
スポーツ中のキックや方向転換、ダッシュで、内ももから鼠径部にかけて急に痛みが走った場合は、股関節内転筋肉ばなれが関係している可能性があります。
内転筋肉ばなれは軽症であれば比較的早く競技へ戻れることもありますが、損傷の程度によって回復期間は大きく異なります。また、鼠径部の痛みには筋肉以外の原因もあるため、強い痛みや長引く症状がある場合は適切な評価が必要です。
この記事では、内転筋肉ばなれの症状、受診の目安、検査、治療、リハビリテーション、スポーツ復帰までを整理します。
- 内転筋肉ばなれが起こりやすい場面と主な症状
- 受診を考えたい症状と病院で行う検査
- 保存療法とリハビリの進め方
- ランニング・キック・方向転換を再開する考え方
- スポーツ復帰を判断するポイント
股関節や鼠径部の痛み全体について知りたい方は、関連する股関節・骨盤周囲の痛みの記事もあわせて確認してみてください。
内転筋肉ばなれとは?
股関節内転筋肉ばなれとは、内ももにある内転筋群に急激な力が加わり、筋肉や腱の一部が損傷した状態です。長内転筋を中心に起こることが多く、損傷の程度は軽い筋線維損傷から、まれに完全断裂や腱付着部の損傷までさまざまです[3]。
内転筋群は、脚を内側へ動かすだけでなく、走る、切り返す、蹴るといった動作で股関節や骨盤をコントロールする役割があります。サッカーやアイスホッケーなどでは内転筋損傷が比較的多く報告されています[1]。

受傷しやすいのは、キック、急な方向転換、ダッシュ、急停止、スライディングなど、内転筋へ急激な力が加わる場面です。過去の鼠径部損傷や内転筋力の低下、股関節回旋可動域の低下などは、急性内転筋損傷のリスク因子として報告されています[3]。
- サッカーのキックや急な方向転換
- ダッシュや急停止、スライディング
- 脚が大きく開く動作
- 高強度の運動を繰り返す場面

なお、スポーツ選手の鼠径部痛には、急性の筋損傷とは別に内転筋関連鼠径部痛(adductor-related groin pain)などもあります。内転筋部の圧痛や抵抗をかけて脚を閉じたときの痛みがみられることがありますが、これだけで急性の肉ばなれと診断できるわけではありません[2]。発症のきっかけがはっきりしない痛みや、長く続く鼠径部痛は、単純な肉ばなれと決めつけないことが大切です。
主な症状と受診の目安
内転筋肉ばなれでは、内ももから鼠径部にかけての痛みが中心となります。キックや方向転換などの瞬間に急な痛みが出ることが多く、その後は内転筋を伸ばしたり、脚を閉じるように力を入れたりすると痛みが誘発されます。
- 内ももや鼠径部に局所的な痛みがある
- 股関節を開くストレッチで痛む
- 脚を閉じるように力を入れると痛む
- 走る、蹴る、方向転換する動作で痛みが出る
- 重症では腫れや内出血、筋力低下を伴う

自分で確認する場合は、診断のためではなく症状の程度を見ることが目的です。無理に強くストレッチしたり、強い抵抗を加えたりする必要はありません。内ももを軽く押したときの痛みや、軽く脚を閉じたときの痛みなどを確認する程度にしましょう。
内ももや鼠径部が痛くても、すべてが内転筋肉ばなれとは限りません。症状が続く場合には、以下のような疾患も考慮します。
- グロインペイン症候群
- 腸腰筋肉ばなれ・腸腰筋腱周囲炎
- 下前腸骨棘裂離骨折(AIIS裂離骨折)などの骨盤周囲の裂離骨折
- 股関節唇損傷やFAI症候群
- 鼠径ヘルニアや大腿骨頚部疲労骨折など
- 痛みが強く、歩行や脚を閉じる動作が難しい
- 内ももに強い腫れや広い範囲の内出血がある
- 鼠径部にふくらみがある、または安静時にも強い痛みが続く
- 数日たっても症状が改善しない、または運動再開のたびに痛みを繰り返す
- 成長期で、キックやダッシュの瞬間に骨盤・股関節周囲へ強い痛みが出た
病院で行う検査
内転筋肉ばなれの評価では、まず受傷した場面や痛みの場所を確認し、触診や股関節の動き、内転筋に力を入れたときの痛みなどを評価します。急性内転筋損傷では、受傷機転と診察所見が重要です。
- 問診・触診:受傷場面、圧痛、腫れ、内出血などを確認する
