛みがなくても、しびれや脱力感が残っている場合は注意が必要です。軽いキャッチボールから段階的に再開し、翌日に症状が戻らないか確認しましょう。
Q5. QLS症候群は手術が必要ですか?
多くの場合は保存療法から開始されます。ただし、保存療法で改善が乏しい場合や、神経症状が強く長引く場合には、専門医の判断で追加検査や手術療法が検討されることもあります[1]。
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まとめ
ここまで、肩QLS症候群の症状、検査、治療方針、リハビリテーションについて解説してきました。
肩QLS症候群は、オーバーヘッドスポーツでみられる肩後方痛やしびれの原因のひとつです。
ただし、比較的まれな病態であり、首由来の神経症状、腱板損傷、インターナルインピンジメントなどと症状が似ることがあります。
症状が残ったまま負荷を戻すと長引くことがあるため、痛みやしびれを確認しながら、肩甲骨・体幹・フォームも含めて段階的に復帰していきましょう。
しびれ、脱力、夜間痛、筋肉のやせ、症状の悪化がある場合は、早めに整形外科で評価を受けることをおすすめします。
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参考文献
[1]Flynn LS et al. Quadrilateral space syndrome: a review. J Shoulder Elbow Surg. 2018;27(5):950-956. PubMed ID: 29274905
[2]Aval SM et al. Neurovascular injuries to the athlete's shoulder: Part I. J Am Acad Orthop Surg. 2007;15(4):249-256. PubMed ID: 17426296
[3]Linker CS et al. Quadrilateral space syndrome: findings at MR imaging. Radiology. 1993;188(3):675-676. PubMed ID: 8351331

