
この記事では、FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群)と診断された、または股関節を深く曲げた時の詰まり感や痛みが続いている選手・保護者・指導者の方向けに、具体的なリハビリ方法、ストレッチ、筋トレ、ランニングやスポーツ復帰の目安を解説します。
FAIでは、深くしゃがむ、低い姿勢をとる、方向転換するなどの動作で、股関節の前側や鼠径部に痛みが出ることがあります。
ただし、画像でcam型・pincer型などの骨形態が確認されただけでFAI症候群と決まるわけではなく、症状・診察所見・画像所見を合わせて評価することが重要とされています[1]。
この記事では詳しい病態説明よりも、今何をすればよいか、どこまで動かしてよいか、いつ走る・練習する・復帰するかを中心に紹介します。
FAIの症状、原因、検査、治療について詳しく知りたい方は、以下の記事をご確認ください。
股関節の痛み全体について知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
- FAIのリハビリの進め方
- 股関節が痛い時に避けたい動作
- ストレッチ・筋トレの方法
- ランニングやスポーツ復帰の目安
- 医療機関へ相談した方がよい症状
FAIリハビリの基本方針
FAIのリハビリでは、痛みが出る股関節の角度を無理に繰り返すのではなく、まず症状を落ち着かせながら、股関節周囲と体幹の筋力を高めていきます。
FAI症候群に対する保存療法では、活動量の調整、患者教育、筋力トレーニングなどを組み合わせることで、短期的な痛みや機能の改善が報告されています[2][3]。
- 痛みが出る股関節の角度や練習量を調整する
- 痛みのない範囲で股関節を動かす
- 体幹・殿筋・股関節周囲の筋力を高める
- スクワットや片脚動作へ進む
- ランニング、方向転換、競技練習へ戻す
痛みが強い時期
歩行や階段、長時間の座位でも股関節前面が痛む場合は、深いしゃがみ込みや低い姿勢での運動を一時的に減らします。
完全に運動を中止するのではなく、痛みのない上半身や体幹トレーニング、歩行などは状態に合わせて継続します。
回復期
日常生活での痛みが落ち着いてきたら、体幹・殿筋の筋力を高めながら、スクワットなどの荷重動作を始めます。
この時期は「どこまで深く曲げられるか」より、痛みなく安定して動ける範囲を少しずつ広げることを優先します。
スポーツ復帰期
基本的な筋トレや片脚動作が安定したら、ジョギング、加速・減速、方向転換、キックなどへ進みます。
運動中だけでなく、練習後や翌日に症状が戻っていないかを確認しながら負荷を高めます。
FAIで痛みがある時に避けたい動作
- 痛みを我慢した深いスクワットや深いしゃがみ込み
- 股関節を深く曲げた状態で内側へ強くねじる動作
- 低いイスや深く股関節を曲げた姿勢での長時間座位
- 痛みが出る切り返し・キック・練習を繰り返す
これらの動作を一生避けるという意味ではありません。症状が強い時期は一時的に範囲や量を減らし、リハビリに合わせて必要な動作へ戻していきます。
FAIだから「股関節を曲げてはいけない」わけではありません。まずは痛みが出る深さを避け、症状が落ち着いたら使える範囲を少しずつ広げましょう。
FAIの痛みと練習量の調整
FAIでは、痛む股関節を強くストレッチすることよりも、まず症状を誘発している運動量や動作を調整することが重要です。教育や活動調整は、保存療法でも重要な要素とされています[4]。
- 深いスクワット、切り返し、キックなど痛む動作の量を減らす
- 痛みのない体幹・上半身トレーニングは継続する
- ウォーキングや自転車は股関節の反応を見ながら行う
- 運動後・当日夜・翌日の痛みを確認する
自転車では股関節が深く曲がることで痛みが出ることがあります。その場合は、負荷だけでなくサドルの高さや運動時間も調整してください。
FAIのストレッチ・可動域改善
FAIでは、股関節をできるだけ柔らかくすることがリハビリの目的ではありません。
骨の形態によって使いやすい可動域には個人差があるため、痛みなく日常生活や競技に必要な範囲を使えることを目標にします。
股関節後方ストレッチ
目的:股関節後方の筋肉をほぐすことで、股関節の動きを改善しやすくします。
- 仰向けで寝て、股関節後方にボールを入れます。
- 股関節を開き、臀部に圧迫を加えます。
- 10秒ほど圧迫し、ボールの位置を変えます。
- ※ 股関節の骨(大転子)の後側をおこなうと効果が高まります。
- 全体的に5~10分を目安に行います。