- 抵抗運動:脚を閉じる方向へ力を入れたときの痛みや筋力を確認する
- エコー・MRI:損傷部位や範囲、血腫、腱付着部の損傷などを確認する
- X線:成長期の裂離骨折や、骨の損傷が疑われる場合などに確認する
画像検査はすべてのケースで必要になるわけではありません。強い筋力低下や広い内出血がある場合、完全断裂や腱付着部損傷が疑われる場合、診断がはっきりしない場合などにMRIやエコーが役立ちます[3]。
内転筋肉ばなれの治療
急性内転筋肉ばなれの多くは、保存療法を基本として治療します。初期にはキック、ダッシュ、方向転換など痛みを強くする動作を調整し、症状が落ち着いてきたら内転筋への負荷を段階的に戻していきます。
部分損傷では、理学療法や運動療法を中心とした保存療法によって競技復帰を目指すことが一般的です[3]。一方、完全断裂や腱の付着部から大きく損傷している場合には、保存療法と手術療法の両方が選択肢となることがあります。損傷部位や程度、競技レベルなどを踏まえて専門医と治療方針を相談します[3]。
大切なのは、痛みが少し軽くなった段階でいきなり競技へ戻るのではなく、内転筋の筋力とスポーツ動作への耐えられる負荷を少しずつ高めていくことです。
内転筋肉ばなれのリハビリテーション
リハビリでは、単に痛みが消えるのを待つのではなく、内転筋へ段階的に負荷を戻し、走る・切り返す・蹴る動作へつなげていくことが重要です。急性内転筋損傷では、一定の日数だけで進めるのではなく、症状と機能を確認しながら段階的に進める方法が用いられています[4]。
具体的なリハビリメニューが知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
- 運動中の痛みが強くならない
- 運動後に痛みや圧痛が大きく増えない
- 当日夜から翌日に症状が悪化していない
- 前の段階の動作を安定して行えてから負荷を上げる
初期:痛みを落ち着かせながら内転筋へ負荷を戻す
受傷直後は、痛みが出るキック、ダッシュ、急な方向転換などを一時的に調整します。完全に動かさないことを目的とするのではなく、歩行などの日常動作の状態を確認しながら、痛みを強くしない範囲で身体活動を維持していきます。
内転筋への運動は、痛みが強くなければ軽い等尺性収縮などから始め、反応を見ながら負荷を高めます。強いストレッチや高負荷の内転運動を早い段階から無理に行う必要はありません。
- 痛みが出る競技動作を一時的に調整する
- 軽い内転筋収縮から負荷を戻す
- 痛みのない範囲で股関節を動かす
- 患部に負担をかけないトレーニングは可能な範囲で継続する
中期:内転筋力と基本動作を回復する
ストレッチ時痛や軽い抵抗運動での痛みが落ち着いてきたら、内転筋の筋力トレーニングを段階的に進めます。負荷の軽い運動から始め、徐々に大きな力を出す運動や、股関節を大きく動かす中での内転筋トレーニングへ移行します。
同時にスクワット、片脚スクワット、サイドランジなどを行い、荷重した状態で股関節・骨盤を安定して動かせるか確認します。これらの動作が安定し、日常生活や運動後に症状が悪化しなければ、軽いジョギングを検討します。
- 歩行や階段で痛みがほとんどない
- 軽いストレッチや内転筋の抵抗運動で強い痛みがない
- 片脚スクワットやサイドランジを安定して行える
- 運動後や翌日に症状が悪化しない
後期:スプリント・方向転換・キックへ戻す
ジョギングを問題なく行えるようになったら、走行速度を徐々に上げ、スプリント、横方向の動き、切り返しへ進みます。サッカーなどでは、キックも軽い強度から始め、距離やスピード、ボールへの力を段階的に高めていきます。
最後はリアクションを伴う方向転換、対人プレーなど、予測しにくい競技動作まで戻していきます。単独の運動で痛みがないことだけではなく、複数の高強度動作を繰り返しても症状が再燃しないことを確認することが大切です。
- ジョギングから高速ランニングへ
- 直線走から横方向のステップ・方向転換へ
- 軽いキックから強いキックへ
- 単独動作からリアクション・対人動作へ
スポーツ復帰の目安
