
今回は肩関節唇損傷について、症状、受診の目安、検査、治療、リハビリテーション、スポーツ復帰までわかりやすく解説します。
肩関節唇損傷では、投球やスパイクのときに肩の奥が痛む、肩に引っかかりを感じる、脱臼後に「肩が抜けそう」と感じるなどの症状がみられることがあります。
特に野球などのオーバーヘッドスポーツや、ラグビーなどのコンタクトスポーツでは競技動作に影響することがあります。ただし、肩の奥の痛みだけで関節唇損傷と判断することはできないため、症状や受傷状況、身体所見、画像所見を合わせて評価することが大切です[1][2]。
- 肩関節唇損傷とSLAP損傷・Bankart病変の違い
- 投球時の肩の痛みや不安定感などの主な症状
- 受診を考えた方がよい症状と病院で行う検査
- 保存療法・手術療法とリハビリの考え方
- スポーツ復帰を判断するときのポイント
肩の痛み全体について知りたい方は、↓の記事もあわせて確認してみてください。
肩関節唇損傷とは?
肩関節唇は、肩甲骨にある浅い受け皿(関節窩)のふちを取り囲む線維軟骨です。受け皿を少し深くすることで、動きの大きい肩関節の安定性を助けています[1](図1)。
この関節唇が傷んだ状態を肩関節唇損傷と呼びます。損傷する場所や受傷の仕方はいくつかありますが、スポーツでよく問題になる代表的なものがSLAP損傷とBankart(バンカート)病変です。

SLAP(Superior Labrum Anterior to Posterior)損傷は、上腕二頭筋長頭腱が付着する上方の関節唇が傷んだ状態です。投球、サーブ、スパイクなどのオーバーヘッド動作を繰り返す選手にみられるほか、腕を強く引っ張られた場合や転倒などをきっかけに起こることもあります[1][2]。
Bankart病変は、主に肩関節が前方へ脱臼したときに生じる前下方の関節唇損傷です。前方の安定性に関わる組織が損傷するため、脱臼後の不安定感や再脱臼と関係します[5]。

主な症状と受診の目安
SLAP損傷では、投球やスパイクなどで腕を高く上げたときの肩の奥の痛みがみられることがあります。クリック感や引っかかり感、力が入りにくい感覚を伴うこともあります[1][2]。
一方、Bankart病変では肩関節脱臼をきっかけとして、肩が抜けそうな感覚や特定の姿勢での不安感が残ることがあります。
次のような症状が続く場合は、一度スポーツ整形外科などで状態を確認してもらうことを検討してください。
- 投球、サーブ、スパイクのたびに肩の奥が痛む
- 肩に引っかかり感やクリック感がある
- 腕を高く上げたときに痛みや力の入りにくさがある
- 脱臼後に「抜けそう」「外れそう」という不安感が続いている
ただし、これらは関節唇損傷だけに起こる症状ではありません。腱板損傷、肩インピンジメント症候群、上腕二頭筋長頭腱障害などでも似た症状が出ることがあります。
- 肩関節脱臼を疑うような強い外傷があった
- しびれや感覚低下、強い脱力がある
- 手指が冷たい、色が悪いなど血流が心配な症状がある
- 肩が明らかに変形している、または腕をほとんど動かせない
- 強い痛みが続き、日常生活にも大きく影響している
肩が外れている可能性がある場合は、自分で無理に戻そうとせず、医療機関で評価を受けることが大切です。しびれなどを伴う場合には、頚椎由来の神経症状などとの区別が必要になることもあります。
病院で行う検査
肩関節唇損傷では、まず痛みが出たきっかけ、脱臼歴、痛みが出る動作、競技種目などを確認します。そのうえで、肩の可動域や筋力、肩関節の不安定性などを身体診察で評価します[1][2]。
SLAP損傷を疑う身体検査や、前方への不安定性を確認する検査もありますが、1つのテストだけで関節唇損傷を診断できるわけではありません。症状や複数の身体所見を組み合わせて判断します[2]。
画像検査では、必要に応じてMRI検査が行われます。MRIはSLAP損傷を確認するために有用ですが、MRIだけですべての損傷を見つけられるわけではありません[6]。状況によっては造影剤を使用したMR関節造影が検討されることもあります。
また、肩関節脱臼に伴うBankart病変では、骨折や骨性Bankart病変、Hill-Sachs病変などを確認するためにレントゲンやCTを行うことがあります。
肩関節唇損傷の治療
肩関節唇損傷では、損傷のタイプや症状、年齢、競技、肩の不安定性などによって、保存療法または手術療法が検討されます。