注意点:股関節の痛みが出る位置まで膝を倒さないようにしましょう。
ベントニー・フォールアウト
目的:骨盤を安定させながら、痛みのない範囲で股関節を外側へ動かすことです。
- 仰向けで両膝を曲げ、足裏を床につけます。
- お腹へ軽く力を入れます。
- 片側の膝をゆっくり外側へ倒します。
- 骨盤が傾く手前で止めます。
- 左右10回程度を目安に行います。

注意点:股関節前面に詰まり感や鋭い痛みが出る位置まで膝を倒さないようにしましょう。
骨盤の前後傾運動
目的:骨盤と腰椎をコントロールし、股関節だけへ動きが集中しすぎないようにすることです。
- 四つんばいになります。
- 腰を軽く反るように骨盤を前傾させます。
- 背中を丸めるように骨盤を後傾させます。
- 痛みのない範囲でゆっくり繰り返します。
- 10〜20回を目安に行います。

注意点:大きく動かす必要はありません。股関節の前側に痛みが出る場合は、動かす範囲を小さくしてください。
股関節が硬いからといって、前方の詰まり感を我慢しながら深く曲げたり、強く押し込んだりする必要はありません。痛みのない可動域を使えるようにすることを優先しましょう。
FAIの筋トレ
FAIの筋トレでは、体幹と殿筋を中心に、股関節を安定させながら動かす能力を高めます。
FAI症候群に対する理学療法では、体幹トレーニングや能動的な筋力強化を含むプログラムが機能改善につながると報告されています[3]。
初期:ドローイン
目的:腹部へ力を入れる感覚を身につけ、骨盤と体幹を安定させることです。
- 仰向けで両膝を曲げます。
- 鼻から息を吸い、口からゆっくり吐きます。
- 息を吐きながらお腹を軽くへこませます。
- 呼吸を止めずに腹部の緊張を維持します。
- 10〜20回を目安に行います。

注意点:息を止めたり、お腹を必要以上に強く固めたりしないようにしましょう。
初期:クラムシェル
目的:殿筋や股関節外旋筋群を鍛え、股関節の動きを安定させることです。
- 横向きになり、両膝を軽く曲げます。
- 骨盤が後ろへ倒れないようにします。
- 両足をつけたまま、上側の膝をゆっくり開きます。
- 2〜3秒止めて、ゆっくり戻します。
- 10回×2〜3セットを目安に行います。

注意点:股関節を開く時に患部痛が出る場合は、動かす範囲を小さくしてください。痛みを我慢して行う運動ではありません。
初期〜中期:ヒップリフト
目的:大殿筋を鍛え、骨盤と股関節を安定させることです。
- 仰向けで両膝を曲げます。
- お腹へ軽く力を入れます。
- 足裏で床を押し、お尻をゆっくり持ち上げます。
- 肩から膝が一直線になる位置で2〜3秒止めます。
- 10回×2〜3セットを目安に行います。

注意点:お尻を高く上げることより、腰を強く反らさずに殿筋を使うことを意識しましょう。
中期:ファイヤーハイドラント
目的:殿筋と股関節周囲を鍛え、片脚支持時の骨盤の安定性を高めることです。
- 四つんばいになります。
- お腹へ軽く力を入れ、骨盤を水平に保ちます。
- 膝を曲げたまま片脚をゆっくり外側へ上げます。
- 骨盤が傾く手前で止めます。
- 左右10回×2〜3セットを目安に行います。

