
「お尻の下が痛い」「太ももの裏の付け根が、走ると痛い」「長く座っていると坐骨のあたりが痛む」といった症状は、ハムストリングス付着部炎と呼ばれることがあります。
医学的には近位ハムストリング腱障害(proximal hamstring tendinopathy:PHT)として扱われることが多い状態です。この記事では、症状や受診の目安、検査、治療、リハビリ、ランニング・スポーツ復帰までを整理していきます。
- ハムストリングス付着部炎とはどのような状態か
- お尻の下・太ももの裏の付け根が痛むときの特徴
- 早めに整形外科へ相談した方がよい症状
- 治療・リハビリの基本的な考え方
- ランニングやスポーツ復帰の進め方
太ももの裏の痛みには、ハムストリングス肉離れや腰・神経からくる痛みなど、さまざまな原因があります。太もも周囲の痛みについて全体像を確認したい方は、以下の記事も参考にしてください。
ハムストリングス付着部炎とは?
ハムストリングスは太ももの裏側にある筋肉で、その上端は骨盤にある坐骨結節という部分に付着しています(図1)。
この坐骨結節付近のハムストリング腱に痛みが続く状態が、近位ハムストリング腱障害(PHT)です。一般には「ハムストリングス付着部炎」と呼ばれることがありますが、慢性的なPHTは単純な炎症だけで説明できるものではなく、繰り返す負荷に対する腱の適応や負荷耐性の変化などが関係すると考えられています[1]。

PHTは、ランニングなどを繰り返すスポーツ選手にみられます。特に、走る量やスピードを急に増やした時期など、腱に加わる負荷と回復のバランスが崩れたときに症状が出ることがあります。
また、股関節を深く曲げる姿勢では近位ハムストリング腱に圧迫や伸張方向の負荷が加わるため、長時間座る、深くしゃがむ、強くハムストリングを伸ばすといった場面で症状が出ることもあります[2]。
ランニング量や速度、筋力、競技動作などを含めて、どの負荷で症状が出ているかを整理することが大切です。
なお、「ハムストリング症候群」という言葉は、坐骨付近の痛みに加えて大腿後面へ放散する痛みなど、坐骨神経との関係を含む病態として古くから報告されています[3]。PHTと症状が似ることはありますが、完全に同じ病態とは限りません。
また、「ハムストリングス筋膜炎」と表現されることもありますが、PHTの医学的な同義語として統一されているわけではありません。本記事では、主に近位ハムストリング腱障害について解説します。
ハムストリングス付着部炎の症状と受診の目安
PHTでは、お尻の一番下から太ももの裏の付け根にかけて、限局した痛みを感じることが多くあります(図2)。
- 坐骨のあたり、お尻の下が痛い
- 長時間座っていると痛みが強くなる
- ランニングやダッシュで痛い
- 深くしゃがむ動作で痛む
- ハムストリングを強く伸ばすと付け根が痛い
症状は突然ではなく、ランニングやトレーニングを続ける中で徐々に出てくることが比較的多いです。2025年のRCTでも、PHTはランニングや座位などで生じる局所的な下臀部痛を特徴とする状態として扱われています[4]。

ただし、「お尻の下が痛い=PHT」と自己判断することはできません。特に以下のような場合は、肉離れや腱損傷、骨折、神経由来の症状などを確認するためにも、整形外科やスポーツ整形外科への相談を検討してください。
- ダッシュやキックなどで突然強く痛めた
- 受傷時に「ブチッ」「パンッ」といった感覚があり、歩きにくい
- 腫れや大きな内出血、明らかな筋力低下がある
- しびれや大腿後面への強い放散痛がある
- 負荷を調整しても痛みが続く、または徐々に悪化している
特に成長期の選手では、坐骨結節の骨端部を痛める障害や裂離骨折が似た症状を示すことがあります。スプリントやキックで突然強く痛めた場合は、成人の慢性的なPHTと同じように考えないことが重要です。
突然の強い痛み、内出血、歩行困難、しびれなどがある場合は、別のケガが隠れていないか確認することが大切です。
病院で行う検査
病院では、まず痛みが出始めた時期、スポーツやトレーニング量の変化、座位やランニングとの関係などを確認します。
触診では坐骨結節付近の圧痛を確認し、ハムストリングに負荷をかけた際に普段の症状が再現されるかを評価します。PHTにはいくつかの疼痛誘発テストがあり、一定の信頼性・妥当性が報告されていますが、単独のテストだけで診断するものではありません[5]。
症状や経過によっては、MRI検査や超音波検査などが行われることがあります。MRIでは近位ハムストリング腱の状態や周囲組織を確認でき、肉離れや腱損傷などとの鑑別にも役立ちます。
ただし、MRIで腱の変化がみられても、それが必ず痛みの原因とは限りません。PHTの症状がない人にも近位ハムストリング腱の信号変化がみられることが報告されているため、画像だけではなく、症状や診察所見と合わせて判断することが重要です[6]。