SLAP損傷では、活動量を調整しながら可動域や筋力、肩甲骨・体幹の機能を改善する保存療法から始めることがあります[1][2]。アスリートを対象とした系統的レビューでは、保存療法後にスポーツ復帰できる選手がおり、特にリハビリを完遂した選手群では比較的高い復帰率が報告されています[3]。
一方、十分なリハビリを行っても競技時の症状が続く場合などには手術療法が検討されます。術式は年齢、損傷のタイプ、上腕二頭筋長頭腱の状態、競技特性などによって異なるため、SLAP修復術だけが選択肢とは限りません[1]。
Bankart病変では、単に「何回脱臼したか」だけでなく、年齢、初回脱臼か再発か、コンタクトスポーツへの参加、骨損傷の程度、競技レベルなどを踏まえて治療方針を決めます[5][8]。特に若い競技選手では再発リスクなどを考慮し、早い段階から手術療法が検討される場合もあります。
手術を行った場合のリハビリは、修復した部位や術式によって制限が異なります。術後は一般的な期間だけで自己判断せず、執刀医・主治医・担当療法士のプロトコルを優先してください。
肩関節唇損傷のリハビリテーション
保存療法のリハビリでは、「受傷後○週間だから次へ進む」と一律に決めるのではなく、痛み、不安定感、可動域、筋力、運動後の反応などを確認しながら段階的に負荷を戻します[2][7]。
特にSLAP損傷と、肩関節脱臼後のBankart病変では背景が異なります。脱臼後は初期の動作制限が必要になる場合もあるため、医療機関から指示を受けている場合はその内容を優先してください。
初期:症状を落ち着かせ、肩を安全に動かす
- 痛みが強くなる投球・スパイク・コンタクトなどの負荷を調整する
- 指示された範囲で肩の動きを保つ・回復させる
- 痛みや不安定感を出さない範囲で腱板筋を使う
- 肩甲骨や体幹を含めて肩を安定して動かす練習を行う
この時期は、無理に可動域を広げたり、痛みを我慢して筋力トレーニングを進めたりする必要はありません。症状を悪化させる負荷を減らしながら、必要な動きを少しずつ取り戻していきます。
運動中の痛みだけでなく、運動後やその日の夜、翌日に痛みや不安定感が強くなっていないかも確認しましょう。
中期:可動域・筋力・肩甲帯のコントロールを回復する
- 競技に必要な肩の可動域を段階的に回復する
- 腱板や肩甲骨周囲筋の筋力を高める
- 手を壁や床につくなど、体重を支える運動を段階的に行う
- 体幹・下肢を含めた全身の動きを確認する
痛みが落ち着いてきたら、肩だけではなく肩甲骨や体幹を含めた筋力・動作コントロールを高めます。オーバーヘッドスポーツでは、肩だけに負担を集中させないよう、胸郭や体幹、下肢から力を伝える動きも重要です[2][7]。
この段階でも、負荷を上げた翌日に痛みや不安定感が増える場合は、トレーニング量や強度を調整します。
後期:競技動作へ段階的につなげる
- 肩の筋力・持久力を競技レベルへ近づける
- 投球やスパイクは低強度から段階的に負荷を上げる
- コンタクト競技では、安定性を確認しながら接触負荷を戻す
- 競技練習後と翌日の症状反応を確認する
野球ではシャドーピッチングや短い距離の軽いスローから始め、距離、球数、強度を段階的に上げていきます。バレーボールなどでも、軽い打球から通常のスパイクへ徐々に移行します。
Bankart病変など不安定性が問題となる場合は、肩の筋力だけでなく、競技中に腕を大きく動かしたときの不安感や抜けそうな感覚がないことも重要です。
スポーツ復帰の目安
肩関節唇損傷からのスポーツ復帰は、単に「痛くなくなった」「○か月経った」という理由だけで判断するものではありません。肩のスポーツ復帰については、時間だけではなく複数の要素を確認して判断する考え方が推奨されています[7]。
競技復帰へ進むときは、主に次のような点を確認します。
- 必要な肩の可動域が回復している
- 腱板・肩甲骨周囲の筋力が競技に必要なレベルまで戻っている
- 肩の不安定感や「抜けそう」という不安が目立たない
- 投球、スパイク、コンタクトなどの競技特異的動作を段階的に行える
- 練習後や翌日に痛み・不安定感が大きく増えない
SLAP修復術後をまとめた系統的レビューでは、平均のスポーツ復帰時期は約9か月でしたが、復帰率や元の競技レベルへ戻れる割合には競技差があり、特に投手では復帰が難しくなる傾向が報告されています[4]。この数字はあくまで研究集団の平均であり、個人の復帰時期を決めるものではありません。
また、肩関節脱臼・Bankart病変では、年齢、骨損傷、手術方法、競技種目などによって復帰時期や必要な準備が変わります[8]。実際の復帰は、医師や理学療法士、アスレティックトレーナーなどと相談しながら段階的に進めましょう。
