
野球でボールを投げると肘が痛い、肘の内側や外側が痛い、肘が伸びにくいといった症状がある場合、野球肘が関係していることがあります。
野球肘は1つの病気の名前ではなく、投球や送球の繰り返しによって起こる肘の障害をまとめた呼び方です。特に成長期では、骨や軟骨が発達途中のため、痛みが軽くても注意が必要なことがあります。
この記事では、野球肘の種類、症状と受診の目安、検査、治療、リハビリテーション、投球復帰の考え方について、選手・保護者・指導者の方にもわかりやすく解説します。
この記事でわかること
✅ 野球肘とはどのような障害か
✅ 肘の内側・外側・後方の痛みの違い
✅ 受診を考えたい症状
✅ 治療とリハビリの考え方
✅ 投球再開・スポーツ復帰のポイント
肘の痛み全体について知りたい方は、関連する肘の痛み|原因と代表疾患一覧もあわせて確認してみてください。
野球肘とは?
野球肘とは、投球や送球を繰り返すことで肘に負担がかかり、痛みや動かしにくさが生じる状態の総称です。
投球動作では、肘の内側には引き伸ばされる力、外側には圧迫される力、肘を伸ばす終末域では後方から後内側にかけて衝突や圧迫のストレスが加わります。どこに負担が集中するかによって、起こりやすい障害も変わります。
主な野球肘は、次のように整理できます。
- 内側型野球肘:肘の内側に痛みが出やすく、成長期では上腕骨内側上顆の骨端障害などが問題になります。
- 外側型野球肘:上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎(OCD)が代表的です。
- 後方型野球肘:肘を伸ばす動作の繰り返しによって、肘後方に痛みや引っかかりが出ることがあります。
- 肘内側側副靱帯(UCL)損傷:骨格が成熟した選手では、投球時の肘内側痛や不安定性の原因になることがあります。
成長期では、骨端や骨軟骨といった発育途中の組織に負担がかかりやすい一方、高校生以降や成人では靱帯や関節内の問題も重要になります。そのため、同じ「肘の内側が痛い」という症状でも、年齢によって考えるべき病態が異なります。

それぞれの病態について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
野球肘の主な症状と受診の目安
野球肘では、痛みの場所や肘の動かしにくさによって、考えるべき障害が変わります。
肘の内側が痛い場合
成長期では内側型野球肘、骨格が成熟した選手ではUCLへの負担などが関係することがあります。投球時や投球後に内側が痛む、投げる量が増えると症状が強くなる場合は注意が必要です。
肘の外側が痛い場合
上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎が関係することがあります。外側型野球肘は初期には痛みがはっきりしないこともあり、肘の伸びにくさや違和感から気づく場合もあります。
肘の後ろが痛い場合
投球時に肘を繰り返し伸ばすことで、肘後方に負担がかかっている可能性があります。肘を伸ばしきったときの痛みや、投球後の後方痛などがみられることがあります。
痛みが強くなくても、肘が以前より伸びない、引っかかる感じがある、球速やコントロールが落ちるといった変化が出ることがあります。

- 肘の内側・外側・後方のどこが痛むか
- 投球中、投球後、翌日のいつ症状が出るか
- 左右を比べて肘が伸びにくくなっていないか
- 引っかかりやロッキングがないか
- 球速、コントロール、投球フォームに変化がないか
セルフチェックだけで野球肘の種類や重症度を判断することはできません。症状を整理し、受診時に医師や専門家へ伝えるための情報として活用してください。
投げるたびに痛む、投球を休んでも痛みが続く、肘が伸びない、引っかかりやロッキングがある、腫れが強い、しびれや脱力がある場合は、投球を続けず整形外科で相談することを検討してください。
特に成長期で肘の外側が痛む場合や、肘の曲げ伸ばしに明らかな制限がある場合は、早めに状態を確認しておくことが大切です。
「少し痛いけれど投げられる」状態でも、肘の中では障害が進んでいることがあります。特に成長期では、痛みを我慢して投げ続けないことが大切です。
野球肘の原因とリスク要因
野球肘は1つの原因だけで起こるものではありません。投球や送球による負荷、疲労、年齢、身体機能、投球動作など、複数の要因が関係します。
