
今回は、股関節内転筋肉ばなれについて、原因、症状、検査、治療方針、リハビリテーション、スポーツ復帰の目安を解説します。
内ももから鼠径部にかけて痛みを感じたことはありませんか?特に、スポーツ中のキック動作、方向転換、ダッシュ、急停止で急に痛みが走った場合、内転筋肉ばなれが関係しているかもしれません。
内転筋肉ばなれは、軽症であれば比較的スムーズに改善することもありますが、痛みを我慢してプレーを続けると長引いたり、再発したりすることがあります。股関節・鼠径部の痛みは他のケガとも似ているため、痛みが強い場合や長引く場合は医療機関で確認することが大切です。
- 内転筋肉ばなれとは何か
- 内もも・鼠径部が痛くなる原因
- よくある症状とセルフチェック
- 病院で行う検査
- 保存療法とリハビリの考え方
- スポーツ復帰の目安
- 再発予防のポイント
- よくある質問
股関節や鼠径部の痛み全体について知りたい方は、関連する股関節・骨盤周囲の痛みの記事もあわせて確認してみてください。
目次
内転筋肉ばなれとは?
股関節内転筋肉ばなれとは、内ももにある内転筋群に過度な負荷がかかり、筋肉や腱の一部が損傷した状態を指します。
内転筋群は、脚を内側に閉じる動きや、キック、方向転換、ダッシュ時の骨盤・股関節の安定に関わります。スポーツでは、サッカー、アイスホッケー、ラグビー、陸上競技などで問題になりやすいケガです[1][2][4]。
内転筋肉ばなれも、一般的な肉ばなれと同様に、Ⅰ度(軽度)、Ⅱ度(中等度)、Ⅲ度(重度)に分類されることがあります。軽度であれば数週間で改善することもありますが、症状を無視してプレーを続けると、鼠径部痛として長期化することがあります[3]。

内転筋肉ばなれが起こりやすい場面
内転筋肉ばなれは、急激な方向転換やキック動作が多い競技で起こりやすいとされています。サッカーやアイスホッケーでは、股関節・鼠径部のケガとして内転筋由来の痛みが問題になりやすいことが報告されています[1][2][4]。
- サッカーのキック動作
- 急な方向転換
- ダッシュや急停止
- スライディングや開脚動作
- アイスホッケーのスケーティング
- ラグビーや格闘技で脚を大きく開く動作
- 練習量や走行量が急に増えたとき
- 疲労が溜まった状態での高強度プレー
また、股関節周囲の柔軟性低下、内転筋や殿筋の筋力不足、体幹・骨盤周囲の安定性低下、股関節の動きの偏りがあると、内転筋に負担が集中しやすくなります。

内転筋肉ばなれでよくある症状
内転筋肉ばなれの主な症状は、内ももから鼠径部にかけての痛みです。内転筋を伸ばしたときや、脚を閉じるように力を入れたときに痛みが出やすくなります。
- 内ももが痛い
- 鼠径部が痛い
- 股関節を開くストレッチで痛い
- 脚を閉じる動作で痛い
- キックすると内ももが痛い
- 方向転換で痛い
- 走る・歩くと痛い
- 押すと内転筋に痛みがある
- 重症では腫れや内出血が出ることがある
股関節を開くストレッチや、内転筋を収縮させる動作で痛みが誘発されることが多いです(図2)。

内もも・鼠径部が痛いときに考えたい他のケガ
内ももや鼠径部の痛みは、内転筋肉ばなれ以外でも起こることがあります。症状が似ていても、対応が異なることがあるため注意が必要です。
- グロインペイン症候群
- 腸腰筋肉ばなれ・腸腰筋腱周囲炎
- 下前腸骨棘裂離骨折(AIIS裂離骨折)
- 恥骨結合炎
- 股関節唇損傷
- FAI症候群
- 鼠径ヘルニア
- 大腿骨頚部疲労骨折
痛みが強い場合や長引く場合は、内転筋だけの問題と決めつけず、医療機関で評価を受けましょう。
セルフチェック
ここでは、内転筋由来の痛みが疑われるときに確認しやすいポイントを紹介します。ただし、セルフチェックは診断ではありません。痛みが強い場合は無理に行わず、医療機関で評価を受けてください。
内転筋ストレッチ痛
股関節を開くストレッチをしたときに、内ももや鼠径部に痛みが出るかを確認します。鋭い痛みがある場合は無理に伸ばさないようにしてください。
脚を閉じる抵抗痛
