
今回は、グロインペイン症候群について、原因、症状、検査、治療方針、リハビリテーション、スポーツ復帰の考え方を解説します。
グロインペイン症候群は、サッカーやラグビーなどのスポーツ選手にみられることが多い、鼠径部・股関節まわりの痛みです。キック、ダッシュ、方向転換、腹筋動作などで痛みが出ることがあり、痛みが長引いたり再発したりすることもあります。
ただし、グロインペインは一つの病名だけを指すというより、鼠径部周囲の痛みを含む広い概念として使われます。内転筋、腸腰筋、恥骨、鼠径部、股関節など、どこが痛みの主な原因になっているかを確認しながら治療やリハビリを進めることが大切です。
- グロインペイン症候群とは何か
- 鼠径部・股関節まわりが痛いときに考えたい症状
- キックやダッシュで痛みが出やすい理由
- 病院で行う検査
- 保存療法と手術療法の考え方
- リハビリとスポーツ復帰の目安
股関節や鼠径部の痛み全体について知りたい方は、関連する股関節・骨盤周囲の記事もあわせて確認してみてください。
目次
グロインペイン症候群とは?
グロインペイン症候群とは、スポーツ選手にみられる鼠径部周囲の痛みを表す言葉として使われます。鼠径部には、内転筋、腸腰筋、腹筋、恥骨、股関節、神経、血管など多くの組織が集まっているため、痛みの原因が一つに絞りにくいことがあります。
国際的には、Doha agreementにより、アスリートの鼠径部痛は大きく、内転筋関連、腸腰筋関連、鼠径部関連、恥骨関連、股関節関連、その他の原因に分類して考えることが提案されています[1]。
そのため、「グロインペイン症候群」とまとめて呼ばれていても、実際には痛みの場所や原因が人によって異なります。治療やリハビリでは、どの組織に痛みが出ているのか、どの動作で悪化するのかを丁寧に確認することが大切です。

グロインペイン症候群を起こしやすい場面
グロインペイン症候群は、急激な方向転換、加速・減速、キック、スプリントなどが多いスポーツで起こりやすいです。
- サッカーのキック動作
- ダッシュやスプリント
- 急な方向転換や切り返し
- ストップ動作や減速動作
- 腹筋動作や体幹に強く力を入れる動作
- 片脚で踏ん張る動作
- 練習量やキック本数が急に増えたとき
サッカー、ラグビー、バスケットボール、陸上競技、アイスホッケーなどでは、股関節や鼠径部に負担がかかりやすく、痛みが出ることがあります。

グロインペイン症候群でよくある症状
主な症状は、鼠径部や股関節まわりの痛みです。痛みの出る場所や動作は、内転筋、腸腰筋、恥骨、鼠径部、股関節など、どこが主に関係しているかによって変わります。
- 鼠径部が痛い
- 股関節の前側や内側が痛い
- キックをすると痛い
- 走ると痛い
- 方向転換や切り返しで痛い
- 腹筋をすると痛い
- 内ももに力を入れると痛い
- くしゃみ、せき、トイレで力むと痛い
- 症状が悪化すると歩行や日常生活でも痛みが出る
Doha agreementでは、内転筋関連の鼠径部痛では内転筋の圧痛と抵抗をかけた内転動作での痛み、腸腰筋関連では腸腰筋の圧痛や股関節屈曲抵抗・股関節屈筋ストレッチでの痛み、鼠径部関連では鼠径管周囲の痛みや圧痛、腹筋抵抗やくしゃみ・せきでの悪化などが整理されています[1]。

鼠径部・股関節まわりが痛いときに考えたい他のケガ
鼠径部や股関節まわりの痛みでは、グロインペイン症候群だけでなく、他のケガや疾患が関係していることもあります。
- 股関節内転筋損傷
- 腸腰筋損傷
- 恥骨結合炎・恥骨関連鼠径部痛
- 鼠径ヘルニア
- 股関節唇損傷
- 股関節インピンジメント(FAI)
- 大腿骨頚部疲労骨折
- 下前腸骨棘裂離骨折(AIIS裂離骨折)
- 神経由来の痛み
- 泌尿器・内科的な疾患
特に、くしゃみやせき、トイレで力むと痛い場合、鼠径部にふくらみがある場合、安静時や夜間にも強い痛みがある場合は、筋肉だけの問題と決めつけず、医療機関で確認することが大切です。