若年野球選手では、投球量や年間の投球期間、疲労した状態での投球などと肘・肩の障害との関連が報告されています。一方で、すべての要因について研究結果が一貫しているわけではないため、投球数だけでリスクを判断するのではなく、選手全体の負荷をみることが重要です[1][2]。
試合での投球数だけでなく、練習中の投球、キャッチボール、遠投、守備での送球、複数チームでの活動なども肘への負荷になります。ピッチャーだけでなく、キャッチャーや野手でも送球量が多い選手は注意が必要です。
また、成長期では骨端線や骨端核などの発育途中の部分が負担を受けやすく、小中学生では年齢によって内側上顆の骨端障害や上腕骨小頭OCDの特徴が異なることが報告されています[3]。
投球動作では、下肢・股関節・体幹・肩甲骨・肩・肘・手首が連動してボールへ力を伝えます。身体の使い方が崩れると肘への負担が増える可能性がありますが、「フォームが悪いから野球肘になる」と単純に決めつけることはできません。投球量や疲労を含めて総合的に考えることが大切です。
病院で行う野球肘の検査
病院では、症状、年齢、痛みの場所、投球量などを確認したうえで、身体所見や画像検査を組み合わせて肘の状態を評価します。
問診・身体所見
いつから、どこが、どの動作で痛むかを確認し、肘の可動域、押したときの痛み、腫れ、内側の不安定性、神経症状などを評価します。必要に応じて、肩や肩甲骨、体幹、股関節など投球動作に関わる部位も確認します。
レントゲン検査
成長期の骨端部の変化、骨片、骨の変形、離断性骨軟骨炎など、骨や関節の状態を確認します。年齢や疑われる病態によって、撮影方向を追加することがあります。

超音波(エコー)検査
成長期の内側上顆の状態や、肘内側の靱帯・不安定性などを確認する際に用いられることがあります。若年野球選手では、症状がない時期にみられる内側上顆の超音波異常が、その後の肘障害と関連したという報告もあります[4]。
ただし、無症状のすべての選手に画像検査が必要という意味ではありません。検診で異常を指摘された場合や症状がある場合は、身体所見なども含めて総合的に判断します。
MRI検査
骨髄、軟骨、靱帯、関節内の状態などを詳しく確認できます。特にOCDやUCL損傷、関節内病変などが疑われる場合に検討されます。
検査は「異常があるかどうか」だけを見るものではありません。病態によっては、投球をどの程度休むか、治療をどのように進めるか、投球再開をいつ検討するかを判断するための重要な情報になります。
野球肘の治療
治療方針は、内側型・外側型・後方型・UCL損傷などの病態、年齢、症状、画像所見、競技レベルによって異なります。
保存療法
多くの場合、まずは痛みを悪化させる投球や送球を調整し、肘への負担を減らす保存療法が検討されます。
必要に応じてアイシングなどで症状に対応しながら、肘の可動域や筋力だけでなく、肩・肩甲骨・体幹・股関節・下肢の機能も確認します。大切なのは「肘だけを治す」のではなく、肘に負担が集中している背景も一緒にみていくことです。
手術療法
進行した離断性骨軟骨炎、関節内遊離体、一部のUCL損傷などでは、症状や画像所見、競技レベルによって手術が検討されることがあります。
必要な手術や復帰までの流れは病態によって大きく異なります。手術後は、執刀医・主治医の治療方針やプロトコルを優先してリハビリを進めます。
野球肘のリハビリテーション
野球肘のリハビリでは、肘の痛みを落ち着かせるだけでなく、段階的に「投げられる身体」と「投げられる負荷」へ戻していくことが重要です。
野球肘リハビリの基本的な流れ
- 痛みを悪化させる投球・送球を調整する
- 肘の可動域と患部の状態を整える
- 肩・肩甲骨・体幹・股関節・下肢の機能を改善する
- 投球動作に必要な筋力と身体の連動を取り戻す
- 段階的に投球を再開する
痛みや腫れがある時期は、まず患部への負荷を減らします。肘の曲げ伸ばしに制限がある場合は、病態に合わせて可動域を整えていきますが、痛みを我慢して強く伸ばすことは避けます。
症状が落ち着いてきたら、肘だけでなく、肩関節や肩甲骨の動き、体幹の安定性、股関節や下肢の使い方なども確認します。投球では全身からボールへ力を伝えるため、肘以外の機能も重要です。
その後、投球動作に必要な筋力や身体の連動を高め、キャッチボールへ進みます。進行は単純な経過週数ではなく、その運動を行っても症状が悪化せず、当日夜や翌日まで痛みや腫れが残らないかを確認しながら判断します。
外側型野球肘や関節内病変、UCL損傷などでは、病態によって投球再開の時期や条件が大きく異なります。自己判断で投球を再開せず、医師・理学療法士・アスレティックトレーナーなどと相談しながら進めてください。
