
今回は肩鎖関節捻挫/脱臼について、症状、受診の目安、検査、治療、リハビリ、スポーツ復帰まで整理していきます。
肩鎖関節捻挫/脱臼は、転倒やコンタクトプレーで肩の外側を強くぶつけたときに起こりやすいケガです。肩の上の痛みや腫れが強く、鎖骨の外側が浮いて見えることもあります。
受傷直後は見た目だけで重症度を判断しにくいため、痛みや変形が強い場合は適切な診断を受けることが大切です。スポーツ復帰では、肩鎖関節の痛みだけでなく、肩の可動域や筋力、肩甲骨の動き、コンタクトや転倒への対応まで段階的に確認していきます。
- 肩鎖関節捻挫/脱臼の症状と受診の目安
- Rockwood分類と治療方針の考え方
- 保存療法でのリハビリの進め方
- スポーツ復帰で確認したいポイント
肩の痛み全体について整理したい方は、↓の記事も参考にしてください。
肩鎖関節捻挫/脱臼とは?
肩鎖関節は、肩甲骨の肩峰と鎖骨で構成される関節です。肩の最も上に近い部分にあり、肩鎖靭帯や烏口鎖骨靭帯などによって支えられています。
肩鎖関節損傷は、ラグビー、アメリカンフットボール、柔道、サッカー、自転車競技、スキー、スノーボードなどでみられ、肩の外側から強くぶつかる、または転倒して肩の外側から地面に落ちる受傷機転が代表的です[2][3]。

靭帯損傷が軽く大きな転位を伴わないものは「肩鎖関節捻挫」と呼ばれることが多く、損傷が強く鎖骨と肩峰の位置関係が変化したものは「肩鎖関節脱臼」と呼ばれます。
重症度の評価にはRockwood分類が広く用いられ、TypeⅠ〜Ⅵに分けられます[1][2][4]。
- TypeⅠ:肩鎖靭帯の軽度損傷で、大きな転位はみられない
- TypeⅡ:肩鎖靭帯が断裂し、烏口鎖骨靭帯は保たれるものの損傷を伴うことがあり、軽度の転位を認める
- TypeⅢ:肩鎖靭帯と烏口鎖骨靭帯が断裂し、鎖骨の上方転位を伴う
- TypeⅣ〜Ⅵ:鎖骨の転位方向や程度が大きく、手術療法が検討されることが多い

ただし、Rockwood分類だけで治療方針が決まるわけではありません。痛み、不安定感、競技種目、ポジション、仕事で肩を使う量、本人の希望なども含めて判断されます。
TypeⅢは「必ず手術」というわけではありません。まず保存療法が選択されることも多く、症状や不安定性、競技特性などをみながら治療方針を検討します。
肩鎖関節捻挫/脱臼の症状と受診の目安
肩鎖関節を損傷すると、肩の上の痛みや腫れ、押したときの痛みがみられます。腕を上げる、腕を胸の前へ横切らせる、物を持つ、押すといった動作で痛みが強くなることがあります。
- 肩の上に痛みや腫れがある
- 肩鎖関節を押すと痛い
- 腕を動かしたり、腕の重みがかかったりするとつらい
- 腕を胸の前へ横切らせる動きや押す動作で痛む
- 鎖骨の外側が浮いて見える
損傷が大きいほど変形が目立つ傾向がありますが、見た目の変形と痛みや機能低下の程度が必ず一致するわけではありません。また、症状だけで肩鎖関節損傷と断定することはできません。
肩を強くぶつけた後では、肩関節脱臼や鎖骨骨折などを伴うこともあるため、外傷後に痛みが強い場合は医療機関で確認しましょう。
- 強い変形や著しい腫れがある
- 皮膚が強く張っている、または傷を伴っている
- 手のしびれや脱力がある
- 手が冷たい、色がおかしいなど血流の異常が疑われる
- 痛みが非常に強く、腕をほとんど動かせない
病院で行う検査
病院では、受傷した状況、肩鎖関節の圧痛や腫れ、鎖骨の位置、肩の可動域などを確認します。あわせて、神経や血流に問題がないかも評価します。
レントゲン検査は、鎖骨の転位や骨折の有無を確認する基本的な検査です。Rockwood分類の判断にも利用されます[2][4]。
骨折や骨の位置関係を詳しく確認する必要があればCT検査、靭帯やその他の軟部組織損傷、合併損傷を詳しく確認したい場合にはMRI検査が追加されることがあります。
肩鎖関節損傷では上下方向のズレだけでなく、前後方向の不安定性が問題になる場合もあります。症状や不安定感が長く残る場合には、追加の評価が必要になることがあります[2]。
治療|保存療法と手術の考え方
肩鎖関節捻挫/脱臼の治療には、保存療法と手術療法があります。
TypeⅠ・Ⅱでは、一般的に保存療法が選択されます。三角巾などで患部への負担を減らし、痛みが落ち着いてきたら肩の動きや筋力を段階的に回復させていきます[2][3][4]。