早めに受診した方がよい症状
以下のような症状がある場合は、骨折、疲労骨折、鼠径ヘルニア、精巣疾患、感染、神経症状などを確認する必要があります。早めに整形外科や医療機関を受診してください。
- 痛みが強く、歩くのが難しい
- 安静時や夜間にも強い痛みが続く
- 鼠径部にふくらみがある
- くしゃみ、せき、力みで強く痛む
- 精巣の痛みや違和感がある
- 発熱や強いだるさを伴う
- しびれや感覚の異常がある
- 股関節を動かすと強く痛む
- 数日休んでも痛みが明らかに改善しない
病院で行う検査
グロインペイン症候群では、痛みの場所、痛みが出る動作、競技特性、練習量の変化、過去のケガなどを確認します。診察では、鼠径部、内転筋、腸腰筋、恥骨、腹筋、股関節などを丁寧に評価します。
- 問診:いつから痛いか、どの動作で痛いかを確認
- 触診:内転筋、腸腰筋、恥骨、鼠径管周囲などの圧痛を確認
- 筋力検査:内転、股関節屈曲、腹筋抵抗などで痛みを確認
- ストレッチ痛:股関節伸展や内転筋ストレッチなどで痛みを確認
- 股関節評価:可動域、インピンジメントテストなどを確認
- 画像検査:必要に応じてX線、MRI、超音波、CTなどを検討
痛みの原因を整理するために、X線やMRIで骨、股関節、恥骨、筋腱付着部などを確認することがあります。表層の筋腱や鼠径部の評価には超音波検査が役立つこともあります。CTは、骨の細かい状態を確認したい場合などに検討されます。
アスリートのグロインペインでは、診察だけでなくMRIなどの画像検査を組み合わせることで、診断の確からしさが高まる可能性が報告されています[2]。
グロインペイン症候群と診断されたら
グロインペイン症候群では、まずは保存療法で改善を目指すことが多いです。痛みの原因となっている組織や動作を整理し、運動量の調整、筋力、柔軟性、体幹・骨盤周囲の安定性、競技動作の改善を段階的に進めます。
一方で、鼠径ヘルニアや難治性の鼠径部関連痛など、保存療法で改善しにくいケースでは、手術療法が検討されることもあります。システマティックレビューでは、恥骨部痛・pubalgiaに対して、保存療法をまず検討すべきであり、手術を行う場合も積極的なリハビリが重要とされています[3]。
グロインペイン症候群のリハビリテーション
グロインペイン症候群のリハビリでは、痛みのコントロール、股関節・骨盤周囲の機能改善、体幹の安定性の改善、全身の連動性の改善が重要です。
運動療法は、グロインペインの治療や予防に役立つ可能性が報告されています[4]。ただし、痛みの原因や症状の強さによって進め方は大きく変わります。ここでは保存療法での一般的な流れを紹介しますが、実際には医師や理学療法士の指示に従ってください。
- 痛みが悪化していない
- リハビリ中・リハビリ後・翌朝に症状が悪化していない
- 圧痛や抵抗運動時痛が強くなっていない
- 走行、キック、方向転換のあとに痛みが増えていない
- 医師やリハビリ担当者の許可に沿って進めている
保存療法のリハビリの流れ
リハビリ前期:伸長時痛・収縮時痛がある時期
痛みが強い時期は、痛みを悪化させる動作を一時的に調整しながら、患部に強い負担をかけない範囲で股関節、骨盤、体幹の機能を整えていきます。
- 痛みが出るキック、ダッシュ、方向転換を一時的に調整する
- 胸郭、股関節、太もも周囲の柔軟性を痛みのない範囲で整える
- 呼吸や腹圧のコントロールを練習する
- 痛みの出ない患部外トレーニングを行う
- 内転筋や腹筋に強い痛みが出る運動は避ける
リハビリ中期:伸長時痛・収縮時痛が落ち着いてきた時期
痛みが落ち着いてきたら、股関節周囲の筋力、体幹の安定性、片脚動作を段階的に高めていきます。
- 股関節の可動域を痛みのない範囲で改善する
- 内転筋、腸腰筋、殿筋、体幹の筋力トレーニングを段階的に行う
- スクワット、片脚スクワットなどの荷重トレーニングを行う
- 痛みが悪化しない範囲でジョギング開始を検討する
