
今回は、キーンベック病(月状骨軟化症)について解説します。
キーンベック病では、手首の中央〜甲側に痛みが続く、手をつく・強く握ると痛む、手首が動かしにくい、握力が落ちてきたといった症状がみられることがあります。
月状骨に骨壊死が起こる比較的まれな疾患で、原因は一つではありません。また、初期にはレントゲンで明らかな異常が確認できないこともあります[1][2][3]。
この記事では、症状と受診の目安、画像検査、治療、リハビリテーション、スポーツ復帰までをわかりやすく整理します。
手・手首の痛み全体について整理したい方は、以下の記事も参考にしてください。
- キーンベック病とはどのような疾患か
- よくみられる症状と受診を考える目安
- レントゲン・MRI・CTで確認すること
- 保存療法・手術療法とリハビリの考え方
- スポーツ復帰で確認したいポイント
キーンベック病(月状骨軟化症)とは?
キーンベック病とは、手首を構成する手根骨の一つである月状骨に骨壊死が起こる疾患です(図1)。
月状骨は手首の中央付近にあり、前腕の橈骨と接しながら手首に加わる力を受けています。キーンベック病が進行すると、画像上で月状骨の硬化像がみられたり、骨がつぶれる「圧潰」が生じたりすることがあります。さらに進行すると、周囲の手根骨の並びや手関節全体に影響する場合があります[1]。

月状骨は手首のかなり中央にあります。そのため、キーンベック病では親指側や小指側というより、手首の中央〜甲側に痛みを感じることがあります。
キーンベック病の正確な原因は、現在も完全には分かっていません。月状骨の形態や血流、手首へ加わる力など、複数の要因が関係すると考えられています[1][2]。
前腕の尺骨が橈骨より相対的に短い「尺骨マイナスバリアンス」との関連も以前から検討されています(図2)。ただし、尺骨が短いから必ずキーンベック病になるわけではありません。骨の形態だけで発症を説明することはできません[1][2]。

スポーツ選手でもキーンベック病がみられることがありますが、特定の競技や「使いすぎ」が直接の原因になると証明されているわけではありません。
一方で、すでに症状がある場合には、手を床につく、強く握る、押す、ウエイトを持つといった手首への負荷によって痛みが強くなることがあります。症状が続く場合は、痛みを我慢しながら負荷を繰り返さないことが大切です。
キーンベック病の主な症状と受診の目安
キーンベック病では、徐々に手首の痛みや動かしにくさを感じるケースがあります。代表的には次のような症状がみられます[2]。
- 手首の中央〜甲側が痛む
- 手首に腫れやこわばりがある
- 手首を曲げ伸ばししにくい
- 握力が落ち、握る・手をつく動作で痛む
症状の程度には個人差があり、画像でみられる変化と痛みの強さが必ずしも一致するわけではありません。

キーンベック病を症状だけで確定することはできません。手首の中央〜甲側の痛みが続く、反対側より手首が動かしにくい、握力が落ちてきたといった変化は、診断のためのセルフチェックではなく、受診を考える目安として捉えましょう。
特に次のような場合は、整形外科への相談を検討してください。
- 数週間たっても手首中央〜甲側の痛みが改善しない
- 腫れ、可動域の低下、握力低下が続いている
- 外傷後から強い痛みがあり、手を十分に使えない
- しびれや明らかな脱力など、痛み以外の症状を伴う
- 発熱や強い熱感・腫れなど通常と異なる症状がある
また、手首の痛みにはキーンベック病以外にも、手舟状骨骨折、橈骨遠位端骨折、TFCC損傷、有鉤骨鉤骨折などさまざまな原因があります。痛む場所を強く押したり、無理に手をついて痛みを再現したりして、自分で診断する必要はありません。
レントゲンで「異常なし」と言われても、手首中央の痛みが続いている場合は再度相談することがあります。初期のキーンベック病では、MRIが診断に役立つ場合があります[3]。
キーンベック病で行う検査
キーンベック病が疑われる場合は、症状や診察所見に加えて、画像検査で月状骨や周囲の手関節の状態を確認します。
レントゲン検査:月状骨の硬化や圧潰、手根骨の並び、関節症の有無などを確認します。ただし、初期では明らかな変化が確認できないことがあります[3]。
MRI検査:レントゲンでは分かりにくい早期の月状骨内部の変化を確認する際に役立ちます。単純X線で明らかな異常がなくてもキーンベック病が疑われる場合や、病変の状態を詳しく評価する場合に検討されます[3]。
CT検査:月状骨の圧潰や骨折、骨の細かな形態を詳しく確認できます。病期の評価や手術方法を検討する際に用いられることがあります。
キーンベック病のステージ|Lichtman分類