内転筋肉ばなれの復帰時期は、損傷の程度によって大きく異なります。成人男性アスリートを対象とした研究では、MRIで軽度〜中等度とされた損傷では全体練習への復帰まで中央値18日、完全断裂・裂離を含む重度損傷では中央値78日でした[4]。また、systematic reviewでは部分損傷の復帰期間としておよそ1〜7週間が報告されています[3]。
ただし、これらは研究集団での目安であり、「何週間たったから復帰できる」と判断するための数字ではありません。競技復帰では、痛み、筋力、競技動作、全体練習への参加状況などを組み合わせて判断することが重要です[5]。
- 内転筋を押す、伸ばす、力を入れる動作で強い痛みがない
- 内転筋の筋力が十分に回復し、高い負荷にも対応できる
- スプリント、方向転換、キックなどを競技に近い強度で行える
- 全体練習を行っても症状が大きく再燃しない
- 練習後から翌日まで痛みや張りが増えていない
2026年のsystematic reviewでも、内転筋損傷後の復帰判断では、疼痛の評価、筋力の回復、少なくとも1回の全体練習を完遂できることなどが主に用いられていました[5]。一方で、内転筋損傷に対する復帰基準のエビデンスは十分に確立しているとはいえないため、競技や損傷の程度に合わせた個別判断が必要です。
復帰後も内転筋の筋力トレーニングを継続し、スプリント、方向転換、キックなどの高強度動作を急激に増やさないことが大切です。再発歴がある選手では、練習量や競技動作への戻し方も含めて確認しましょう。
まとめ
- 内転筋肉ばなれでは、キックや方向転換などで内もも〜鼠径部に急な痛みが出ることがあります。
- 強い腫れや筋力低下、歩行困難、長引く鼠径部痛がある場合は、他の疾患も含めて評価を受けることが大切です。
- リハビリは内転筋への負荷を段階的に高め、ランニング、方向転換、キックへつなげます。
- スポーツ復帰は期間だけで決めず、痛み、筋力、競技動作、練習後の反応を確認して判断します。
参考文献
[1]Eckard TG et al. Epidemiology of Hip Flexor and Hip Adductor Strains in National Collegiate Athletic Association Athletes, 2009/2010-2014/2015. Am J Sports Med. 2017;45(12):2713-2722. PubMed ID: 28745561
[2]Weir A et al. Doha agreement meeting on terminology and definitions in groin pain in athletes. Br J Sports Med. 2015;49(12):768-774. PubMed ID: 26031643
[3]Gonzales Farrell S et al. Acute Adductor Muscle Injury: A Systematic Review on Diagnostic Imaging, Treatment, and Prevention. Am J Sports Med. 2023;51(13):3591-3603. PubMed ID: 36661128
[4]Serner A et al. Return to Sport After Criteria-Based Rehabilitation of Acute Adductor Injuries in Male Athletes: A Prospective Cohort Study. Orthop J Sports Med. 2020;8(1):2325967119897247. PubMed ID: 32064292
[5]Pecci J et al. Return-to-Play Criteria Following Lower Limb Muscle Injuries in Soccer: A Systematic Review with Evidence Synthesis. Sports Med. 2026;56(6):1433-1465. PubMed ID: 41851593


