頚椎損傷・頚髄損傷の症状と対応|首のケガ・しびれ

今回は頚椎損傷頚髄損傷(cervical spine injury / cervical spinal cord injury)について解説します。

頚椎損傷・頚髄損傷は、スポーツ現場で起こる外傷の中でも命に関わる可能性がある重篤なケガです。

発生頻度は高くありませんが、対応を誤ると症状が悪化する可能性があります。

特に、首の痛み、手足のしびれ・脱力、意識障害、呼吸の異常がある場合は、自己判断で動かさず、すぐに救急要請を行うことが重要です。

この記事でわかること
・頚椎損傷と頚髄損傷の違い
・スポーツ現場で疑うべき症状と危険サイン
・受傷直後にやってはいけないこと
・病院で行う検査と治療方針
・リハビリとスポーツ復帰の考え方

首の痛みや手足のしびれについて幅広く知りたい方は、関連する頚部の症状の記事もあわせて確認してみてください。

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頚椎損傷・頚髄損傷とは?

首のである「頚椎」や、その中を通る重要な神経である「頚髄」を損傷してしまうことをさします(図1)。

首の骨である頚椎の骨折や脱臼、靭帯損傷などを頚椎損傷と呼びます。

一方で、首の中を通る脊髄神経が損傷された状態を頚髄損傷と呼びます。

頚椎損傷と頚髄損傷の違いを示したイメージ図
図1:頚椎と頚髄のイメージ図。頚椎は首の「骨」、頚髄は首の「神経」をさします。

頚椎損傷だけで頚髄に損傷がない場合は、骨や靭帯の治癒に合わせて回復を目指せることがあります。

しかし、頚髄損傷を伴う場合は、手足の麻痺、感覚障害、呼吸障害などが残る可能性があります。

日本で行われた外傷性脊髄損傷の全国調査では、外傷性脊髄損傷のうち頚髄損傷が多くを占めることが報告されています[1]。

あきと

頚髄損傷は、損傷部位によっては呼吸に関わる筋肉にも影響します。首のケガでは「大丈夫そう」に見えても、慎重に対応することが大切です。

頚椎損傷・頚髄損傷を疑う危険サイン

スポーツ中に頭や首へ強い衝撃が加わったあと、以下のような症状がある場合は、頚椎損傷・頚髄損傷を疑います。

すぐに救急要請を考える危険サイン
・首の強い痛み
・手足のしびれ、電気が走るような痛み
・手足に力が入らない、動かしにくい
・感覚が鈍い、触られている感じがわかりにくい
・呼吸が苦しい、呼吸が不安定
・意識がぼんやりしている、反応が悪い
・倒れたまま動けない

これらの症状がある場合、選手を無理に起こしたり、首を動かしたりしないことが重要です。

すぐに周囲へ協力を依頼し、救急要請を行いましょう。

目の前で選手が首のケガをしたら

頚椎損傷・頚髄損傷が疑われる場面では、最優先は安全確保救急要請です。

一般の方が無理に選手を動かすと、神経症状を悪化させる可能性があります。

現場での基本対応
  • 周囲の安全を確認する
  • 選手を無理に起こさない
  • 頭・首を動かさないように声をかける
  • すぐに救急要請を行う
  • 呼吸や意識の状態を確認する
  • 専門スタッフがいる場合は、頭頚部の固定を依頼する

スポーツ現場では、SABCDEアプローチのように、現場の安全確認、気道、呼吸、循環、神経所見、環境管理を順に確認する考え方があります。

ただし、MILS(Manual in-line stabilization:用手正中固定)などの頭頚部固定は、基本的にトレーニングを受けたスタッフが行う対応です。

頚椎損傷が疑われる場面での頭頚部固定のイメージ
図2:MILS(Manual in-line stabilization, 用手正中固定)のイメージ図。頚椎損傷が疑われる場合は、頭頚部を動かさないことが重要です。

あきと

「立てる?」「歩ける?」と確認したくなりますが、首のケガが疑われる場合は動かさないことが最優先です。

頚椎損傷・頚髄損傷が起こりやすい原因

頚椎損傷・頚髄損傷は、頭部や頚部に強い外力が加わったときに生じます。

スポーツでは、頭から地面や相手に衝突する動作、頚部が強く曲げられる・反らされる・ねじられる動作で起こりやすいとされています。

日本の外傷性脊髄損傷の調査では、高齢者では転倒が多い一方で、スポーツに関連した脊髄損傷は若年層にもみられることが報告されています[1]。

  • ラグビーやアメリカンフットボールでの頭部からの衝突
  • スクラムやタックルで首に強い力が加わる
  • 柔道や体操競技で頭部から落下する
  • 水中への飛び込みで頭部を強打する
  • 転倒や交通事故などの高エネルギー外傷