キーンベック病では、画像所見から病期を評価する方法としてLichtman分類が広く用いられています[1]。

一般的には、次のような流れで整理されます。
- Stage I:レントゲンでは明らかな変化が乏しく、MRIなどで異常が確認される段階
- Stage II:月状骨の硬化がみられるものの、明らかな圧潰はない段階
- Stage III:月状骨の圧潰が進み、手根骨の配列や月状骨の状態によってIIIA・IIIB・IIICに分けられる段階
- Stage IV:月状骨だけでなく、周囲の関節にも変形性関節症がみられる段階
病期は治療方針を考えるための重要な情報ですが、ステージだけで治療方法が自動的に決まるわけではありません。年齢、症状、月状骨や軟骨の状態、周囲の関節、手根骨の配列などを合わせて判断します[1]。
キーンベック病の治療
キーンベック病の治療は、病期だけでなく、年齢、症状、月状骨や関節軟骨の状態、手関節全体の状態などによって異なります[1]。
多くの治療方法が報告されていますが、すべての患者さんに対して一つの治療法が最も優れていると断定できる十分な研究はありません。個々の状態に合わせて治療方法を選択することが重要です[1][4]。
保存療法
初期のキーンベック病や、年齢・症状などによっては、まず保存療法が選択されることがあります。
- 装具やギプスなどによる手首の保護・固定
- 手をつく、強く握るなど手首への強い負荷の制限
- 痛みや腫れ、手首の機能の経過確認
- 必要に応じた画像検査を含む定期的なフォロー
固定期間や運動を再開できる時期は、病期や年齢によって異なります。痛みが減ったことだけを理由に、自己判断で固定を外したり強い筋力トレーニングを再開したりしないようにしましょう。
手術療法
症状や病期、月状骨・関節面の状態によっては、手術療法が検討されます。
手術の目的は状態によって異なり、月状骨へ加わる負担を調整する、月状骨の血流や再建を図る、傷んだ関節を安定させるなどの方法があります[1]。
代表的な方法として橈骨短縮骨切り術などのjoint-leveling procedure、血管柄付き骨移植、部分関節固定、近位手根列切除術などがありますが、すべての術式がすべての病期に適しているわけではありません。
キーンベック病では「Stage IIだから必ずこの手術」というように単純には決まりません。同じ病期でも、月状骨や軟骨、手関節の状態によって治療方針が異なることがあります。
成長期では治療方針が異なる
キーンベック病は小児・思春期にも起こることがありますが、18歳未満の症例はまれで、成人ほど治療に関するエビデンスが確立していません[5]。
成長期では、まず固定による保存的治療が検討されることがあります。一方で、これまでの報告には手術例も含まれており、年齢や病期、症状によって対応は異なります[1][5]。
成人の治療期間やスポーツ復帰時期を、そのまま成長期の選手へ当てはめないことが大切です。
キーンベック病のリハビリテーション
キーンベック病のリハビリは、一般的な手首の捻挫のように「痛みが減ったらすぐに動かして筋力を戻す」という考え方だけでは進められません。
月状骨の状態に加えて、保存療法か手術療法か、手術を行った場合はどの術式かによって、手首を動かしたり荷重をかけたりできる時期が異なります。キーンベック病に特化したリハビリテーション研究はまだ限られているため、治療内容に合わせて段階的に進めることが重要です[6]。
おおまかな流れは次のようになります。
- 患部を保護する:固定や装具を使用し、禁止されている手をつく・強く握るなどの負荷を避けます。許可された範囲で手指・肘・肩を動かし、上肢全体の機能低下を防ぎます。
- 手首の動きを戻す:医師から許可が出たら、痛みや腫れが増えない範囲で手関節の曲げ伸ばしや前腕の回内・回外などを少しずつ再開します。
- 握力・手関節周囲の筋力を戻す:軽い握る動作や低負荷の筋力トレーニングから始め、負荷を段階的に高めます。
- 手をつく・押す・強く握る動作を戻す:日常生活での反応を確認しながら、手首に体重をかける動作や競技に必要な負荷へ進めます。
- 競技動作へ戻す:競技特有のグリップ、支持、スイングなどを低い強度から再導入します。
次の段階へ進むときは、運動中の痛みだけでなく、運動後や翌日に痛み・腫れが強くなっていないかも確認します。
- 運動中に手首の痛みが強くならない
- 運動後に腫れや熱感が増えない
- 翌日に手首の痛みが強く残らない
- 治療内容に応じて次の負荷へ進む許可が出ている
手術後は、骨や軟部組織の治癒に必要な期間が術式によって異なります。そのため、キーンベック病全体に対して「術後○週で腕立て伏せ」「○か月で競技復帰」と一律に決めることはできません[6]。