どの動作で症状が出るのか、筋力や機能がどこまで戻っているかも一緒にみていきます。
ハムストリングス付着部炎の治療
PHTでは、まず保存療法を行うことが一般的です。治療の中心は、痛みを強くする負荷を調整しながら、ハムストリングが再び負荷に耐えられるよう段階的に運動療法を進めることです。
症状に応じて、以下のような治療が検討されます。
- ランニング・トレーニング負荷の調整
- 理学療法・段階的な運動療法
- 必要に応じた薬物療法
- 体外衝撃波療法や注射療法など
- 保存療法で改善しない一部の症例に対する手術療法
ただし、PHTに対する治療研究はまだ十分ではありません。2021年のSystematic Reviewでは、体外衝撃波療法、注射療法、手術などさまざまな治療が検討されていますが、特定の治療法を他より強く推奨できるだけのエビデンスは不足しているとされています[1]。
また、2025年に報告された100名を対象としたRCTでは、個別に行う理学療法と体外衝撃波療法を比較した結果、主要な痛み・機能の改善について両群に明確な差は認められませんでした[4]。
そのため、「○○治療を受ければ治る」と考えるよりも、症状の経過やスポーツで必要な負荷を確認しながら治療方法を選択することが大切です。
ハムストリングス付着部炎のリハビリテーション
PHTのリハビリでは、単に痛い場所を休ませるだけではなく、負荷を調整しながらハムストリングの負荷耐性を段階的に高めていくことが重要です。
保存療法に関するSystematic Reviewでは、ハムストリングに対する段階的な負荷や、骨盤・体幹を含めた運動療法などが検討されています[2]。ただし、すべての人に共通する最適な運動プログラムが確立されているわけではありません。
- 運動中に痛みが大きく増えていないか
- 運動後に症状が強く残っていないか
- 当日夜に座位痛などが悪化していないか
- 翌日に痛みが明らかに強くなっていないか
初期|痛みを悪化させる負荷を調整する
症状が強い時期は、痛みが出るランニング量やスピード、トレーニング内容を一度見直します。完全に身体活動を止めるのではなく、患部を強く刺激しない方法で体力や患部以外の筋力を維持できるか検討します。
この時期に注意したいのが、痛みを強く出すハムストリングストレッチです。股関節を深く曲げて強く伸ばす動作では近位腱への負荷が大きくなることがあるため、「硬いからたくさん伸ばせばよい」とは限りません。
症状に応じて、ブリッジなど比較的調整しやすい運動や、ハムストリングの等尺性収縮などから開始し、反応を確認しながら負荷を設定します。
中期|ハムストリングの負荷耐性を高める
日常生活や軽い運動で症状が落ち着いてきたら、徐々にハムストリングへ加える抵抗を増やします。
- ブリッジやヒップエクステンション系の運動
- ハムストリングカール
- 股関節を使ったヒップヒンジ系の運動
- 片脚での下肢筋力トレーニング
- 殿筋・体幹を含めた運動
最初から深い股関節屈曲位で高負荷をかける必要はありません。まず負荷をコントロールできる範囲から始め、その後、スポーツで必要となる長い筋長や大きな力へ段階的に進めていきます。
翌日に座るのが明らかにつらくなる場合などは、前日の負荷が高すぎた可能性があります。
後期|ランニング・スプリントに必要な負荷へ戻す
筋力トレーニングを進められるようになったら、ランニングに必要な速い動きや大きな力へつなげていきます。
- より高い負荷でのハムストリング筋力トレーニング
- 片脚でのヒップヒンジや下肢筋力トレーニング
- ジョギングからランニングへの移行
- ランニング速度の段階的な増加
- スプリントや競技特異的動作への移行
特にランナーやサッカー、ラグビーなどの選手では、ジョギングができるだけでは十分ではありません。競技では高い速度でハムストリングに大きな負荷が加わるため、高速ランニングやスプリントまで段階的に経験してから競技へ戻すことが重要です。
ランニング・スポーツ復帰の考え方
PHTでは、「何週間たったから復帰する」と一律に決められる十分な研究はありません。症状の期間、競技種目、必要な走速度、筋力などによって復帰までの経過は異なります[1,2]。
スポーツ復帰では、以下のような状態を確認しながら進めましょう。
- 日常生活や座位で症状が十分にコントロールされている
- ハムストリングに必要な筋力・負荷をかけられる
- ランニング速度を上げても症状が大きく悪化しない
- スプリントや競技特異的動作を段階的に実施できる
- 練習後や翌日に症状が大きく戻らない
復帰の進め方は、一般的にはジョギング → ランニング → 高速ランニング → スプリント → 競技特異的動作 → 通常練習のように、必要な負荷を少しずつ増やしていきます。
実際の競技で必要なスピードや動作まで確認し、練習後・翌日の反応をみながら復帰を進めましょう。
ハムストリングス付着部炎のFAQ
ハムストリングスはストレッチした方がよいですか?