座った状態や仰向けで、両膝の間にボールやタオルを挟み、軽く脚を閉じるように力を入れます。内ももや鼠径部に痛みが出る場合、内転筋に負担がかかっている可能性があります。
圧痛の確認
内転筋の付け根や内ももを軽く押して、左右差やピンポイントの痛みがあるか確認します。強く押しすぎないようにしましょう。
片脚スクワット・サイドランジ
片脚スクワットやサイドランジで、内ももや鼠径部に痛みが出るか、動作が不安定にならないか確認します。痛みがある場合は中止してください。
- 強い痛みが出る場合は中止する
- 痛みを我慢して繰り返さない
- 左右差を確認する
- 痛みが長引く場合は医療機関で確認する
早めに受診した方がよい症状
以下のような症状がある場合は、重度の肉ばなれや他の股関節・鼠径部の問題が隠れている可能性があります。早めに医療機関を受診してください。
- 痛みが強く歩くのが難しい
- 受傷時に「ブチッ」「ピキッ」という感覚があった
- 内ももに強い腫れや内出血がある
- 脚を閉じる力が入らない
- 鼠径部にふくらみがある
- 夜間痛や安静時痛がある
- しびれや感覚の異常がある
- 数日〜数週間たっても改善しない
- 復帰するとすぐに再発する
病院で行う検査
内転筋肉ばなれは、診察と必要に応じた画像検査を組み合わせて評価します。
- 問診:受傷場面、痛みの出る動作、練習量の変化を確認
- 触診:内転筋の圧痛や腫れを確認
- ストレッチ痛:股関節を開いたときの痛みを確認
- 収縮時痛:脚を閉じるように力を入れたときの痛みを確認
- X線:骨折や疲労骨折などの確認
- エコー検査:筋損傷や血腫の確認
- MRI検査:損傷部位や重症度、他の鼠径部痛の原因を確認
X線では骨の状態を確認できますが、筋肉の損傷そのものは見つけにくいです。筋肉や腱の損傷、腫れ、血腫の確認には、エコー検査やMRI検査が用いられることがあります。
内転筋肉ばなれと診断されたら
多くの場合は、まず保存療法で改善を目指します。保存療法では、痛みを悪化させる動作を一時的に調整しながら、内転筋の治癒、股関節周囲の柔軟性、筋力、体幹・骨盤周囲の安定性、競技動作を段階的に改善していきます。
重度の肉ばなれで強い内出血や筋力低下がある場合、痛みが長引く場合、他の鼠径部痛が疑われる場合は、専門のスポーツドクターや理学療法士と相談しながら治療方針を決めましょう。
内転筋肉ばなれのリハビリテーション
内転筋肉ばなれのリハビリでは、内転筋の治癒、股関節・骨盤周囲の動きの偏りの改善、体幹と股関節周囲の安定性の改善、全身の連動性の改善が重要です。
ここでは保存療法での一般的な流れを紹介します。実際の進め方は、損傷の程度、痛みの強さ、競技特性によって変わります。
- 痛みや腫れが悪化していない
- リハビリ中・リハビリ後・翌日に痛みが増えていない
- ストレッチ痛が悪化していない
- 脚を閉じる抵抗痛が悪化していない
- 歩行や階段で痛みが強くなっていない
リハビリ前期:伸長時痛・収縮時痛がある時期
この時期は、内転筋に強い負荷をかけすぎず、痛みや腫れを落ち着かせることを優先します。キック、ダッシュ、方向転換など、痛みが出る動作は一時的に調整します。
- 痛みが出るキック、ダッシュ、方向転換を調整する
- 内転筋の腫れや痛みを確認する
- 痛みのない範囲で股関節周囲をケアする
- 胸郭、股関節、太もも周囲の柔軟性を整える
- 腹圧や体幹の安定性を練習する
- 痛みの出ない患部外トレーニングを行う
- 内転筋の軽い等尺性収縮を痛みのない範囲で検討する
リハビリ中期:伸長時痛・収縮時痛が落ち着いてきた時期
痛みが落ち着いてきたら、内転筋の筋力、股関節周囲の柔軟性、体幹・骨盤周囲の安定性を段階的に高めていきます。
- 内転筋・股関節・胸郭の柔軟性を改善する
- 内転筋の筋力トレーニングを低負荷から行う
- 体幹・股関節周囲の筋力トレーニングを行う
- スクワットや片脚スクワットなどの荷重トレーニングを行う
- サイドランジなどの横方向の動作を低強度から行う