痛みが減ってくると腕立て伏せやウエイトトレーニングを試したくなりますが、痛くないことと、月状骨へ強い負荷をかけてよいことは同じではありません。特に手術後は、執刀医・主治医のプロトコルを優先してください。
キーンベック病のスポーツ復帰
キーンベック病では、スポーツ復帰を「受診から○週間」「手術から○か月」といった期間だけで判断することはできません。
キーンベック病に特化したスポーツ復帰基準を検証した研究は限られています。そのため、治療内容や月状骨の状態に加えて、症状と手首の機能、競技で必要な負荷を合わせて判断します[6]。
復帰を進める際は、主に次のような点を確認します。
- 日常生活で痛みや腫れが十分に落ち着いている
- 競技に必要な手首の可動域と握力が回復している
- 手をつく・握る・押すなど必要な動作を段階的に行える
- 練習後や翌日に症状が増えず、競技負荷を進める許可が得られている
手をつく競技:体操や格闘技などでは、壁への軽い荷重などから始め、四つ這いや軽い支持、競技に近い荷重へ段階的に進めます。手首への荷重が許可されてから行うことが前提です。
握る競技:野球、テニス、ゴルフなどでは、軽いグリップから競技用具を持つ動作へ進み、スイングやインパクトなど競技特有の負荷を段階的に戻します。
ウエイトトレーニング:まずは手首を安定した位置に保ちやすい軽い負荷から開始します。ベンチプレスや腕立て伏せなど手首へ大きな荷重が加わる種目は、痛みの有無だけではなく治療状況を確認して再開します。
スポーツへ戻った後も、一度に元の練習量や重量へ戻すのではなく、手をつく回数、グリップ負荷、ウエイトの重量などを段階的に増やします。症状が再び強くなる場合は、早めに負荷を調整しましょう。
まとめ
- キーンベック病は、手首中央の月状骨に骨壊死が起こる疾患です。
- 手首中央〜甲側の痛み、可動域低下、握力低下が続く場合は整形外科への相談を検討します。
- 初期はレントゲンで分かりにくいことがあり、MRIが診断に役立つ場合があります。
- 治療・リハビリ・スポーツ復帰は病期や治療内容に合わせ、手首の機能と負荷への反応を確認しながら進めます。
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- 手舟状骨骨折:転倒後に親指側の手首が痛む場合
- TFCC損傷:手首の小指側が痛み、捻る動作で症状が出る場合
- 有鉤骨鉤骨折:野球やラケット競技などで、握ると手のひらの小指側が痛む場合
- 橈骨遠位端骨折:転倒後から強い痛みや腫れがある場合
参考文献
[1]Lichtman DM, Pientka WF 2nd. Kienböck Disease: Recent Advances in Understanding and Management. J Bone Joint Surg Am. 2025;107(12):1389-1402. PubMed ID: 40338997
[2]Daly CA, Graf AR. Kienböck Disease: Clinical Presentation, Epidemiology, and Historical Perspective. Hand Clin. 2022;38(4):385-392. PubMed ID: 36244706
[3]Arnaiz J et al. Imaging of Kienböck disease. AJR Am J Roentgenol. 2014;203(1):131-139. PubMed ID: 24951206
[4]Innes L, Strauch RJ. Systematic review of the treatment of Kienböck's disease in its early and late stages. J Hand Surg Am. 2010;35(5):713-717, 717.e1-4. PubMed ID: 20438990
[5]Rex J et al. A Scoping Review of Pediatric Kienböck Disease: What Do We Know? J Hand Surg Glob Online. 2026;8(4):101068. PubMed ID: 42306615
[6]Tenev D et al. Rehabilitation in Kienböck Disease: A Narrative Review of Current Concepts. J Clin Med. 2026;15(14):5590. PubMed ID: 42513502