TypeⅢでも保存療法が選択されることは多く、手術が長期的な機能を一律に改善するとはいえません。TypeⅢを対象としたランダム化比較試験のメタ解析でも、長期的な機能成績について手術療法の明確な優位性は示されておらず、治療は症状や不安定性、競技・職業上の要求などを踏まえて個別に判断することが重要とされています[7]。
TypeⅣ〜Ⅵでは、転位の程度や方向が大きいため、一般的に手術療法が検討されることが多いです[2]。治療方針は画像所見だけでなく、日常生活や競技で何に困っているかも含めて専門医と相談しましょう。
保存療法のリハビリテーション
ここでは、保存療法でスポーツ復帰を目指す場合の一般的な流れを説明します。回復時期には個人差があり、Rockwood分類、痛みや腫れ、競技特性などによって進み方は変わります。
手術後は固定期間や可動域制限、筋力トレーニングの開始時期が術式によって異なるため、主治医・執刀医のプロトコルを優先してください。
- 運動中に肩鎖関節の痛みが強くならない
- 運動後や翌日に痛みや腫れが増えない
- 可動域や筋力を少しずつ回復させる
- 基本動作から競技動作へ段階的に負荷を上げる
肩鎖関節を守りながら痛みを落ち着かせる
受傷直後は、三角巾などを使用して肩鎖関節への負担を減らします。固定期間は損傷の程度によって異なるため、一律に「○週間」と決めるのではなく、痛みや医師の指示を確認しながら進めます。
受傷直後に痛みや熱感が強い場合は、必要に応じて冷却を行うことがあります。肩を守っている時期でも、肘・手首・指は痛みのない範囲で動かし、周囲のこわばりを防いでいきます。
痛みを我慢して肩を大きく動かしたり、重い物を持ったりする必要はありません。肩を胸の前へ強く横切らせる動きや、肩の外側を強く圧迫する動作も、この時期は症状が出やすいため注意します。
可動域と肩周囲の機能を回復する
安静時や日常生活での痛みが落ち着いてきたら、痛みの少ない範囲から肩を動かしていきます。振り子運動やテーブル上で腕を滑らせる運動などから始め、徐々に挙上範囲を広げます。
同時に、肩甲骨やローテーターカフの働きを回復させていきます。軽い肩甲骨運動、等尺性運動、チューブを使った外旋運動などを、肩鎖関節の症状を確認しながら行います。
さらに負荷を上げる段階では、壁に手をつく、四つ這いで体重移動をする、プランク姿勢へ進むなど、肩で体重を支える動作を段階的に取り入れます。
競技動作へ段階的に進める
肩の可動域や筋力が改善し、体重を支える動作でも痛みが少なくなってきたら、スポーツに近い負荷へ進みます。
ランニングでは、まず腕振りや肩の上下動で痛みが出ないかを確認します。その後、プランクや腕立て伏せ、軽い押す動作などへ進み、競技に必要な負荷へ近づけます。
ラグビーや柔道など接触や転倒を伴う競技では、筋力だけでなく、軽いコンタクト、受け身、転倒動作、対人動作と段階的に進めることが大切です。いきなり全力の接触プレーへ戻すことは避けます。
スポーツ復帰の目安
肩鎖関節損傷後のスポーツ復帰率は比較的高いと報告されていますが、治療方法や損傷の程度、競技によって復帰時期には幅があります[5][6]。そのため、保存療法で「6週」「12週」といった期間だけを基準に復帰を決めることは適切ではありません。
- 日常生活や競技動作で肩鎖関節の痛みがほとんどない
- 肩の可動域や筋力が十分に回復している
- プランク、腕立てなど肩で支える動作を痛みなく行える
- 必要な競技動作やコンタクトに段階的に対応できる
- 練習後や翌日に痛みや腫れが増えない
実際の復帰では、非接触メニューから始め、制限付きの対人練習、通常練習、試合と負荷を広げていきます。競技特異的な復帰基準については十分に統一された研究があるわけではないため、損傷の程度や競技特性を踏まえて医師やリハビリ担当者と判断していきます[6]。
肩甲骨やローテーターカフ、体幹の機能を整えることは、肩全体を安定して使うために大切です。一方、肩鎖関節損傷は強い接触や転倒によって起こることが多いため、筋力トレーニングだけで再受傷を完全に防げるわけではありません。復帰後も接触負荷や練習量を段階的に戻していきましょう。
FAQ(よくある質問)