ラグビーのスクラムで頚椎損傷が起こりやすい場面

頚椎損傷・頚髄損傷のよくある症状

・首の痛み
・手足のしびれ、電撃痛
・手足の脱力感、麻痺
・感覚が鈍い
・呼吸が苦しい
・意識障害を伴う場合がある

頚椎損傷だけの場合は、首の痛みや動かしにくさが中心となることがあります。

一方、頚髄損傷を伴う場合は、手足のしびれ、脱力、麻痺、感覚障害などが生じる可能性があります。

症状が一時的に軽くなっても、頚髄に影響がないとは判断できません。

あきと

一瞬しびれただけでも、首の外傷後であれば注意が必要です。症状が軽く見えても、必ず医療機関で確認しましょう。

首の痛みやしびれを起こす疾患には、頚椎症性神経根症・脊髄症胸郭出口症候群肩こり・首こり、脳振盪などもあります。受傷状況や神経症状の有無によって対応が変わるため、自己判断は避けましょう。

病院で行う検査

病院では、まず意識状態、呼吸状態、循環状態、神経症状の有無を確認します。

頭部外傷や脳振盪を合併していることもあるため、全身状態を含めた評価が行われます。

  • X線検査:骨折や配列異常の確認
  • CT検査:頚椎骨折や脱臼の詳細な評価
  • MRI検査:脊髄、椎間板、靭帯、神経の損傷評価
  • 神経学的評価:筋力、感覚、反射、麻痺の範囲を確認

外傷性脊髄損傷では、損傷の部位や程度を評価し、治療方針や予後を検討します。

頚椎損傷のCTとMRI検査のイメージ

脊髄損傷の重症度評価:ASIA Impairment Scale(AIS)

脊髄損傷の神経学的な重症度評価では、ASIA Impairment Scale(AIS)が広く用いられています[2]。

AISは、運動機能や感覚機能がどの程度残っているかをもとに、AからEまでに分類します。

  • A:完全麻痺
  • B:感覚は残るが運動機能は残らない
  • C:運動機能は残るが筋力が十分ではない
  • D:運動機能が比較的保たれている
  • E:正常
ASIA Impairment Scaleと筋機能評価の説明図
図3:AISと筋機能評価のまとめ。脊髄損傷後の神経機能評価では、運動・感覚の残存状態を確認します。

AISは診断名ではなく、神経機能の状態を整理するための分類です。

実際の予後やリハビリ方針は、画像所見、損傷高位、全身状態などを含めて総合的に判断されます。

頚椎損傷・頚髄損傷と診断されたら

治療方針は、骨折や脱臼の安定性、靭帯損傷の有無、脊髄圧迫の程度、神経症状の有無によって決まります。

保存療法で経過をみる場合もあれば、手術療法が必要になる場合もあります。

中下位頚椎損傷では、Subaxial Injury Classification and Severity Scale(SLIC)などの分類が治療方針の判断材料として用いられることがあります[3]。

治療方針を決める主な要素
・骨折や脱臼の形態
・靭帯損傷の有無
・脊髄や神経根の圧迫の程度
・麻痺やしびれなど神経症状の有無
・症状が進行しているかどうか

特に、脊髄への圧迫が強い場合や神経症状が進行している場合は、早期の手術が検討されることがあります。

治療方針は自己判断せず、必ず脊椎・脊髄を専門とする医師の判断に従いましょう。

頚椎損傷・頚髄損傷のリハビリテーション

頚椎損傷・頚髄損傷のリハビリは、損傷部位や神経症状の程度によって大きく異なります。

自己判断で首を動かしたり、筋トレやストレッチを始めたりすることは危険です。

必ず医師や理学療法士など専門家の指示に従って進めましょう。

あきと

このケガのリハビリは、一般的なセルフケアとは全く違います。許可された範囲で、安全に進めることが最優先です。

頚椎損傷のみの場合

頚髄損傷を伴わない頚椎損傷では、骨折や靭帯損傷の治癒を確認しながら、段階的にリハビリを進めます。

頚椎カラーを使用する期間がある場合、首まわりや肩甲骨周囲の筋肉が硬くなったり、筋力が低下したりすることがあります。

・医師から許可された範囲での頚部筋の等尺性収縮
・肩甲骨周囲筋のリラクゼーション
・姿勢保持に関わる体幹・肩甲骨周囲筋のエクササイズ
・日常生活動作の再獲得
・スポーツ動作への段階的復帰