注意点:脚を大きく開く必要はありません。股関節前面に詰まり感が出る場合は、動かす範囲を小さくしてください。
中期〜復帰期:スクワット
目的:体重を支えながら股関節・膝・足関節を連動させ、ランニングやスポーツ動作へつなげることです。
- 両足を肩幅程度に開いて立ちます。
- つま先と膝を同じ方向へ向けます。
- 股関節と膝を曲げながら重心を下げます。
- 股関節前面に痛みや詰まりが出る手前で止めます。
- 10回×2〜3セットを目安に行います。

注意点:FAIでは、全員が同じ足幅・つま先方向・深さでスクワットする必要はありません。痛みのない姿勢を探しながら行いましょう。
復帰期:片脚スクワット
目的:ランニングや方向転換に必要な、片脚で骨盤と股関節を安定させる能力を高めることです。
- 片脚で立ちます。
- 骨盤を水平に保ちます。
- 股関節と膝をゆっくり曲げます。
- 痛みのない深さから始めます。
- 左右5〜10回×2〜3セットを目安に行います。

注意点:深くしゃがむことよりも、骨盤が大きく傾かず、膝とつま先の方向をコントロールできることを優先してください。
FAIで走ってよい目安
FAIで走ってよいかは、診断からの日数だけでは判断できません。
ジョギング開始前のチェック
- 歩行や階段で強い股関節痛がない
- 日常生活に必要な股関節運動で強い詰まり感がない
- スクワット・片脚立ちを安定して行える
- 運動後や翌日に股関節痛が増えない
ランニングの進め方
- 痛みのないウォーキング・速歩
- 短時間のジョギング
- 連続した軽いジョギング
- 60〜80%程度の直線走と加速・減速
- 高速走・横移動・方向転換
走るほど股関節前面の痛みが強くなる、フォームが崩れる、翌日に症状が増える場合は、負荷を一段階戻してください。
FAIの方向転換・キックへの復帰
直線走ができても、低い姿勢での方向転換やキックでは股関節へ異なる負荷が加わります。
方向転換の進め方
- ゆっくりしたサイドステップ
- 小さい角度の方向転換
- 速度と方向転換角度を上げる
- リアクションや対人を伴う競技動作
最初から深く腰を落とした姿勢で鋭く切り返さず、速度、姿勢、方向転換角度を一つずつ上げます。
キック動作の進め方
- ボールを使わない軽い脚振り
- 近距離のパス
- 中距離のパス
- ロングキック・シュート・走行中のキック
股関節前面の痛みが出る場合は、キックの強度だけでなく、回数や助走速度も調整してください。
FAIのスポーツ復帰基準
FAIのスポーツ復帰は、痛みが少なくなったことだけでなく、筋力、基本動作、競技特有の動作、練習後の反応を合わせて判断します。
- 日常生活で強い股関節痛がなく、必要な可動域を使える
- スクワット・片脚スクワットを安定して行える
- 高速走、減速、方向転換、競技特有の動作で強い痛みがない
- フル練習後と翌日に症状が増えず、復帰への不安が強くない
FAI症候群では、リハビリで改善する人もいますが、保存療法を適切に行ってもスポーツや日常生活への支障が続く場合があります。手術と保存療法を比較した研究では、両群で改善がみられていますが、治療方法は症状や活動レベルなどを踏まえて個別に判断されます[5]。
現場では、個別トレーニング、部分的なチーム練習、フル練習と段階的に戻します。一度動けたかではなく、反復しても翌日に症状が戻らないかまで確認しましょう。
FAIの症状を再び悪化させないために
- 深いしゃがみ込みや方向転換の量を急に増やさない
- 殿筋・体幹・股関節周囲の筋トレを継続する
- 自分に合ったスクワット姿勢や競技動作を身につける
- 練習後と翌日の股関節痛を確認して負荷を調整する
痛みがなくなった直後に、練習量や切り返し、キック数を一度に元へ戻さないことが大切です。
医療機関に相談した方がよい症状
股関節痛がすべてFAIによるものとは限りません。股関節唇損傷や軟骨損傷など、他の問題が関係していることもあります。
- 強い痛みで歩行や日常生活に支障がある
- 股関節が引っかかる、ロッキングする
- 外傷後から急に強い股関節痛が出た
- 夜間痛・安静時痛など通常の運動時痛と異なる症状がある
- 適切に負荷を調整してリハビリしても症状が改善しない
強い引っかかりやロッキング、歩行が難しいほどの痛みがある場合は、セルフリハビリだけで様子を見ないようにしましょう。
よくある質問