肩の出っ張りは元に戻りますか?
保存療法で痛みや肩の機能が改善しても、鎖骨の出っ張りが残ることがあります。見た目の変形だけで機能障害の程度は判断できませんが、外観が気になる場合や痛み・不安定感が残る場合は治療方針を相談しましょう。
テーピングやサポーターは必要ですか?
一時的に痛みや不安感を軽減する目的で使用されることがあります。ただし、テーピングやサポーターだけで損傷そのものが治るわけではありません。使用する場合は、損傷の程度や競技に応じて医師やトレーナーへ相談してください。
まとめ
肩鎖関節捻挫/脱臼は、肩の外側への強い衝撃や転倒で起こりやすい外傷です。肩の上に強い痛みや変形がある場合は、骨折やその他の外傷も含めて医療機関で確認することが大切です。
TypeⅠ・Ⅱでは保存療法が中心となり、TypeⅢは症状や競技特性などを含めて治療方法を検討します。リハビリでは週数だけを基準にせず、痛み、可動域、筋力、荷重動作、競技動作を確認しながら段階的に進めます。
スポーツ復帰も「痛みがない」だけで判断せず、実際の競技負荷や接触、運動後・翌日の反応まで確認しながら進めていきましょう。
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参考文献
[1]Mazzocca AD et al. Evaluation and treatment of acromioclavicular joint injuries. Am J Sports Med. 2007;35(2):316-329. PubMed ID: 17251175
[2]Martetschläger F et al. The Diagnosis and Treatment of Acute Dislocation of the Acromioclavicular Joint. Dtsch Arztebl Int. 2019;116(6):89-95. PubMed ID: 30892184
[3]Olsen BS et al. Diagnosis and Nonoperative Treatment of Acromioclavicular Joint Injuries in Athletes and Guide for Return to Play. Clin Sports Med. 2023;42(4):573-587. PubMed ID: 37716722
[4]Sirin E et al. Acromioclavicular joint injuries: diagnosis, classification and ligamentoplasty procedures. EFORT Open Rev. 2018;3(7):426-433. PubMed ID: 30233818
[5]Verstift DE et al. Return to sport after surgical treatment for high-grade (Rockwood III-VI) acromioclavicular dislocation. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2019;27(12):3803-3812. PubMed ID: 31089792
[6]Elliott WC et al. Return to Sport After Acromioclavicular Injury: A Systematic Review of Modifiable Factors. J Clin Med. 2025;14(21):7656. PubMed ID: 41227052
[7]Xie C et al. Comparative efficacy of operative versus conservative treatment for Rockwood type III acromioclavicular joint dislocation: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Musculoskelet Disord. 2024. PubMed ID: 39587562