頚椎損傷後に使用される頚椎カラーのイメージ

頚髄損傷を含む場合

頚髄損傷を伴う場合は、神経症状の程度、AIS分類、呼吸状態、日常生活動作の状態をもとにリハビリを進めます。

外傷性脊髄損傷後の機能回復や分類の変化については個人差が大きく、歩行能力や日常生活動作の獲得には多くの要因が関係します[4]。

AIS A/Bの場合

AIS A/Bでは、運動機能の障害が大きいため、残存機能を最大限に活かすこと、拘縮や褥瘡などの二次的な問題を予防することが重要です。

・関節可動域の維持
・残存筋力を活かした動作練習
・車椅子操作や移乗動作の練習
・呼吸管理や体位変換
・日常生活動作の獲得

AIS C/Dの場合

AIS C/Dでは、残存している運動機能を活かしながら、立ち上がり、歩行、移乗などの動作獲得を目指します。

・立ち上がり練習
・歩行練習
・体幹・下肢筋力の強化
・バランス練習
・日常生活動作の再獲得

スポーツ復帰の考え方

頚椎損傷・頚髄損傷後のスポーツ復帰は、非常に慎重に判断する必要があります。

頚椎損傷後の復帰については、痛みがないこと、神経症状がないこと、筋力と可動域が回復していることなどが重要とされています[5]。

ただし、脊柱管狭窄、脊髄症状、繰り返す神経症状がある場合、コンタクトスポーツへの復帰が制限されることがあります。

復帰判断で重要なポイント
・首の痛みがない
・手足のしびれや脱力がない
・頚部可動域が十分に回復している
・筋力が左右差なく回復している
・画像上の不安定性がない
・医師から競技復帰の許可が出ている

復帰時期はケガの程度や競技特性によって大きく異なります。

「症状がなくなった=復帰してよい」ではありません。必ず専門医の判断を受けましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 首を痛めた選手を起こしてもよいですか?

頚椎損傷・頚髄損傷が疑われる場合は、無理に起こしてはいけません。首を動かすことで神経症状が悪化する可能性があります。動かさず救急要請を行いましょう。

Q2. 一瞬しびれただけなら大丈夫ですか?

一時的なしびれでも、頭頚部への衝撃後に起きた場合は注意が必要です。症状が消えても、頚髄や神経根への影響がないとは判断できません。医療機関で確認しましょう。

Q3. 頚椎損傷と頚髄損傷は何が違いますか?

頚椎損傷は首の骨や靭帯の損傷、頚髄損傷は首の中を通る脊髄神経の損傷です。頚髄損傷を伴うと、手足の麻痺や感覚障害、呼吸障害などが生じる可能性があります。

Q4. スポーツ復帰はできますか?

頚椎損傷のみで神経症状がなく、骨や靭帯の安定性が確認されれば復帰を目指せる場合があります。一方、頚髄損傷や脊柱管狭窄、神経症状が残る場合は復帰が制限されることがあります。必ず専門医の判断が必要です。

Q5. リハビリは自分で始めてもよいですか?

自己判断で首のストレッチや筋トレを始めるのは危険です。頚椎・頚髄損傷では、医師の許可と専門家の指導のもとでリハビリを進めましょう。

まとめ

頚椎損傷・頚髄損傷は、スポーツ現場で起こる外傷の中でも特に注意が必要なケガです。

首の痛み、手足のしびれ・脱力、呼吸の異常、意識障害がある場合は、選手を動かさず救急要請を行いましょう。

治療やリハビリ、スポーツ復帰は、損傷の程度や神経症状の有無によって大きく変わります。

自己判断を避け、必ず専門医や医療スタッフの指示に従って、安全に回復を目指しましょう。

あきと
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参考文献

[1]Miyakoshi N et al. A nationwide survey on the incidence and characteristics of traumatic spinal cord injury in Japan in 2018. Spinal Cord. 2021;59(6):626-634. PubMed ID: 32782342

[2]Roberts TT et al. Classifications In Brief: American Spinal Injury Association (ASIA) Impairment Scale. Clin Orthop Relat Res. 2017;475(5):1499-1504. PubMed ID: 27815685

[3]Patel AA et al. Subaxial cervical spine trauma classification: the Subaxial Injury Classification system and case examples. Neurosurg Focus. 2008;25(5):E8. PubMed ID: 18980482

[4]van Middendorp JJ et al. ASIA impairment scale conversion in traumatic SCI: is it related with the ability to walk? A descriptive comparison with functional ambulation outcome measures in 273 patients. Spinal Cord. 2009;47(7):555-560. PubMed ID: 19104512

[5]Huang P et al. Return-to-Play Recommendations After Cervical, Thoracic, and Lumbar Spine Injuries: A Comprehensive Review. Sports Health. 2016;8(1):19-25. PubMed ID: 26502187

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