まとめ
- 肩関節唇損傷には、SLAP損傷やBankart病変などさまざまなタイプがあります。
- 投球時の肩の奥の痛みや脱臼後の不安定感が続く場合は、症状だけで自己判断せず評価を受けることが大切です。
- 治療やリハビリは損傷タイプ、年齢、競技、不安定性などによって異なります。
- スポーツ復帰は期間だけでなく、可動域・筋力・不安定感・競技動作への反応を確認しながら進めましょう。
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参考文献
[1]LeVasseur MR et al. SLAP tears and return to sport and work: current concepts. J ISAKOS. 2021;6(4):204-211. PubMed ID: 34272296
[2]Michener LA et al. National Athletic Trainers' Association Position Statement: Evaluation, Management, and Outcomes of and Return-to-Play Criteria for Overhead Athletes With Superior Labral Anterior-Posterior Injuries. J Athl Train. 2018;53(3):209-229. PubMed ID: 29624450
[3]Steinmetz RG et al. Return to play following nonsurgical management of superior labrum anterior-posterior tears: a systematic review. J Shoulder Elbow Surg. 2022;31(6):1323-1333. PubMed ID: 35063641
[4]Thayaparan A et al. Return to Sport After Arthroscopic Superior Labral Anterior-Posterior Repair: A Systematic Review. Sports Health. 2019;11(6):520-527. PubMed ID: 31584340
[5]Asiri FAM et al. Systematic Review of Arthroscopic Bankart Repair Outcomes for Anterior Shoulder Instability. Med Sci Monit. 2024;30:e945942. PubMed ID: 39428642
[6]Nosratpour M et al. Diagnostic accuracy of magnetic resonance imaging for detecting superior labrum anterior to posterior lesions: a systematic review and meta-analysis. JSES Int. 2025;9(6):1972-1987. PubMed ID: 41584531
[7]Schwank A et al. 2022 Bern Consensus Statement on Shoulder Injury Prevention, Rehabilitation, and Return to Sport for Athletes at All Participation Levels. J Orthop Sports Phys Ther. 2022;52(1):11-28. PubMed ID: 34972489
[8]Alentorn-Geli E et al. Age- and time-specific management of traumatic anterior shoulder instability: The 2024 ESSKA-ESA Formal Consensus. Part 2: Treatment and return to sports. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2026;34(8):3040-3051. PubMed ID: 42340356