- 痛みが安定していれば軽いジョギングを検討する
ジョギングを開始する前には、以下のような項目を確認したいところです。
- 股関節のストレッチで強い痛みや大きな左右差がない
- 脚を閉じる抵抗運動で強い痛みがない
- 片脚スクワットが左右とも安定してできる
- サイドランジで痛みが強く出ない
- 運動後や翌日に痛みが悪化しない
- 医師や理学療法士から運動進行の許可が出ている
リハビリ後期:強度を上げても痛みが出にくい時期
走る、切り返す、蹴る、跳ぶといった競技動作を段階的に再開していきます。キックやダッシュは内転筋への負担が大きいため、慎重に進めます。
- 直線ランニングの速度を少しずつ上げる
- スプリント、ステップワーク、ジャンプを低強度から行う
- 横方向のステップや切り返しを段階的に行う
- キック動作を軽い強度から再開する
- リアクションドリルや対人動作を段階的に行う
- 運動後の内転筋の張りや圧痛を確認する
復帰期:競技強度を上げても痛くない時期
競技強度を上げても痛みが出にくい場合、1〜2週間程度かけて段階的に練習参加を増やしていきます。
- 部分参加から全体練習へ移行する
- スプリント、ジャンプ、キック、方向転換を確認する
- 対人動作や競技特異的な動作を段階的に戻す
- 練習後や翌日に痛みが増えないか確認する
- 内転筋の柔軟性と筋力を継続して確認する
- 症状が再燃した場合は負荷を一段階戻す
- 日常生活で内もも・鼠径部の痛みがない
- 内転筋ストレッチで強い痛みがない
- 脚を閉じる抵抗運動で強い痛みがない
- 片脚スクワットが安定している
- サイドランジで痛みが悪化しない
- ジョギングやスプリントで痛みが悪化しない
- キックや方向転換で痛みが悪化しない
- 練習後や翌日に痛みが増えない
復帰目安
復帰までの期間は、損傷の程度、痛みの強さ、競技特性、再発歴によって変わります。
軽度の内転筋関連の鼠径部痛は比較的短期間で改善することがありますが、痛みを我慢してプレーを継続すると長期化することがあります[1][2][3]。
復帰時期は、単に「何週間たったか」だけで判断せず、ストレッチ痛、収縮時痛、片脚動作、キック、方向転換、翌日の反応を確認しながら決めることが大切です。
よくある質問
内転筋肉ばなれは自然に治りますか?
軽症であれば、運動量の調整やリハビリで改善することがあります。ただし、痛みを我慢してプレーを続けると長引いたり、再発したりすることがあります。
ストレッチしてもいいですか?
痛みが強い時期に強く伸ばすと悪化することがあります。ストレッチは痛みのない範囲で行い、鋭い痛みが出る場合は中止しましょう。
走ってもいいですか?
歩行や日常生活で痛みが少なく、内転筋の抵抗運動や片脚動作で痛みが強くない場合は、軽いジョギングから検討することがあります。走った後や翌日に痛みが増える場合は負荷を下げる必要があります。
キックはいつ再開できますか?
キックは内転筋に大きな負担がかかる動作です。まずはジョギング、スプリント、片脚動作、サイドステップが安定し、脚を閉じる抵抗運動で痛みが強く出ないことを確認してから、軽いキックから段階的に再開します。
再発予防には何が大切ですか?
内転筋の柔軟性だけでなく、内転筋の筋力、殿筋、体幹、股関節周囲の動作コントロールが大切です。特にキックや方向転換の負荷を急に上げすぎないようにしましょう。
まとめ
股関節内転筋肉ばなれは、内ももから鼠径部にかけて痛みが出るスポーツ外傷の一つです。キック、方向転換、ダッシュ、急停止などで起こりやすく、サッカーやアイスホッケーなどで問題になりやすいケガです。
軽症であれば比較的スムーズに改善することもありますが、痛みを我慢してプレーを続けると、長期化や再発につながることがあります。
リハビリでは、内転筋の治癒、股関節・骨盤周囲の動きの偏り、体幹と股関節周囲の安定性、キックや方向転換などの競技動作を段階的に改善していくことが重要です。
痛みを感じたら無理をせず、必要に応じて専門家に相談しながら、安全にスポーツ復帰を目指しましょう。