投球再開とスポーツ復帰
野球肘からの復帰は、「何週間休んだか」だけで決めるものではありません。病態によって画像所見の確認が必要な場合もあり、肘の状態、可動域、筋力、投球動作、投球後の反応をみながら段階的に進めます。
- 日常生活や必要な運動で肘の痛みがほとんどない
- 肘の可動域が回復し、大きな左右差がない
- 患部の圧痛や腫れが改善している
- 肩・肩甲骨・体幹・下肢を含めた投球に必要な機能が整っている
- 医師や担当する専門家から投球再開が認められている
投球を再開する際は、短い距離で強度を抑えたキャッチボールから始め、距離、球数、強度を少しずつ上げていきます。その後、ポジションに応じてブルペン投球や守備送球、実戦形式へ進めます。
投球中に痛みが出た場合だけでなく、投球後や翌日に痛み、張り、腫れ、可動域低下が残る場合も、負荷が高すぎる可能性があります。その場合は球数や強度を下げ、必要に応じて一つ前の段階へ戻します。
復帰後も、投球数や登板間隔だけでなく、練習・送球を含めた総投球量、疲労、年間を通した休養を確認することが重要です[1][2]。選手が痛みや違和感を早めに伝えられる環境をつくることも、症状の悪化を防ぐうえで大切です。
よくある質問
野球肘は何科を受診すればよいですか?
基本的には整形外科を受診します。成長期の選手や競技を続けている選手では、スポーツ整形外科や成長期のスポーツ障害に詳しい医療機関へ相談できるとよいでしょう。
肘が痛くても投げながら治せますか?
病態によって異なりますが、痛みを我慢しながら投げ続けることはおすすめできません。投球量を調整できる場合もありますが、特に外側の痛み、肘の伸びにくさ、引っかかりやロッキングがある場合は、投球を中止して状態を確認することが大切です。
エコー検査で異常がなければ大丈夫ですか?
エコーは有用な検査の1つですが、すべての野球肘を確認できるわけではありません。症状が続く場合は、身体所見やレントゲン、MRIなどを含めて再評価することがあります。
まとめ
- 野球肘は1つの病気ではなく、内側型・外側型・後方型・UCL損傷などを含む総称です。
- 成長期では骨端や骨軟骨の障害が重要で、痛みが軽くても早めの確認が必要な場合があります。
- 肘が伸びない、外側が痛い、引っかかりやロッキングがある場合は、投球を続けず整形外科への相談を検討してください。
- リハビリと復帰では、肘だけでなく全身機能、投球負荷、投球後や翌日の反応まで確認しながら段階的に進めることが大切です。
参考文献
[1]Fleisig GS et al. Prevention of elbow injuries in youth baseball pitchers. Sports Health. 2012;4(5):419-424. PubMed ID: 23016115
[2]Norton R et al. Risk Factors for Elbow and Shoulder Injuries in Adolescent Baseball Players: A Systematic Review. Am J Sports Med. 2019;47(4):982-990. PubMed ID: 29630388
[3]Otoshi K et al. Age-Specific Prevalence and Clinical Characteristics of Humeral Medial Epicondyle Apophysitis and Osteochondritis Dissecans: Ultrasonographic Assessment of 4249 Players. Orthop J Sports Med. 2017;5(5):2325967117707703. PubMed ID: 28589162
[4]Shitara H et al. Asymptomatic Medial Elbow Ultrasound Abnormality in Youth Baseball Players Is an Independent Risk Factor for Elbow Injury: A Prospective Cohort Study. Orthop J Sports Med. 2021;9(4):2325967120986791. PubMed ID: 33912614