FAIでもスクワットしていいですか?
痛みのない範囲であれば行えることがあります。最初は浅いスクワットから始め、股関節前面の詰まり感が出ない足幅・つま先方向・深さを探しましょう。
FAIにストレッチは必要ですか?
必要な可動域を保つ目的では役立つことがありますが、強く伸ばせば骨の形が変わるわけではありません。痛みを我慢して股関節を押し込むストレッチは避けましょう。
FAIでも走っていいですか?
歩行やスクワット、片脚動作で強い痛みがなく、運動後や翌日に悪化しない場合は、短時間のジョギングから再開を検討できます。
筋トレでFAIは改善しますか?
骨の形態そのものは変わりませんが、体幹・殿筋・股関節周囲の筋力を高めることで、痛みや機能が改善する可能性があります[2][3]。
リハビリで改善しない場合は手術が必要ですか?
すぐに手術が必要とは限りません。適切な保存療法を行っても痛みが続き、日常生活や競技に大きな支障がある場合は、整形外科で治療方針を再評価してもらいましょう。
まとめ
今回は、FAIの具体的なリハビリ方法、ストレッチ、筋トレ、ランニング、スポーツ復帰について解説しました。
FAIでは、股関節の詰まり感を我慢して深く動かすのではなく、痛みが出る範囲を一時的に調整しながら、体幹・殿筋・股関節周囲の筋力を高めることが大切です。
その後、スクワット、片脚動作、ジョギング、方向転換、競技練習へ段階的に進めます。
強い痛み、ロッキング、歩行困難、長引く症状がある場合は、自己判断でリハビリを続けず医療機関へ相談してください。
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FAIの疾患解説
股関節の痛みについて
症状が似ている関連疾患
参考文献
[1]Griffin DR et al. The Warwick Agreement on femoroacetabular impingement syndrome (FAI syndrome): an international consensus statement. Br J Sports Med. 2016;50(19):1169-1176. PubMed ID: 27629403
[2]Mallets E et al. Short-term outcomes of conservative treatment for femoroacetabular impingement: a systematic review and meta-analysis. Int J Sports Phys Ther. 2019;14(4):514-524. PubMed ID: 31440404
[3]Hoit G et al. Physiotherapy as an Initial Treatment Option for Femoroacetabular Impingement: A Systematic Review of the Literature and Meta-analysis of 5 Randomized Controlled Trials. Am J Sports Med. 2020;48(8):2042-2050. PubMed ID: 31774704
[4]Wall PDH et al. Personalised Hip Therapy: development of a non-operative protocol to treat femoroacetabular impingement syndrome in the FASHIoN randomised controlled trial. Br J Sports Med. 2016;50(19):1217-1223. PubMed ID: 27629405
[5]Griffin DR et al. Hip arthroscopy versus best conservative care for the treatment of femoroacetabular impingement syndrome (UK FASHIoN): a multicentre randomised controlled trial. Lancet. 2018;391(10136):2225-2235. PubMed ID: 29893223