- 直線ランニングの速度を少しずつ上げる
ジョギングを開始する前には、以下のような項目を確認したいところです。
- 股関節のストレッチで強い痛みや大きな左右差がない
- 片脚スクワットが左右とも安定してできる
- もも上げ動作で痛みや左右差が少ない
- 内転筋や腸腰筋の抵抗運動で強い痛みがない
- 運動後や翌日に痛みが悪化しない
リハビリ後期:ランニングや競技動作を増やす時期
直線ランニングで痛みが出にくくなってきたら、スプリント、ステップワーク、ジャンプ、キックなどの競技動作を段階的に再開します。
- スプリント、ステップワーク、ジャンプを低強度から行う
- キック動作を軽い強度から再開する
- 方向転換や切り返し動作を段階的に行う
- リアクションドリルや対人動作を段階的に行う
- 運動後の圧痛や筋肉の張りを確認する
復帰期:競技練習へ段階的に戻る時期
競技動作の強度を上げても痛みが出にくくなってきたら、1〜2週間程度かけて段階的にチーム練習へ参加していきます。
- 部分参加から全体練習へ段階的に移行する
- キック、ダッシュ、切り返し、対人動作を段階的に確認する
- 練習後や翌日に痛みが増えないか確認する
- 復帰後も圧痛、筋肉の張り、可動域を確認する
- 筋力、柔軟性、体幹の安定性を継続して管理する
- 日常生活で鼠径部痛がない
- 内転筋や腸腰筋などの圧痛が強くない
- 抵抗運動やストレッチで痛みが強くならない
- 片脚スクワットが安定している
- ジョギングやスプリントで痛みが悪化しない
- キックや方向転換で痛みが出にくい
- 練習後や翌日に痛みが悪化しない
よくある質問
グロインペイン症候群は自然に治りますか?
軽い症状であれば、運動量の調整やリハビリで改善することがあります。一方で、痛みが長引く場合や再発を繰り返す場合は、原因を整理したうえでリハビリや治療方針を見直す必要があります。
どれくらいでスポーツ復帰できますか?
復帰時期は、痛みの原因、症状の期間、競技種目、筋力や動作の状態によって大きく変わります。数週間で改善する場合もあれば、数ヶ月かかることもあります。時間だけでなく、キック、ダッシュ、方向転換後に痛みが悪化しないかを確認して判断します。
走ってもいいですか?
歩行や日常生活で痛みが少なく、股関節の動きや片脚動作が安定している場合は、軽いジョギングから検討することがあります。ただし、走った後や翌日に痛みが増える場合は、負荷を下げる必要があります。
キックはいつ再開できますか?
キックは鼠径部に負担がかかりやすい動作です。まずはジョギング、スプリント、片脚動作が安定し、内転筋や腸腰筋の抵抗運動で痛みが強くないことを確認してから、軽いキックから段階的に再開します。
手術が必要になることはありますか?
多くは保存療法から開始しますが、鼠径部関連痛やヘルニア関連の問題などで、保存療法を続けても改善が乏しい場合には手術療法が検討されることがあります。手術の必要性は、痛みの原因や症状、競技レベルを踏まえて専門医と相談して判断します。
再発予防で大切なことは何ですか?
内転筋、腸腰筋、殿筋、体幹の筋力と柔軟性を整えること、片脚動作や方向転換の安定性を高めること、練習量やキック本数を急に増やしすぎないことが大切です。
まとめ
グロインペイン症候群は、スポーツ選手に多くみられる鼠径部・股関節まわりの痛みです。内転筋、腸腰筋、恥骨、鼠径部、股関節など、痛みの原因は人によって異なります。
キック、ダッシュ、方向転換、腹筋動作、くしゃみやせきで痛みが出ることがあり、症状が長引いたり再発したりすることもあります。
リハビリでは、痛みのコントロール、股関節・骨盤周囲の機能改善、体幹の安定性、片脚動作、キックやダッシュなどの競技動作を段階的に整えていくことが重要です。
「少し痛いけど何とかできる」と無理を続けると長引くことがあります。医師やリハビリの専門家と相談しながら、再発しにくい状態でスポーツ復帰を目指しましょう。