ストレッチがすべてのPHTに必要とは限りません。特に、前屈などで坐骨付近の痛みが強く出る時期に、強いストレッチを繰り返すと症状を刺激する可能性があります。
柔軟性が必要な場合もありますが、症状やリハビリ段階に合わせて調整しましょう。
痛みがあってもランニングを続けてよいですか?
強い痛みを我慢して走り続けることは勧められません。一方で、すべての運動を完全に中止する必要があるとも限りません。
走る距離やスピードを調整し、運動中だけでなく運動後・翌日の症状をみながら負荷を設定します。判断に迷う場合は、医師や理学療法士、アスレティックトレーナーなどへ相談してください。
治るまでどのくらいかかりますか?
発症からの期間、症状の強さ、競技、必要なランニング速度などによって大きく異なります。
PHTでは確立された一律の復帰期間はありません。期間だけでなく、症状・筋力・ランニングへの反応を確認しながら進めることが大切です。
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まとめ
ハムストリングス付着部炎と呼ばれる症状の多くは、坐骨結節付近にある近位ハムストリング腱の障害として考えられます。
お尻の下や太ももの裏の付け根が、座位やランニングで痛むことが特徴ですが、突然の強い痛み、内出血、歩行困難、しびれなどがある場合は他のケガも考える必要があります。
リハビリでは、痛みを強くする負荷を調整しながら筋力を段階的に戻し、ジョギングから高速ランニング、スプリント、競技動作へ進めていきます。復帰時期は期間だけで決めず、症状や筋力、運動後・翌日の反応まで確認しましょう。
参考文献
[1]Nasser AM, Vicenzino B, Grimaldi A, et al. Proximal Hamstring Tendinopathy: A Systematic Review of Interventions. Int J Sports Phys Ther. 2021;16(2):288-305. PubMed ID: 33842025
[2]Dizon P, Jeanfavre M, Leff G, et al. Comparison of Conservative Interventions for Proximal Hamstring Tendinopathy: A Systematic Review and Recommendations for Rehabilitation. Sports (Basel). 2023;11(3):53. PubMed ID: 36976939
[3]Puranen J, Orava S. The hamstring syndrome--a new gluteal sciatica. Ann Chir Gynaecol. 1991;80(2):212-214. PubMed ID: 1897889
[4]Rich A, Ford J, Cook J, et al. Physiotherapy Compared With Shockwave Therapy for the Treatment of Proximal Hamstring Tendinopathy: A Randomized Controlled Trial. Am J Sports Med. 2025;53(14):3396-3407. PubMed ID: 41243328
[5]Cacchio A, Borra F, Severini G, et al. Reliability and validity of three pain provocation tests used for the diagnosis of chronic proximal hamstring tendinopathy. Br J Sports Med. 2012;46(12):883-887. PubMed ID: 22219215
[6]De Smet AA, Blankenbaker DG, Alsheik NH, et al. MRI appearance of the proximal hamstring tendons in patients with and without symptomatic proximal hamstring tendinopathy. AJR Am J Roentgenol. 2012;198(2):418-422. PubMed ID: 22268187

